3章下 期末試験と勉強合宿

第0話 あるところに

あるところに、ちょっと生意気で可愛らしい少年がいました。女の子に間違われることも多々あるほど、それはもう可愛らしい少年でした。


父から多大なる愛情を受けて育った少年は、多少人見知りのところはありましたが、学校ではクラスの友達と仲良く過ごしていました。


小学校を卒業し、中学校へ上がってからも、少年は友達を作って仲良く過ごしていました。


ですがある日、その見た目のからかい易さもあってから、リーダー格のクラスメートから弄られるようになりました。原因は、そのクラスメートが好きな女子と少年が仲が良かったことでした。


初めは軽いちょっかいや机に身体をぶつけてくる程度でしたが、少しずつ弄りはエスカレートしてきました。黒板消しを落とされたり教科書に落書きされたりなど、被害は少しずつ大きくなっていきます。


そういったからかいと呼ぶには度が過ぎる行為を受け続け、少年は困ってしまいます。


――――ということはまったくなく、少年は幼稚過ぎるクラスメートの行動に動じるどころか鼻で笑って無視するような男の子でした。相手にするだけ馬鹿を見る、そんな風に思いながら軽くあしらっていました。


しかしながら、少年の怒りは少しずつ込み上がってきます。相手にする方が馬鹿なのは理解していますが、自分の持ち物に手を付けられるのは正直腹が立っていました。余計なお金が掛かるし、何より少年は父に心配をかけたくなかったのです。


そんな膨れあがった感情が爆発したのは、その後すぐでした。


少年を弄っていたクラスメートは、少年の友人にも攻撃してしまったのです。ゴミ箱に捨てられた筆箱を泣きながら拾う友人の姿を見て、少年の堪忍袋の緒は切れてしまいました。


今まで溜まっていた分も含め、少年はとことん仕返しをしてやりました。2度と少年たちを弄りたいと思えないくらい追い込んでやりました。


結果、クラスメートからの弄りはなくなりました。少年の完全勝利です。これで誰も悲しむことはなくなる、一件落着になるはずでした。


だが、一件落着にはなりませんでした。クラスメートに仕返しをする少年を見て、友人たちは少年から距離を取るようになりました。恐怖心が先行して、少年と仲良くできる気がしなくなったからです。


少年は絶望しました。自分が弄られていることを知っているのに、どうしてやり返して距離を取られるのか。友人を助けようと思っただけなのに、どうして自分だけが責められるのか。そもそもの元凶が悪かったと、どうして誰も言ってくれないのか。


やり過ぎたことは反省している。だとしても少年を庇う声があっても良かったのではないか。


そこで少年は気付きます。自分が弄られ始めたとき、誰もそれを止めようとしてくれなかったこと。自分が標的になるのを怖がって、自分のように行動を起こした者はいなかったこと。


――――今やリーダー格より恐れられている自分が、避けられてしまっていること。


少年は全てがどうでもよくなりました。友人なんかに拘っていた自分が愚かだったのだと思うようになりました。



そして、友人など不要だと思うようになりました。



中学1年のその日以来、少年は友人作りをやめました。馴れ馴れしく近付いてくる相手には、暴言を吐いて遠ざけるようになりました。


1人で生活することが、当たり前のようになりました。


正しいか正しくないかではありません。そうすることでしか、少年は生きていける気がしなかったのです。前に進める気がしなかったのです。


その事件から4年経った今でも、少年はそのスタンスを変えていないとか。


これから変えるつもりはあるのか、変えたいという気持ちはあるのか、それはその少年のみぞ知ることなのです。

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