*25話 武蔵野森市民体育館メイズ⑦ 15層!
明けて7月12日。
この日の活動は手元の時計で9:00スタートになった。
昨日のラスト2時間で行った「稼ぎタイム」の結果、[東京DD」と「東京地下清掃組合」の面々は、彼等だけで何とか「9層~8層~9層の往復」が出来そうだと分かった。なので、午前中一杯、彼等は10層よりも上の階層で独自に活動してもらう事になる。
その後は12:30を目途に10層に戻り、俺達「DOTユニオン」と合流して11層にトライする事になる。11層での活動が厳しければ再度「9層~8層」に戻るが、俺(とハム太)の見立てでは、流石に午前中一杯を使って9層~8層の往復を繰り返せば、彼等の[修練値]も立派に9層相当になると思っている。なので、元々モンスターの密度が少ない11層ならば十分に活動できるだろう。
11層まで活動可能領域を広げてやり、後はそこで[修練値]を上げつつ、次の「スキルジェム」ドロップを狙いながら下を目指す。そんな少し先の将来に於ける活動方針も彼等後輩[受託業者]に示している。
一方、「DOTユニオン」は? というと、まぁ
15層については、既に「井之頭公園中規模メイズ」の15層
ただ、俺としては、この15層討伐後に「厄介なイベント」を処理しなければならない。寧ろそちらの方が頭が痛い気がする。とはいえ、自分で仕掛けた
これまでは「なんとなく」や「飯田の【直感】です」と誤魔化してきたが、昨晩、加賀野さんに「後で説明します」と言った手前、ハッキリと説明する必要がある。
(吾輩はいつでもオッケーなのだ)
そんな【念話】を送って来るハム太は気楽なものだが、俺としてはそれなりの期間「秘密」にしていた手前、妙な罪悪感を覚える。
まぁ、ハム太の存在を「秘密」にしつつも、例えば「スキルジェム」の習得等では変な方向にならないようにそれとなく【鑑定(省)】の結果を参考にして「口出し」をしていた訳だから、「秘密」であること自体が皆の不利益になったとは思っていない。多分、いや、きっと、皆もそう思ってくれるはず。
ちなみに「チーム岡本」の面々には、ハム太の【念話】経由で経緯を説明している。幸いな事に、岡本さん等からは特に反対はない。寧ろ「やっとか言う気になった」という反応だった。イザと成ったら、俺一人に非難が集中しないように、「チーム岡本」のみんなにもちょっとずつ責任のお裾分けをしよう。うん、そうしよう――
(そう言う所がコータ殿は人としてイマイチなのだ)
うっせぇ、昨日みたいにずっと凹んでてくれ。
(吾輩、切り替えの良さと立ち直りの早さが取り柄なのだ)
あっそ……すごく羨ましいよ、その性格。
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その後、2手に別れたメイズ内での行動は
――こんなにドロップって出るもんなんすね――
と言った感想を漏らしていた。
ちなみに彼等は、昨晩習得した幾つかのスキルによって明らかに戦力アップしていたようで、9層の「コボルトチーフ+メイズハウンド」ラッシュや武装ゴブリン集団との戦いを独力で切り抜ける事が出来るようになっていた。[修練値]の方も、
(平均で520前後なのだ。ギリギリ9層相当と言っても良い? なのだ)
とハム太が言うように成長したようだった。
その後は、軽く昼食を済ませた後に彼等を伴い11層へ向かう。この辺りからゴブリンに
そして、11層の1段階強くなったモンスターを相手に苦戦する「東京DD」と「東京地下清掃組合」にエールを送りつつ、俺達「DOTユニオン」は先へ進む。
「DOTユニオン」側の稼ぎは? というと、初日が殆ど後輩[受託業者]達の|お守り
《・・・》だった割りには好調だった。これに[管理機構]が約束した1人20万円の報酬が上乗せされると考えれば、多分結果は1人当たり70万円前後になるだろう。十分に満足の行く収入になる。
そんな「捕らぬ狸の皮算用」をしつつ、再び13~14層の往復を2度繰り返して時刻は16:08。ちょっと
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白く濃い霧が周囲の視界を妨げる。遠近感を見失うような真っ白な世界。ただ、霧の奥からこちらに向けられる強烈な殺気は、それだけで、敵が何処に居るのかを報せるようなものだ。
「――ッ、そこぉ!」
霧を割るような鮮烈な声は朱音のもの。それと同時に彼女は【看破】スキルを発動。すると、視界全体を塞いでいた白い霧の1カ所で、切り取ったように、そこだけ霧が晴れる。そして姿を現したのは、3匹の赤い巨体。
おそらく、1匹が【幻覚スキル】を受け持ち、残りの2匹が一気に飛び込んで此方を喰い荒らすつもりだったのだろう。ただ、そんな奴等の思惑は、朱音の先制【看破】スキルでご破算になる。そして、
「――オン、ケンバヤケンバヤソワカ、ウーンッ!」
飯田の詠唱と、
――ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ
朱音や春奈ちゃん、そして古川さんの矢が風を切る音が響く。
「――ギャンッ!」
飯田の放った【飯田ファイヤー:火の玉バージョン】が1匹に直撃して小規模な爆発を伴って燃え上がる。そして朱音達後衛組の矢に狙われた1匹は、3本の矢を身体に受けて、怯んだように後方へ下がる。2匹のどちらかが【幻覚スキル】を担当していたのだろう、今の攻撃で周囲を覆っていた「白い霧」は嘘のように完全に晴れ上がった。
場所は15層。3つ間続きだった構造のドン尽き。つまり「武蔵野森市民体育館メイズ」の最奥部だ。半円状の空間の奥には、燭台のような構造物と、その上に浮かぶ「
ただ、その前には手負い1匹と無傷1匹の
「仕掛けます!」
俺は短くそう言うと【能力値変換】を発動。[敏捷]の値を上乗せして無傷の1匹に肉迫。
対して
その瞬間、
一方、俺はそんな前脚を紙一重で躱し、次いで迫る牙を頭上に感じながら、スライディングの要領でメイズの床を滑る。滑りつつ突き出した[魔刀:幻光]が赤い巨体の左脇腹をバッサリと切り裂いた。
「――ギャンッ!」
激痛に身を
犬と言いつつ、何処かネコ科の猛獣めいた顔面に浮かんだのは困惑と怖れ。モンスターのクセに器用なものだと思いつつ、俺は赤鬣犬に
――ゴトッ
あっけない程の手応えで赤鬣犬の首が床に落ちた。
少し離れたところで、手負いだったもう1匹が断末魔を上げている。
どうやら15層の
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