*20話 回想:異世界魔坑の顛末
『前回の交信から終わってから直ぐ、俺は南方へ向かった――』
真剣なトーンで大輝が語るのは、前回の交信が終わってから現在に至るまでの経緯だ。あの1月の交信の後、大輝は彼の居る世界の南方に存在するアルゴニアという国へ調査に赴いていた。
ちなみに大輝が属するのは北部連合という国家連合で、大輝を
その状態で、「魔坑」を隠匿している疑いがあるアルゴニアを調査するため大輝は彼の国へ赴いたとのこと。
『結論から言うと、アルゴニアは大深度・大規模魔坑を隠匿していた。それだけじゃない、他の大規模魔坑や中規模小規模に至るまで無数に、だ』
あちらの世界の地理については大輝の説明だけが頼りなので「しっかり理解できた」とは言い難いが、とにかくアルゴニアという国がある南方大陸はとても広大で、深南部にあたる地域は山脈や大河によって他から隔てられている「内情の分かりにくい地域」であるらしい。そんな「内情の分かりにくい地域」に大小様々な規模のメイズが無数に密集していた、ということだ。
『これまでの魔坑の傾向と性質を考えると、とても不自然な密集度合だ』
これは俺の居る
『あの地域の人口規模は70万人といったところ。なので、あの数の魔坑にまったく見合わないが、とにかく無数の魔坑が存在していた……それでアルゴニアの臨時政府を締め上げて分かった事だが、密集した魔坑は人為的な養殖の結果だという。全くバカげた話だ!』
鏡の向こうで大輝は吐き捨てるように言った。
敗戦前の帝政アルゴニアは秘密裡にメイズの人工的な増殖を目指していた。目的は兵士に「魔坑核」を持たせることで、戦場に於いて有用な【スキル】を使えるようにすること。全て近年勢力を増しつつある「北部連合」に対抗するための施策だという。
「北部連合」が勢力を増すことが出来たのは、何を置いても大輝の存在によるところが大きい。大陸中に
『俺が播いた種、と言えば余りにも皮肉だけどな』
大輝はそうやって自虐して見せるが、誰も責める事が出来ない功績があるのは確かだろう。
とにかく、帝政アルゴニアは台頭する「北部連合」に対抗するために「魔坑核」を欲した。しかし、自然に(?)発生するメイズを討伐する事で得られる「魔坑核」の数は、幾ら世界がメイズに侵食されつつある、といっても絶対数が少ない。なので帝政アルゴニアは禁忌の技とも言うべき「播種の法」に手を染めた。
『永らく実態が分からなかった播種の法だが、アルゴニアにはしっかりと伝わっていた。ただ、どうもそれだけでは説明がつかない事があった。それは――』
大輝の説明によると「播種の法」とは、「魔坑核」を使用して
魔坑核1つで初期段階の小規模魔坑を作り出し、魔坑核2つ使用すれば成熟段階の魔坑が出来る。そして、魔坑核3つを用いると「魔物の氾濫」を引き起こす状態の魔坑が誕生する、という結果になる。つまり、どうやっても1つの魔坑核が2つ、3つに増えるものではない。
だが、実際にアルゴニア深南部で魔坑は増えた。その理由というのは、
『どこかのタイミングで魔坑が変化……いや、進化したようだ』
静まったアパートの部屋に、大輝の呻くような声が籠って響いた。
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旧アルゴニア帝国が「播種の法」を使い
しかし、そこで思わぬことが起きた。通常は魔坑核を取得すればその魔坑は消滅するのだが、この時、大輝が向かった深南部の魔坑密集地帯では、魔坑核を取得しても魔坑は
そして、小規模魔坑ならおよそ6か月で15層に、中規模魔坑なら10ヵ月で30層に達するまで成長し、最深部に[魔坑核]を復活させるという。つまり、魔坑から魔坑核が再度取得できる状態になっていたのだ。
更に悪い事に、密集する無数の魔坑は周辺の[魔素]濃度を引き上げ、常に何カ所かの魔坑が「魔物の氾濫」を起こしている状況になっているという。そして、「氾濫」で地上に出現した魔物は、周囲の高い[魔素]濃度を受け、密集地帯全域を自由に闊歩するような存在になってしまった。その状態で、密集した魔坑は緩慢だが確実に数を増やしているという。
結果として、魔坑の密集地帯は植物で言うところ排他的な群生領域にまで成長し、更に成長を続けるような状態になってしまった、ということだ。
そんな状況下で、大輝はその群生地帯の中心にある大規模・大深度魔坑へ赴くことを決意した。「根本を断てば状況が改善する」と発想したのだという。しかし、
『まる2か月かけて最深部に到達したが、そこにあったのは……
ということ。「幻影」という状況がどういうものなのか良く分からないが、とにかく大規模・大深度魔坑の魔坑核は「そこに在って、そこに無い」状態だったという。なので当然不活性化も出来ず、文字通り「手も足も出ない」状態だったらしい。
『それで、俺は魔坑核と意志の疎通を試みた』
突飛な言葉だったので「え?」と思ったが、大輝が出来ると言うのだから出来るのだろう。勿論、実際に出来たらしい。ただ、
『だけど……流石に絶望したよ……』
そう言う大輝は鏡の前でがっくりと肩を落としている。この話を続ける内に、心の奥に押し込んでいたのだろうか? 隠していた疲労感が表に滲み出て来たように見える。その様子は、疲れた老人のように見えた。
『だが、隠す訳にはいかない……心して聞いて欲しい』
大輝は、疲れた顔のまま居住まいを正し、鏡越しに俺と里奈を正面から見据えて言った。
『魔坑の本体は……そちらの世界に
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