第29話 至高の思考

落ち着け僕。神代晴華がウルルンに乗っかった以上、僕に質問が流れてくるのは容易に想像できる。それまでに考えを整理しなくてはならない。


僕は神代晴華をシロだと判定したが、ゲームが好きな異性を嫌いそうと言った以上、考えを改める必要がある。彼女は僕がゲーム好きであることを知らないが、だからといってここまで好き嫌いを断言できるほど極端な表現を使うとは思えない。つまり神代晴華のお題も、割と尖ったものであると考えられる。



……やべえなこりゃ、また僕が仲間はずれの可能性があるぞ。



「どうユッキー? ウルルンとあたしの意見、当たってる?」

「その前にお前がどう思うか言えや」

「ええ!? 司会しながら結構言ってると思うけど!」


話題をずらして、少しでも思考の時間を稼ぐ。


僕が仲間はずれなら、コイツらに乗っかって嫌い宣言をするのは間違っていない。わざわざ僕の印象を与えてくれるんだ、嘘でも話を合わせた方が疑われにくくなるだろう。


しかしながら、話を振ってきたのがウルルンで乗ってきたのが神代晴華となれば、2人で僕をハメに来ている可能性がある。曖昧な表現で逃げようものなら、この後の質問でロックオンされる恐れがある。


つまるところ、相手のお題を想定して動いた方がいいということだ。


「さっきはお前にしてやられたからな、お前が言うまで僕は言わん」

「そう言われても、だいたい感想はマヨねえと一緒なんだけどなぁ。あたしは1人でするのに興味はないけどさ」


再度神代晴華に突っかかり、その間に脳をフル回転させる僕。


情報として大きいのは、雨竜が曖昧な表現をしていることと、名取真宵が好意的で、自分もすると言っていたこと。


○○が好きな異性というのがお題だとして、ゲーム好きなら雨竜は好意的に捉えるはずである。そうでなくとも、スポーツが好きな異性や音楽が好きな異性といった広義的なものであれば、好意的に捉えやすいはずなのだ。


だから今回のお題は、セパタクローが好きな異性やヒップホップが好きな異性といった、焦点を絞った話題である可能性が高い。広義的には野菜が好きでも、トマトだけは嫌いといった人間はいくらでもいるのだから。


そうなると、お題を当てるというのは途方もなく険しい道を歩くようなものである。スポーツ好きではなく、バスケ好きなのかサッカー好きなのかその他スポーツなのか、1つ1つ検証しなくてはいけないからだ。


当然そんな時間はないため、雨竜ですらぼかす良い印象ではないお題を、名取真宵の返答から紐解いていく必要がある。


名取真宵が好きそう、つまり名取真宵という人間を知っていたらなんとなく想像がつくということだろう。


それはきっと、ゲーム好きといった情報として知ってるかどうかで判断できるものではなく、内面から滲み出ているという意味。


名取真宵か、そんなに話したことがないから内面なんてよく分からん。僕に対して失礼というのが真っ先に浮かんだが、それは他の奴らにも共通することだった。


元イジメっ子で陰気臭いイメージもあったが、今は完全に払拭され、どちらかというと自信溢れるイメージの方が強い。体育館で話した時は、いかに自分のスタイルが優れているか主張していたからな。



『プラスに捉えることもできると思うよ。自信がある人にとっては』



その時、先程月影美晴が言った言葉を思い出していた。


自信がある、確かに月影美晴はそう言っていた。


あの時の僕はゲームの実力を指しているのだと思ったが、これも情報として知っていたら判断できる内容だった。


そうじゃない。ここでいう自信があるに繋がるのは、見た目のことなんじゃないか。


見た目に自信がある人なら、プラスに捉えることができる。こう解釈すれば、名取真宵に行き着くのもなんとなく理解できる。これ、結構いい線いってるんじゃないか?


となれば、見た目に自信がある人が好きそうなことを考えればいい。いや、見た目に自信がない人が嫌そうなことを考えた方がいいか。


日常生活からそういった光景を想像していき、



ーーーーそこで僕が真っ先に思いついたのは、『写真』だった。



これだ、これしかない。

見た目という枠組みで考えるなら、写真ほど明確に形にして残せるものはないだろう。確かに、名取真宵が好きそうと言われれば同意できなくもない。


だが、『写真が好きな異性』というお題だとしたら、漠然とし過ぎている気がする。これだとカメラマン的テイストも含まれているので、意味合いが微妙に違ってくる。


「ほらユッキー、今一生懸命話したから! 今度こそユッキーの番だから!」


ほぼまとまり切ったベストタイミングで神代晴華が僕に話を振ってくる。僕の指摘を受けていろいろ語ってくれたみたいだがすまん、聞いてなかった。


その代わりと言っちゃなんだが、しっかり場を掻き乱してやるから最後まで楽しんでくれや。



「結論から言うが悪印象はないぞ、堂々としてるのは嫌いじゃないからな」

「あっそうか。ユッキーってそういうのしっかり褒めてくれるタイプだもんね」

「うっそだあ、確かに堂々とはしてるけどお前の好きな方向性じゃなくないか?」

「僕の方向性を決めつけるな。2人や3人でやって逃げてるのに興味はないが」

「はっ、逃げてるんじゃなくて盛り上がってるんだけど?」

「どうどうマヨねえ落ち着いて。ウルルンも言ったけどユッキーとはプラスの考え方が違うんだから」

「ウルルンじゃないけどな」


そこで話は途切れ、僕はまったく不審に思われることはなく、ターゲットが桐田朱里やら堀本翔輝やらに変わっていく。時折僕へ質問が飛んでくるが、お題が『写真を撮られるのが好きな異性』という前提で堂々と話せば、必要以上に突っ込まれることはなかった。



「えー、全然分かんないー」



3分が経ち、誰が仲間外れか投票タイムになったが、神代晴華は分かりやすく頭を抱えていた。初戦と違い、明確に怪しい人間が出ていないからである。


僕はすぐさま投票して結論を出させたいが、それを仲間外れの判断材料にされてしまっては困るので黙っている。先程僕が仲間外れだったせいか、無意識に僕を選択肢に外しているのが分かって口元が緩みそうだった。


「じゃあ今からカウントするから怪しい人指差してね。3、2、1!」


神代晴華の掛け声で、各々が仲間外れだと思う人間に指を差す。


1番多かったのは4票入っている堀本翔輝、緊張していたのか説明が下手くそで、怪しく見えてしまった可哀想な男だ。当然僕も堀本翔輝を指している。


それ以外だと月影美晴に1票と桐田朱里に1票。


そしてーーーーウルルンが僕に1票入れていた。


顔には出なかったが僕は一瞬心臓が跳ね上がっていた。分からなくて適当なのか野生の勘で投票したのか知らないが、あの3分間で僕が1番怪しいと思ったんなら大した奴だ。


「うそぉ!? またユッキー!?」

「しかもゲーム好きって、全然内容違うじゃない!」

「当然、貴様らのお題など分かりきっていたからな」


驚き溢れる神代晴華と名取真宵を見下すように口角を上げて笑う僕。やばいやばい、今僕最高に気持ちいい。


結果発表されたスマホ画面を見ると、主のお題が『自撮りが好きな異性』であることが分かった。まあほとんど正解みたいなものだろ、ノーヒントから思い付いたと思えば上々である。


「雪矢君すごい、よく分かったね」

「こういう時の雪矢は無駄に頭が回るからな」

「あはは雨竜君や、ちょっと負け惜しみが甚だしいのでは?」


僕の圧倒的勝利だったからな。気持ちは分かるが口に出したら小物に見えるぜ。月影美晴のように素直に僕を賞賛しておけばいいものを。



「……というかこのアプリ、全然お題が類似しないんだけど」



うん、それが1番の問題だな。

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