*26話 武蔵野森市民体育館メイズ⑧ ハム太の暴露大会!
「これが――」
「――チーム岡本の……」
「秘密兵器……?」
「脱サラ会」の加賀野さん、古川さん、毛塚さんが呆気にとられた表情で言う。一方、
「きゃ、きゃ、きゃわ……カワイイの、かな?」
「う~ん、ボーダーライン上のややキモカワ寄り?」
「TM研」の春奈ちゃんと小夏ちゃんの反応は微妙だった(笑)。
確か、俺の妹、千尋が初めてハム太を見た時は「カワイイ!」という反応で細かい事をすっ飛ばして受け入れていたけど、もしかしたら
ちなみに、他の面々は「目が点」状態で、点に成った目を床に仁王立ちする甲冑(正装)姿のハム太に向けている。
まぁ、15層の
「――皆さん、お初にお目に掛かるのだ! これからもヨロシクなのだぁ!」
ハム太は例の「吾輩はメラノア王国の聖騎士
ただ、そんなハム太の自己紹介を受けた「脱サラ会」と「TM研」の面々は妙に反応が薄い。……いや、反応が薄いというよりも、「どう反応したら良いか分からない」といったところか……分かるよ、その気持ち。
ということで、俺は粗々と話を進めることにする。
「このハム太は【収納空間】と【鑑定】と【回復魔法】の省エネバージョンのスキルを持っています。後は【気配察知】が使えて意外に便利です。他には【念話】というテレパシーみたいなスキルも持っているので、通常のコミュニケーションはこれでしています。滅茶苦茶鬱陶しいですが――」
「コータ殿……色々毒のある説明なのだ……そんな事より、肝心のスキルを忘れているぞ」
「え? なんだっけ?」
「【戦技】スキルなのだ。吾輩の【戦技(剣)Lv6】を忘れて貰っては困るのだ!」
「ああ……そんなスキルもあるらしいです」
「「「……」」」
反応が……反応が薄いです。
なんだか、お笑い芸人が喧しく連発する「スベッた」という言葉の意味がちょっとだけ分かった気がする。こういう時は目で見て分かり易いデモンストレーションをしなければ――
「は、ハム太、俺さっきスライディングでここを擦り剝いちゃってさぁ――」
「なるほど、吾輩の【回復(省)】の出番なのだ、それ【
ということで、俺はさっき
これで漸く反応らしい反応が起こった。口を開いたのは「TM研」の相川君だ。
「……コータさん、もしかしてその【回復(省)】って、初めて会った時に春奈の怪我を治してくれたヤツですか?」
あ~、そう言えばそんな事もあったっけ。
「そうだよ」
「なるほど……ハム太さん、その節はありがとうございました。ほら、春奈もお礼を言って!」
「あっ……ありがとうございました!」
俺の返事に、相川君や春奈ちゃんが改めてお礼を言う。対してハム太はそんな素直な感謝の言葉を予想していなかったらしく、アタフタとしていた。
「なるほど、じゃぁ【収納空間】とか【鑑定】とかも普通に使えるわけか?」
一方、
それで、しばらくハム太のスキル実演会になった。
ちなみに、ハム太の持っているスキルは、今実演した【回復(省)】の他は【収納空間(省)】と【念話】は実演し易いので分かり易い。例えば【収納空間(省)】は、普段「チーム岡本」単独行動の際に使用している10層お泊りセットを実際に取り出して見れば一目瞭然だ。【念話】も直接皆に語り掛ければ流石に分かる。
しかし、【気配察知】はモンスターが居ない状況なので実演不能。そして、とても重要なスキルである【鑑定(省)】については――
「う~む……よし、こうするのだ!」
ハム太はどうやって実演しようか少し悩んだ末、何故か小夏ちゃんをビシッと前脚(腕?)で指して――
「小夏殿は上から71、54、79――」
突然、トンデモナイ秘密の暴露を始める。
流石に、これは「チーム岡本」全員で止めることになった。
「おい馬鹿、ヤメロ!」と俺。
「ハ、ハム太ぁ!」と岡本さん。
「こ、こらっ!」と朱音。
それで、
――バコッ
ハム太は飯田が咄嗟に掴んだお泊りセットのバケツを被されて沈黙した。飯田グッジョブ!
目の前では小夏ちゃんが顔を赤くしてフルフルして、その隣で彼氏である上田君が苦笑いで慰めている。残念ながらちょっとダメージが入ったようだ。
ちなみに小夏ちゃん、小柄だけどグラマーな胸元だなぁ、と思っていたんだけど、「ステータス補正」が入っていたんだね……
「コータ先輩!」
「コータさん!」
「ちょっと今のはデリカシーが無いな」
「流石に酷いぞ」
あと、何故か俺が責められることになった。飼い主の責任? 飼い主じゃないよ!
*********************
その後しばらくワチャワチャしたが、主に大人な「脱サラ会」の加賀野さん達によって話が前に進むことになった。
そんな加賀野さん達は、
「これまで秘密にしていたのは……まぁ、しかたないんだろうな」
と、一定の理解をしめしてくれた。「喋るハムスター」というだけで存在がトリッキー過ぎるのに、更に加えて幾つもの有用なスキルが使えるならば、変なトラブルを避けるために「秘密にする」という選択肢を取ることは仕方ないだろう、という大人な判断だった。
ただ、その上で加賀野さん達は疑問を持った。それは、
「でも、なんで今になってそんな秘密を明かしたんだ?」
というもの。至極まともな疑問だ。ちなみに、この疑問は岡本さん達も同様だった。岡本さん達にはハム太の【念話】経由で「今日、15層が終わったらみんなに秘密を明かします」と伝えているけど、その理由までは説明していない。
「その事なんですが――」
ということで、俺は諸々の事実を含めて説明を始める。その内容は大輝の失踪から始まって、昨年夏に俺が出来立てのメイズに落ちる話や、大輝のお葬式後の交信、ハム太の登場、その他諸々だ。当然ながら、大輝が「召喚された」異世界の話や、そこに存在した「魔坑」の存在。魔坑によってあちらの世界がどうなったか? という説明なども含まれる。そして、
「大輝が言うには、こちらも
これは、一昨日の夜の交信で大輝と話した内容の一部だ。「消えない魔坑」や「幻影化した魔坑核」、「播種の法」に「次元世界間の情報伝達」など、色々な話があったが、結局、それらの対処は大輝に任せるしかない。
その一方で、
そのために、
「なるほどな。だから突然後輩PTの指導に口出しするようになったんだな」
「そういう事です」
加賀野さんの納得したようなコメントに頷く俺。対して岡本さんは、
「でも、そんなことオレ達だけで
と言う。確かにそうだ。基本的に一般市民な俺達では、頑張ろうにも限界がある。だから、
「一応政府の方面には、里奈が働きかけるように動いています。まぁ、出来る所からやっていく、という方針ですけど」
と、説明する。都合が良いのか悪いのか、里奈は[管理機構]所属だから、
そして、俺は皆の視線を受け止めながら、
「後輩というか、後進の[受託業者]達にもそれなりの実力が付くようにしながら、俺は中規模メイズの攻略を目指そうと考えています」
そう、宣言するように言った。
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