第28話 2回戦
「ふっっざけるな!!」
「あははは!!」
僕は笑いの絶えない素敵な現場で、大いなる理不尽をひどく嘆いていた。
結論から言えば仲間はずれは僕で、お題を当てることができずに敗北していた。
ここで誤解しないで欲しいのは、お題を当てられなかったことを怒っているわけではない。選定されたお題そのものに怒りを感じているのである。
皆の反応を見て早々に自分が仲間はずれだと確信した僕は、何とか情報を引き出そうと多数派に対して質問を重ねていた。お題さえ当てれば僕が勝つことはできるのだから。
しかしながら、既に仲間はずれを見つけているコイツらは僕に大した情報を共有することなく、確実に僕の反応を楽しんでいた。迂闊な行動をしたのは僕だからそれを責めることはできないが、桐田朱里や堀本翔輝がぼんやりと意見をくれるため、僕は僕なりに回答を得ることが出来た。
僕は、コイツらのお題は『結婚』だと思っていた。恋愛絡みでお題になりそうなもので、僕や堀本翔輝が100%あり得ないものといえばずばり結婚だ。そう考えれば僕が初っ端に自爆した理由は分かる、『したことあるか』なんて質問自体が根本的におかしかったのだ。
遠距離恋愛と対になるお題が結婚であることに疑問を覚えていたが、勝利を確信していた僕はそこまで気にしていなかった。「まだだ、まだ笑うな」状態を継続し、制限時間が過ぎて仲間はずれに選ばれてから、堂々とお題を主張した。「僕の勝ちだ、貴様ら」なんて思わず呟いていたのだが。
「何が『お見合い結婚』だよ!! 分かるわけないだろ!?」
残念ながらお題は意味不明な修飾語がついており、僕は1ゲームで2度目の敗北を味わうことになった。僕があまりに堂々としていたからであろう、談話スペースは再び笑い声に包まれている。
「僕の勝ちだ貴様ら、だってぇ……!」
「やめてぇ! お腹痛いから!」
名取真宵と神代晴華が身をよじりながら笑い続けている。お題がおかしいという僕の主張が正しいはずなのに、『決め台詞を放って負けた僕』という話題から話が逸れてくれない。なんだこの惨めな扱いは。
「ああもう! いつまでも笑ってんじゃねえよ! さっさとリベンジさせろ!!」
僕は机の中央にあるスマホを操作し、スタート画面に戻してから神代晴華に投げつける。
こんな敗北のまま終わって堪るか、圧倒的な勝利を掴んでやる。
「じゃあユッキーが2回戦をご所望だからすぐ始めるね」
「いらんこと言わんでいい!」
笑いすぎて涙が出たのか、目元を拭いながら再び操作を開始する神代晴華。今思えば、コイツが僕の味方のフリしてハメにきてたんだよな。経験者のテクニックなのだろうが僕には2度と通用しない、気を許す危険性を身を以て味わったからな。
前回の反省をしながら、僕は渡されたスマホのお題を見る。『ゲームが好きな異性』、これまた恋愛絡みのお題のようだ。普通に考えればもう1つのお題は『絵を描くのが好きな異性』とか『スポーツが好きな異性』みたいなものがくると思うが、初回のお題が予想外すぎて思考を放棄したくなる。いずれにせよ、皆の会話を聞いて自分が多数派か読み取るべきだろう。
「よーし、じゃあ開始!」
そうして始まったワード人狼2回目だが、再び沈黙が訪れてしまう。ゲームの趣旨と相反する状況だが、僕の惨状見てしまえば慎重になりたくもなるだろう。廣瀬雪矢は犠牲になったのだ、ワード人狼という初心者を容赦なく痛めつけるゲームの犠牲にな。
「あれ、ユッキー何も言わないの?」
「うるさい。僕はしばらく何も言わん」
からかうように語りかけてくる神代晴華を門前払いする僕。つまらないと思われようとも、今回ばかりは何も言わないと決めた。誰も文句は言わない辺り、緒戦の件が尾を引いているかもしれない。気を遣ってくれるのは別に良いが、早く忘れてください。決め台詞も一緒に。
「しょうがない! あたしが今回司会やろうかな!」
何も進まない状況に痺れを切らせた神代晴華が、隣に座る月影美晴に目を向ける。
「ミハちゃんはこれ、どう思う?」
彼女の質問を耳にして、僕は思わず額に手を当ててしまった。
そうか、そんな無難な質問があったか。返答が漠然としてしまう恐れはあるが、聞き手から情報が漏れることはほぼない。神代晴華め、最初のルール説明で教えとけよ。
「うーん、あんまりいい印象はないかな」
月影美晴の第一声は、僕の想定とは異なるものだった。今回のお題、ゲームが好きな異性という物に対し、良いか悪いかで答えるなら良いと僕は答えるからである。僕自身がゲームを好きなため、異性がやってて悪いと思うことはない。だからこそ、自分と反する意見の月影美晴に違和感を覚えるが、そもそも彼女がゲームを好きでないなら否定的な意見があってもおかしくないのだ。落ち着け、もう少し慎重に意見を聞き取ろう。
「でも、プラスに捉えることもできると思うよ。自信がある人にとっては」
「成る程ねぇ」
追加で放たれた月影美晴の言葉に軽く頷く神代晴華。どうやら納得しているようだが、僕の頭はこんがらがってしまう。自信があるっていうのはゲームが上手い人を指しているのだろうか、好き嫌いは別として上手な人はプラスに捉えられるという見方もできなくはないのだが。
『自信がある人にとってはプラス』という具体的な判断材料が出てきたにもかかわらず、まったく進展のないこの状況。先ほどの僕がいかに間抜けだったか露呈されるようでとても悲しい。
ち、違うし。月影美晴の言い回しが絶妙なだけだし。文系トップの実力を遺憾なく発揮してるだけだし。
「ウルルンはどう思う?」
「ウルルンじゃないが、好き嫌いははっきり分かれそうだよね。俺はどっちでも構わないけど」
「うわぁ、ウルルンっぽい答えだ」
「ウルルンじゃないが」
ウルルンの返答を神代晴華は納得しているようだが、僕は思いきり引っかかった。好き嫌いが分かれそうというのは理解できるが、どっちでも構わないという表現が怪しい。ウルルンならゲーム好きの女子を嫌がるとは思わないが、さらっとブラフを立てているんだろうか。
「ちなみにだけど、マヨねえは好意的に捉えてくれてると思うんだよね」
「そうね、別にいいと思うけど。あたしが好きっていうのもあるけど」
ここに来て、ようやく意見が合いそうな返答が出てきた。へえ、名取真宵ってゲームが好きなのか。
「まああたしの場合は1人より2人や3人でやる方が好きだけどね」
「はいはい! そっちのが楽しいよね!」
名取真宵に分かりやすく同意を示す神代晴華。僕の視点なら、この2人はシロである確率が高い。みんなでワイワイするのが楽しいっていうのはゲームに当てはまることだと思う。
そうなれば、現状ウルルンが1番怪しい。ウルルンに提示されているお題がゲームではない可能性が高いのだが、どうやって詰めていけばいいか。ウルルンを怪しんでいるとバレないように質問したいが、ここで僕がいきなり話し始めたら怪しんでるってバレバレだからな。
「逆に嫌いそうって言ったら、真っ先に雪矢が挙がるけどな」
攻め方を検討している中、自分から話し始めたウルルンが明らかなボロを出した。
ウルルンのお題がゲーム好き異性なら、こんなことを堂々と言うはずがない。だってコイツは、僕がゲーム好きなのを知ってるんだから。そりゃ僕が好意的に思わない可能性もあるが、断言まではできないだろう。
間違いない、今回のゲームの仲間はずれはウルルンに違いない!
「ああ分かる!! ユッキーは思い切り嫌ってそう!!」
――――そう思ったのに、神代晴華の同意のせいで僕の考えは一瞬でひっくり返された。
えっ、えっ? どういうこと? なんでお前が同意しちゃうの?
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