第21話 独白2

「……疲れた」


自宅の湯船に浸かりながら、晴華は誰に伝えるでもなくボソリと呟いた。いつものポニーテールは解き、湯船に入らないようタオルでまとめている。友だちはおろか、今や家族にさえ髪を下ろしている姿はほとんど見せていない。それが彼女にとっての"普通"であり、周りにとっての"普通"であると思っていた。


「……」


入浴剤の入った水面をぼんやり見つめながら、晴華は思考する。



……今泉先輩が、あの場に現れるとは思わなかった。



公園自体には一緒に来たことがある。彼が自分を送ってくれる際、兄の件もあって家に来てもらうわけには行かないため、折衷案であの場所まで送ってもらっていたのだ。今日は大学の友人と近くで遊んでいた為寄ったそうだが、こちらの返答無しに実行するとは思わなかった。彼はいつも、自分の意見を最優先してくれていたから。


実際今日も話してみて、少しだけ様子が違っていたように思う。理由は分かっている、自分が彼氏でもない相手と2人きりで居たからだろう。実際、先程まで一緒に居た相手――――廣瀬雪矢についてずっと訊かれていた。


訊かれたといってもフランクにだ。今泉も雪矢の噂は聞いていたので、仲良くしていて問題ないのか気になっていたのだろう。ただの友人である旨を伝えれば彼もあっさり引き下がり、別の話題に移っている。紛らわしい行動を取っているのは自分なのに、この人は本当に優しく接してくれている。


そんな風に接してくれる度、どうして自分なのだろうと晴華は思う。恋愛に前向きになれない自分でさえなければ、今頃彼はもっと華やかな生活を送れているはずだ。


ただ、夏休みに誕生日プレゼントを渡した時の彼は、本当に嬉しそうにしてくれていた。自分あいてだからこそここまで喜んでくれているのだと思うと、晴華の中にも準備して良かったとポジティブな気持ちは生まれていた。今はまだ考えられなくても、これから恋愛について考えられるようになると思っていた。


だが、今晴華の中で引っかかっていたことは別のことだった。



『神代さんとも早めに練習しておきたいってなりました』



雪矢が言った言葉。いつもの呼び方ではなく名字にさん付けされたことが気になってしょうがなかった。


分かっている。今泉にあらぬ疑いを掛けられないよう配慮したことなんて分かり切っている。頭の回転の速い雪矢ならそういう風に気を遣ってくれてもおかしくない。


だからこそ嫌だった。自由奔放な姿が魅力的な彼に、言動を制限させているという事実が気持ち悪かった。


特に雪矢の名前呼びは友人としての証である。ずっとフルネームで呼ばれ続けていた晴華にとって、何より変えて欲しくないところだった。



「……あたし、欲張りなのかな」



お湯でふやけた両手で自分の顔を覆う。恋愛を頑張りたいと思う自分と、友人関係を崩したくない自分がせめぎ合っている。



少なくとも、恋愛のせいで友人が気を遣ってしまうことに晴華は懐疑的だった。




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