第11話 同性愛?
翌日、いつも通りの時間に登校してきた僕は、クラスメートと談笑している雨竜の元へ真っ先に向かった。
「おい雨竜」
「おっすおはよう、今日はどうしたよ?」
クラスメートと話しているせいか、若干爽やかさに補正がかかっている雨竜にイラッとしながらも、早速本題に入ることにした。
「今週の土曜日、僕とデートしろ」
一瞬、騒がしかった教室が静まりかえるのを感じた。
こういう時、霊が空間を抜けていると聞いたことがあるが本当なのだろうか。霊感のない僕には縁のない話ではあるが。
「えっと、すまん。もう1回言ってもらえるか?」
珍しくアホ面を浮かべている雨竜。
僕の周りには難聴な人間が多いな、どうして1回で聞き取ってくれないのか。
「だから僕とデートしろって言ったんだ、何度も言わせるな」
すると後方か女子の甲高い声が聞こえてきた。
朝から元気な奴らだな、キャーキャー耳障りではあるが。
改めて雨竜に用件を伝えたが、雨竜は困ったように周りを見回しながら、もう一度僕に視線を合わせた。
「……デート? 遊びに行くとかじゃなくて?」
「はあ? 僕が今までお前を遊びに誘ったことがあったか?」
「……ないな、俺から誘うばっかりで」
「だろ? つまりこれはデートの誘いなんだよ」
「成る程…………っていやいや、納得しかけたけど全然意味が分からん」
怪訝そうな表情を浮かべてこちらを見る雨竜。
どうしたんだコイツ。いつもは無駄なくらい頭の回転が早いというのに、今日はまったくその片鱗が見られないな。
「雪矢、デートって意味分かるか?」
「仲の良い2人で出掛けることだろう、馬鹿にしてるのか」
「じゃあ何かがおかしいことが分かるな?」
「何かがおかしい…………あっ、成る程な」
先程から腑に落ちない表情を浮かべていると思えばそういうことか。
そこが棲み分けできていないと納得できないということか、コイツも変に几帳面な奴だ。
「そうだな、そういう意味ではデートではないな」
「分かってくれたか」
「僕とお前、仲良くないし」
「そこじゃないんだよな、絶対勘違いしてると思ったけど」
そう言うと、雨竜は1度頭を抱えてからげんなりした様子を浮かべた。
「お前、デートって言ったらどういう2人を想像するわけ?」
「だから仲の良い2人だろ?」
「そうじゃなくて、具体的な性別だよ。誰と誰がするものだ?」
「まあ一般的には男と女じゃないのか?」
「俺とお前の性別は?」
「男と男だな」
「おかしいよな?」
「ふざけるな、僕は一般的にはと添えたはずだ。男同士だろうが女同士だろうがデートはデート、そこを区別するなど僕の意志に反する」
堂々と宣言すると、僕に追随するように「そうだそうだ!」という女子の声が聞こえてきた。
くく、当たり前のことを言ってるとはいえ、応援してくれる人間がいるというのは嬉しいものだ。
しかし雨竜の言うように、一般的にはデートが差すのは男女のことだろう。そんな定義などクソ食らえだが、雨竜が納得しないというのなら僕が折れるしかないだろう。
桐田朱里の恋を成就させるためには、雨竜とのデートは必要不可欠なのだから。
「分かった。そこまで言うならお前の言い分に則っていい」
「俺の言い分に則るとどうなるんだ?」
「僕が女になる。それなら問題ないだろ?」
「お前は本当に何を言ってるんだ?」
僕の渾身の提案は、残念ながら雨竜に理解されなかった。何故だ、仮にも学年一の学力を誇っているんじゃないのか? 学力と地頭は大いに関係あるというのが僕の持論なんだが。
だがここで引き下がるわけにはいかない。僕の目的を達成するためにも、雨竜には女扱いをしてもらわなければならない。だからこそデートなんだ。
「詳しいことは当日話す。だから今は何も言わず僕を女にしてくれ」
そう言うと、先ほど以上に大きな歓声が上がった。
向こうは向こうで何か盛り上がっているようだが、僕としてもここは大一番。
さあどうだ雨竜、僕とデートしてくれるのか!?
「……正直まったく意味は分からんが」
困ったように頭を搔く雨竜だったが、どこか観念したように笑った。
「まあお前が絡むことに外れはないからな、付き合ってやるよ」
「よし! そうこなくてはな!」
その瞬間、教室の中が大きな拍手で包まれた。
はっ? はい? 何事? 誰か結婚したのか?
驚いて教室を見回すと、皆が僕と雨竜を見ながら手を叩いていた。一部女子は涙まで流している。
我がクラスの委員長、御園出雲だけは呆然とこの光景を見つめていた。
「雨竜、一体これは何事なんだ?」
「本気で言ってるならホントお前重症だからな」
「あ?」
「それよりもこの件、1つ貸しだからな。お前のせいで後処理が大変過ぎる」
「この野郎、契約成立してから条件を追加するんじゃねえよ」
「じゃあデート無しでもいいんだな?」
「ぐぬぬ……!」
「1つ貸しでよろしいな、雪矢君や?」
「……致し方あるまい……!」
このにやついた顔面をぶん殴りたいところだが落ち着け僕、目的を忘れるな。
何はともあれ雨竜とのデートは取り付けた、この内容を桐田朱里にフィードバックできればこの屈辱も全て昇華できるはず。
そうだ、全ては未来を見据えた選択。僕が穏やかに生活するための選択なのだ。
できれば貸しのことを雨竜の記憶から消したいと思いながらも、僕は朝の準備へと勤しむのであった。
というかコイツら、いつまで拍手してるんだ。温かい視線を僕に向けるな。ホント何なんだよ。
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