4章 体育祭と願い事
第0話 独白
どうして友だちじゃダメなのだろうか。
そう思う瞬間を、両手で数え切れないほど経験してきた。足の指を合わせても数え切れない。人によっては羨ましい体験らしいが、自分にとっては混乱の連続だ。
友だちとして話し、友だちとして遊び、友だちとして笑う。それで満足できる自分にとって、その先を考えたことはない。そもそもその先というのは何なのか。何が望みだというのか、これまでと違う何かが見えてくるというのか。
自分が恵まれているという自覚はある。家族に愛され、友人には恵まれ、楽しい日々を過ごしてきた。
でも、中学に上がってから状況が変わる。友人からの変化を望む相手が増える。今まで普通に話していた相手が、急に丁寧語で懇願する。好奇心より恐怖心が増し、とてもじゃないが了承できる状況じゃない。好意のあるなしの問題じゃない、自分の価値観とは合わないものなのだ。
ただ、ホントに恐ろしいのはそれから。仲の良かった相手との交流が消える。たった1度相手を受け入れなかっただけで、友人が1人いなくなった。それが普通だと促す周りの空気が怖くて仕方なかった。
それなのに、自分へ気持ちを伝える人間が増えてくる。向けられている好意が嬉しいはずなのに、改まって言われるのが嫌だった。その儀式を迎えると、相手との交流が減ってしまうからだった。
次第に、友人たちがのっぺらぼうに見えてくる。皆が皆同じようなことを考えており、判別ができなくなる。「可愛い」や「綺麗」という言葉をあまり嬉しく感じなくなったのは、きっとこのせいだろう。どうして不自然に自分の気を引こうとするのか。こちらはこちらなりに仲良くなっているつもりなのに。
変わらないままでいることは、できないのだろうか。
分かっている。小学生の頃より男女が分かれて接する機会が増えているのも分かっている。今までの普通が普通じゃなくなっていることも分かっている。
それでも自分は、変わりたくなかった。今まで通りの生き方をしている自分が好きだった。
しかしながら、高校に入ってから世界が変わる。
自分と同じような苦労をしている人と、自分以上の苦労を重ねている人に出会ったからだ。自分だけではないと思うと、自然と心が軽くなる。のっぺらぼうではない彼らと仲良くなることで、中学の頃より楽しい生活をすることができた。
ただ、中学からの不要な儀式がなくなるわけではない。そこだけが心残りだが、どうにかできる問題ではないのも理解できている。同じ学校に異性が居る限り、そういった環境と隣り合わせなのは仕方ないこと。
どうして友だちじゃダメなのだろうか。
自分より苦労している友人に尋ねるが、それが分かれば苦労はしないよと言われた。ちょっとだけ壁を感じるが、それが友人の接し方で、おべっかを使われるよりはマシだ。こういう距離感、本音を言うともっと砕けた距離感で話せる相手はいないだろうか。
同性からは何度も注意をされるが、自分は普通に仲良くなりたいだけ。例え良くない結果を迎えようとも、自分にとっての普通を皆に押しつけたかった。
そして、収穫のないまま1学期が終わる。夏休みを友だちや部活仲間と過ごし、2学期を迎える。体育祭や文化祭に期待を寄せながら登校する。
ここが転機。人生における転機。大袈裟ではない、今まで気付かなかったのが不思議なくらいである。
――――自分が望む『普通』を体現してくれる逸材は、意外にも近くに存在していたのだ。
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