第20話 メッセージ

ふわりと全体的にまとまった黒髪に優しそうな表情。身長は高くそれなりに筋肉も付いているようで、雨竜を見ていなかったらイケメン界のトップに躍り出ていそうな逸材だった。


今、晴華の名前を呼んでいたが、もしかしてこの人が……


「今泉先輩?」


無意識なのか、晴華は僕から1歩距離を取って彼に返答した。


やはり、この人が晴華の彼氏である今泉先輩とやらなのか。去年同じ学校だったらしいが、さすがに見たことない人は覚えていないな。見たことある人でも忘れてばっかりなのに。


「どうしてここに?」

「あれ、ライン見てない? 別件で近く寄るから会えないかなってメッセージ入れてたんだけど」

「ホントですか!?」

「気にしないで、終礼くらいの時間に送ってるから。見てなくてもしょうがないし」


晴華との会話を聞きながら、今泉という人間を観察する。


喋り方も穏やかで、ザ・好青年といった印象。強いて欠点を上げるなら面白みに欠けそうなところだが、そんなこと僕に指摘されるだけ余計なお世話だろう。


「……えっと」


晴華との話に区切りが着いたのか、今泉さんの視線が僕に移る。


「君は確か、廣瀬君だったね」

「あれ、どこかで話しましたっけ?」

「いや、俺が一方的に知ってるだけだよ。青八木と一緒に居るのを何度か見かけてるから」


そうか、この人元バスケ部の部長だったんだっけ。雨竜ともコミュニケーションは取ってただろうし、その中で僕の話を聞いてても不思議ではないか。いや、勝手に僕を話題に出すなよ。


「それで、2人はどうしてここに?」


先ほどとは打って変わって、どこか不安げな表情で僕らを見る今泉さん。晴華の彼氏という立場であれば当然であるが。


「えっと、それは……」


突然の彼氏の問いに困惑しているのか、上手く説明できずに言い淀む晴華。アホ、そんな反応してたら疚しいことがなくても怪しまれるじゃないか。


「体育祭の特訓です、男女混合二人三脚って覚えてないですか?」

「ああ、覚えてるよ。俺も去年は出場してたし」

「それに参加するので2人で練習してました。場所がここなのは学校だと部活の邪魔になるってだけです、先生の許可はもらってます」

「理由は分かったけど随分早くから練習するんだな。体育祭なんてまだ先だろ?」

「相手が青八木なので。神代さんとも早めに練習しておきたいってなりました」

「成る程」


よし。これで僕と晴華の不自然な会合に納得はしただろう。後は若い2人で仲良くやってくれ。


「それじゃ、僕は先に戻るので」

「えっ、ちょユッキー……!」


晴華が何かを言い掛けていたが、無視して迅速に公園を去ることにする。


とんだアクシデントだ、まさか今泉さんが登場するなんて。ここって晴華の家の近くらしいけど、ここまではアイツを送ったりしてるんだろうか。


ってどうでもいいわ、これ以上は僕に関係ないことだ。あれこれ考えるのは晴華の仕事である。



……しかしなあ、疚しいことはないと思ったが、晴華との約束の件はどうなるんだろうか。僕から吹っかけた約束ではないが、内容自体は僕マターになる。彼氏が居る相手ってことを考慮しなくちゃいけないんだろうか、面倒臭いことこの上ないな。


まあいいや、雨竜に勝ってから考えよう。二人三脚には今日で慣れたし、明日から完成度を高めなければ。


そんなことを考えながら、僕は学校へ戻るのであった。



―*―



晴華との練習を終えて帰宅後、僕はラインに来ているメッセージを返すことにした。昼休みの放送後にいろいろ来ていたらしいが、見るのが面倒で確認していなかった。


えっ、移動中は何してたって? 電車に蔓延る面白そうなこと発掘に勤しんでいて、スマホを見ている余裕なんてないのさ。残念ながら収穫らしい収穫はなかったが、唐突にブレイクダンスする奇人なんかは居ないものだろうか。


まあいい。それはそれこれはこれ。遅くなってもメッセージは返さなくては。


『今すぐ教室に戻りなさい』


出雲からのメッセージだった。こういうのってなんて返すのが良いんだろう、『すまん、見てなかったとか』でいいんだろうか。


『きょ、教室? 学校にはたくさんありますよ?』


こんなんでいいか。出雲もまともな返答がくるとは思ってないだろ。アイツとは教室では会うんだし最悪その時に話せばいいや。次だ次。


『廣瀬君、今回はすっごいやる気なんだね! 僕も同じ団だから一緒に頑張ろう!』


へえ、翔輝とは同じ団なのか。どうでもいいな。それよりお前は僕が晴華と組むことを少しは心配しろ。知らないだけかもしらないが。


『かき氷のシロップって全部同じ味ってホントなのか?』


試して感想を聞かせてもらおう。協力が必要なら手は貸すので。


『面白い放送だったけど勝利は譲らないわよ、あたしが青八木と組むんだから』


真宵の奴め、早速連絡を入れてきたな。雨竜とのタッグ、相手にとって不足無し。


『ちなみにですけど、手を抜いてくれたりってします?』


不足どころかコップからはみ出してるので交渉させてください。乗ってくれるわけないのは知ってるんですけど、精神面に攻撃は仕掛けたいので。ホントすみません。


『あんまり頑張りすぎないように、雪矢君無茶ばっかりするし。怪我したら言ってね、保健室で待ってるから』


美晴さん、有り難いお言葉ありがとうございます。1つ聞きたいんですが、名誉保健委員ってどこまで権力をお持ちなんですか?


『怪我は男の勲章なので。負ってナンボみたいなところあるので』


僕は何を書いて送ってるんだろう。素直に『お気遣いどうも』とかで良かったと思うんだが、エンターテイナーの血が憎いな。まあ美晴なら仏の心で受け入れるだろう。


『ピンチです! 青八木先輩と名取先輩が二人三脚でコンビを組むみたいなんですけどどうしましょう!?』


そうか、雨竜との対決は蘭童殿にとってはよろしくない事態なのか。僕が促したことだし、フォローに入らなければなるまい。


『うむ、今度対策会議をしよう。昼食なら付き合えるから』


これでいいか。正直今は具体的な対策は思い付かないが、蘭童殿の突拍子もない意見を聞いてたら何か思い付くかもしれない。


はあ、疲れた。ここまで結構時間を使ったのに、未読のメッセージがまだ2つもある。ラインはこまめに返すに限るな、慣れていないとはいえ疲労がグッとくる。


さて、お次のメッセージはと。


『放送聞きました、青八木先輩と勝負するんですか!? クラスは青八木先輩を応援する声が多いですけど、私は廣瀬先輩の味方ですので! お手伝いできることがあったら言ってください!』


あいちゃん、癒し。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る