*24話 武蔵野森市民体育館メイズ⑥ コータ、先輩風を吹かせる


 結局、7月11日日曜日の「武蔵野森市民体育館メイズ消滅作戦」1日目は、夜の20:00過ぎに10層で活動中断となった。


 予定通り8~9層を往復し、[東京DD」と「東京地下清掃組合」の合わせて5PT分の後輩[受託業者]を鍛えてから、彼等を伴って10層に突入したのが17:30。そして、10層の番人センチネルモンスターを討伐したのが18:00だ。その後は少し休憩を挟んだ後に、後輩[受託業者]は9層へ、俺達「DOTユニオン」は11層へ、と成った。流石に俺達も稼がないといけないので、こう成った感じだ。


 ちなみに、このメイズの10層は2つの広間が細い通路で繋がった構造だった。その内、最初の広間には【統率】と【眷属強化】持ちのコボルトリーダーを中心としたメイズハウンド+コボルト系の集団が40匹。そして、奥の広間には複数のゴブリンナイトを中核にした武装ゴブリンが「ぎっしり」という状況。


 いずれもモンスター側の数が非常に多い状況だったが、こちらも「数」では負けていない。後輩[受託業者]だけでも数は5PT・36人も居る。尤も彼等の[修練値]はこの日1日で随分と上がったものの、それでも平均して520を少し上回る程度。「9層相当」と呼ぶにはやや足りない感じだ。


 そのため、彼等単独で10層の番人センチネルモンスターを討伐するのは少し荷が重い状況だった。ただ、全く活躍できなかったか? と言われれば、実はそうでもない・・・・・・。特に10層に入って直ぐの広間に於ける「コボルト系+メイズハウンド」との戦闘では、彼等後輩[受託業者]がしっかりと機能することになった。


 飯田が【生成:障害物】を利用した「飯田式簡易要塞」を構築し、それを利用して数が多いモンスターの一斉攻撃を防ぎつつ、壁の隙間から「ソードスピア壱式」を突き出して攻撃するというやり方で、後輩[受託業者]達はそれなりの戦果を挙げる事ができた。


 まぁ、戦闘開始直後に朱音や春奈ちゃん、小夏ちゃん、古川さんら後衛組が、遠距離攻撃で厄介なコボルトリーダーらをサックリと斃してしまったので「ナントカ成った」という側面はある。でもまぁ、1日でここまで仕上がったと考えれば上出来だろう。


 そんな感じで10層を突破し、その後2時間ほど「稼ぎタイム」をこなして7月11日の活動は一旦中断となる。


 10層に戻った後は、[管理機構]が持たせてくれた「民生向けレーション」のレトルト飯を食い、各自装備の整備点検をした後は翌日まで休息となる。ちなみに「民生向けレーション」という扱いのレトルト飯だが、自衛隊のメイズ教導隊と共同行動を行っていた時に食べた物よりも、ちょっとだけ味付けが良いように感じた。


 とはいえ、俺達としては随分食傷気味な食べ物になる。その一方で「コウちゃんPT」や「手島PT」の面々は流石に珍しいのか、若者らしくはしゃいでいた。まぁ、その内飽きるだろうけど……。


*********************


 食事が終わった後、就寝までのひと時(俺は昨晩殆ど寝ていないので、この時点で物凄く眠いのだが)で、この日1日の成果品ドロップに関する話し合いになった。


 まぁ、ドロップの分配に関しては、元々「DOTユニオン」の面々だと(修練値の問題的に)9層までは殆どドロップが出ない。なので、その時点までのドロップ品は気前よく全て「東京DD」と「東京地下清掃組合」の取り分とすることを事前に決めていた。更に10層も前半部分で出たドロップは彼等の取り分にした。


 多少反対意見が出るかな? とも思ったが「DOTユニオン」側に異を唱える人は居なかった。多分、最後の2時間でやった「稼ぎタイム」の成果が好調だったからだろう。


 ただ、俺達DOT側はそれで良いとしても、「東京DD」と「東京地下清掃組合」の内部でのドロップ分配……というか分配後の活用方法については少し口出しが必要な状況だった。特に、複数個ドロップした[スキルジェム]の取り扱いは考えてやらないと、地味に取り返しの付かない状況になる。


 なので、俺はちょっと加賀野さんにもヘルプをお願いして、彼等が固まって居る野営地(?)に向かう。ちょうど、彼等はドロップ品を前にして分配の話合いをしているようだった。ただ、安直に「じゃんけんで」という事になりかかっている。


「ちょっと良いかな?」

「あ、なんすか、コータのアニキ?」


 そんな彼等の話合いに割り込んだ俺は、彼等が「じゃんけん」で分配しようとしていた目玉品の「スキルジェム」を指差して。


「コレの分配に口出ししてもいい?」


 と訊く。


 ちなみに、彼等の取り分となった「スキルジェム」は全部で5個。5PTで5個だから旨い具合に数は「1PT1つ」で合っている。ただ、その「スキルジェム」から習得できる【スキル】は同じじゃない。しかも、彼等には「スキルジェム」を「使う」という選択肢の他に「売る」という選択肢も残っている。なので、上手く誘導して彼等が戦力を強化できるようにしなければならない。


 ということで、俺は早速、


「このスキルジェムだけど公式オークションに出して売るのは止めた方が良い。そうですよね、加賀野さん?」


 と、加賀野さんをダシに使って話を進める。まぁ下打合せをしていない状況だけど、加賀野さんなら返って来る答えは当然、


「そうだな、売らずに少しでも戦力を強化したほうが長い目で見ると稼ぎが増える」


 となる。流石加賀野さんだ。伊達に「先生」と呼ばれていない。


 「売る、売らない」の話はその後、俺達「DOTユニオン」が1度のメイズ潜行でどれだけ稼ぐか、を引き合いに出すと割とすんなり結論に辿り着いた。まぁ、「1回、1泊2日のメイズ潜行で70万から100万稼ぐよ」と言われれば、それを目指したほうが長い目で見れば得だと分かるだろう。


 そして、「スキルジェム」から誰がスキルを習得するかについては、俺が


「えっと。コレが【戦技】、コレも【戦技】、コレは【回復魔法:中級】、こっちは【索敵】、それで最後のコレが【火属性魔法:中級】だ」


 と、区分けしていく。勿論、ハム太の【鑑定(省)】の結果を喋っているだけだ。そして当然の如く、そうやって本来【鑑定】が無いと分からないはずの「スキルジェム」の効果をポンポンと言っていく俺に「待った」が掛かる。加賀野さんだ。


「ちょっとまった、コータ君。一体どういう事なんだ?」


 そんな疑問の声を挟んで来た加賀野さんに、俺は小声で


「明日詳しく話します」


 と言うと、ポカンとした顔をしているコウちゃんや手島の方を向いて、


「一応、誰がどれを習得したら良いか、アドバイスしたいんだけど……いい?」


 と、確認を取るように見せかけた、半ば強制的な提案をする。


 その後、色々紆余曲折したが、結果から言うと2つある【戦技】スキルは「手島PT」のアーチェリー持ち(確か、砂川君)と[東京地下清掃組合]PTのアーチェリー持ち君が夫々それぞれ習得。【回復魔法:中級】は「東京地下清掃組合」の別の後衛君。【索敵】は「手島PT」の手島本人。そして【火属性魔法:中級】は「東京地下清掃組合」のリーダーっぽい人(「GLクラン」をリア充とかエンジョイ勢とか言っていた人)に習得してもらう事になった。


 ちなみに、この配分はハム太と俺が【念話】で話し合って決めたものだ。[適性]のような便利な指針パラメーターは【鑑定(省)】では分からないので、立ち回りと現在の装備を見て決めた感じだ。


 後は、アドバイス的なモノとして「クロスボウからアーチェリーへの転向」を何人かに勧める。他には、次に【戦技】スキルが出たら各PTの盾持ちに優先して習得させる事や、くれぐれも未鑑定な「スキルジェム」をその場の勢いで習得しない事等を述べて、この夜の「先輩のお節介」は終了となった。


 これで、彼等全体の火力は底上げされるだろう。明日はもっと稼げるはずだ。

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