*11話 新たな依頼
[管理機構]の本部オフィスに到着した俺達は、オフィスフロア内の小会議室に案内され、その後30分ほど待たされた。
その間、里奈はオフィスの方に諸々の用事を済ませるために出向き、俺は岡本さんや朱音に「晴海のメイズ」の件の顛末を告げるための電話を掛ける。一方、加賀野さんや[東京DD]の面々、それに飯田なんかは、ネットニュースや動画配信サイトを回って情報収集に余念がなかった。
そんな彼等(と、岡本さんとの電話で聞いた状況)によると、現在の東京は大変な事になっているらしい。まぁ、当然の話だ。
俺達は、そんな「大変な状況」を伝える報道内容を見ながら時間を過ごす。
報道は、限られた情報を元に日本政府を非難するような内容が多かった。一方、ネット上の動画配信サイトには個人撮影と思しき「モンスター動画」が多数アップされていた。なので、どちらかと言えば、報道よりもそんな「モンスター動画」を見ていた感じだ。これはもう[受託業者]の習性だろう
ちなみに「モンスター動画」は主に望遠で撮ったものが多かった。恐らく、現在も領域内で建物なんかに隠れている人達がスマホで撮ったものだろう。思えば「魔物の氾濫」中であっても、電波は障害を受けるが有線は普通に使える。なので、撮った動画を有線回線でネットにアップしている、といったところだ。勿論、中には直ぐに削除されてしまいそうな悲惨なグロ動画も混じっている。
モンスターはよく見知ったタイプが多いが、中には見慣れない奴も混じっている。蜻蛉のオバケのような飛行タイプのモンスターや、身長が3mを超えそうな人型モンスター、体長が5mに達するようなワニに似たモンスターなどだ。
その動画を(俺のリュックの隙間から)覗き込んだハム太は、
(間違いなく、中規模メイズのモンスターなのだ)
と確信めいた【念話】を送って来る。どうやら「中規模メイズ」が「魔物の氾濫」を起こした事は確定的らしい。
そんな感じで状況確認をしている内に、里奈が小会議室に戻って来た。そして直ぐに[管理機構]の佐原部長が数人のスタッフを連れて会議室にやって来る。
佐原部長以下のスタッフはテキパキと「収拾品の買取り」を行うと、「報酬」を含めた支払通知書を全員に手渡した。それで、全員が報酬(通知書)を受け取ったところで佐原部長が口を開く。先ずは「晴海メイズ」への対処に対するお礼だったが、直ぐに内容は
「皆さんがまだ晴海メイズの中に居る頃に、新しい[管理機構アラート]が発信されました。AランクとBランクの受託業者の方々に対する次の依頼です。内容は――」
内容は「魔物の氾濫」氾濫領域内の、外縁部に当たる場所に対する「残留者の避難誘導」とのこと。初台周辺と代官山周辺の2カ所、つまり領域の北と南に存在する住宅密集地から逃げ遅れている人達を救い出すというものだ。その新しい依頼に対して、
「皆さんは現状、最も優秀な受託業者グループの1角です。お疲れとは思いますが、是非協力して頂きたい」
とのことだった。
この依頼に対して、流石に「脱サラ会」も「東京DD」の面々も即答はしなかったが、
「明日の午前10時から作戦行動開始になります。よろしくお願いいたします」
と頭を下げる佐原部長へ否定も拒否もしなかった。
ちなみに俺はというと、既にこの新しい[管理機構アラート]の話を岡本さんから電話で聞いている。それで岡本さんは自身と朱音の両方とも「「初台側」で参加しても良いと思うけど、コータ次第」という意見であることを聞いている。
それで「俺次第」となった話だが、俺はといえば……里奈が仕事上行かなければならないなら、当然一緒に行く事になる。そして、その里奈はと言うと、
「私は……初台側ですね」
とのこと。
結局参加する事になった。
ちなみに飯田も(当然)参加だ。
*********************
[管理機構]での用事を終えた俺達は、その場で解散となった。ちなみに里奈も今日はこのまま「帰宅して良し」となったらしい。それで、装備類(特に拳銃)をオフィスに返した里奈と俺は、飯田と別れてオフィスビルを出るが、どうやって帰ろうか? と思案している時に、背後から呼び止められた。
呼び止めて来たのは里奈の同僚で先輩の富岡課長さん。彼女は俺達の様子を見て少し申し訳なさそうにしながらも、
「――誠二君から連絡があって」
と切り出した。ちなみに「誠二君」とは吉池さんの事。それで、連絡の内容とは、
「これから首相官邸へ行って頂戴。平川官房副長官と飯沼総理に会える段取りが出来ているって――」
とのことだ。
正直メイズを1つ消滅させた直後で、且つ明日は「救出作戦」が控えている。サッサと自宅マンションに帰って里奈と一緒に記念すべき同棲第一夜を楽しみた……い、いや、休息をとりたいところだ。しかし、この話を持ち掛けたのはこちらの方。それに答えてくれた吉池さんの立場もあるし、拒否する事は出来ないだろう。
寧ろ、予想外に早く話が進んだ事と、平川官房副長官のみならず飯沼総理という国のトップに面会できることを喜ばなくてはならない。
「……よかったね」
「……そうだな」
なのに、なぜか俺も里奈も溜息が出てしまう。
(面倒事は一気に片付けるニャン!)
張り切っているのはハム美だけだった。
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