*18話 武蔵野森市民体育館メイズ③ 行動開始!
全体ブリーフィングは、予定から10分遅れの9:40に始まった。主な内容は今回の「メイズ消滅作戦」に於ける各グループの役割分担、補給品(主に食事)支給と消耗品(主にポーション類)補填の取り扱い、そして各グループ単位での大まかな行動基準についてだった。それらが[管理機構]の「委託課」職員から説明された。
ちなみに、補給品は5層に集積されるということ。中身は例のレトルト飯を中心としたレーションチックな食事と飲料水だった。飯田によれば、自衛隊向けに
消耗品の補填については[選抜Bユニオン・グループ]以上が対象だが、事前に所持している消耗品を申告し、それらの内、メイズ内部で使用した物を後日[管理機構]が補填する、というやり方だ。完全に自己申告だから、やり方次第で悪い事も出来そうだけど、この辺は完璧に管理が出来ないので「仕方ない」と割り切ったのだろう。
一方、各選抜ユニオン・グループの役割分担については、参加PTの詳細と共に
[一般参加グループ]
参加者:11PT・72人
役割 :1~5層の安全確保と5層への補給物資運搬
*ただし、5層への侵入は
*活動時間は1日とし、終了後は後続グループと交代する。
*選抜A・Bユニオン・グループの指示に従うものとする。
[選抜Bユニオン・グループ]
参加者:
[東京DD]チームA(コウちゃんPT)6人
[東京DD]チームC 6人
[東京DD]チームE(手島PT) 6人
[東京地下清掃組合]全2PT 18人
役割 :
・5層
・5~10層の安全確保
・選抜Aユニオングループの支援
*行動中は選抜Aユニオングループの指示に従うものとする。
[選抜Aユニオン・グループ]
参加者:
[DOTユニオン]脱サラ会 5人
[DOTユニオン]チーム岡本 4人
[DOTユニオン]TM研 5人
役割 :
・5層・10層の
・10層以降への進出
・最深層に於けるメイズ不活性化
*行動中はその他グループの参加者を適宜指導、指示するものとする。
という感じだ。まぁ、[管理機構]が頑張って考えた結果なのだろう。特に問題はないと思う。
ちなみに[管理機構]の「委託課」が主体となる事務局の所在は、この場所(第2駐車場)になるとのこと。体育館内は既にオリンピックの予選競技向けに準備されているため、立ち入り禁止だそうだ。そして、目的となるメイズはその体育館の隣に建てられた「機械棟」という建物の中だ。分電盤や水道ポンプが一纏めになって設置された「棟」というよりも「小屋」といった建物だが、その1Fの大型ポンプの裏に3mの穴がポッカリと開いているらしい。
「機械棟」の建屋は体育館の陰になって見えないが、距離は150mほど先とのこと。丁度その辺りに「非常線」を示す3角コーンと見張りのような10人前後の機動隊員の姿が見える。
『――現在の入口周辺のMEO値は58となっております――』
拡声器から流れる係員の声。[MEO値]58というのは、そこそこ高い数字だと思う。他のメイズは大体30前後だ。まさか、潜っている間に「魔物の氾濫」が起きたりしないだろうな。
『――え~、それでは皆さん、移動を開始してください』
ただ、拡声器から流れる係員の声は数値の高さには言及せずに、移動を促すように言う。チラと見ると、丁度10:00だった。
「まぁ、俺達は最後尾だな」
「なんだかまどろっこしいですぅ」
とは、岡本さんと朱音の会話。まぁ、5層までは出番が無いのでゆっくり行くとしよう。[MEO値]が高くても、どの道消滅させるメイズだ。
*********************
メイズの中の印象は「普通」というもの。
これ以外に表現のしようがない。
通路の広さも内部の広がりも、他に沢山存在する「小規模メイズ」と何ら変わりが無い。他には、出現場所が「機械棟」という点と、土間状の床に開いた穴だという点から、見た目が何処か「荒川運動公園メイズ」や「井之頭公園中規模メイズ」に似通っているともいえる。
そんなメイズの中に、[DOTユニオン]は最後尾として入った。丁度[一般グループ]の先頭が中に入ってから1時間後の事だ。
俺達の前には[選抜Bユニオン]の「東京DD」クランの3PTと、「東京地下清掃組合」という3PTユニオンが先導している。その内、一番先頭 ――つまり、俺達から一番離れている―― を進むのが「東京DD」のEチーム。そのリーダーは手島だ。
手島のヤツは、俺達「チーム岡本」を見ると目を大きく見開いてあからさまに怯えた表情になっていた。でもまぁ、その気持ちは分かる。
俺だけならまだしも、鬼のエリアMG(元)岡本さんや、ナンパしようと目を付けていたエリアスタッフ(元)朱音、そして、コミュ障を良い事にイジメて退社に追い込んでしまったエリアサブMG(元)飯田、と、ヤツが迷惑をかけた人間が勢揃いしているのが「チーム岡本」だ。流石の手島でも、距離を取りたくなるのは分かる。
ただ、「チーム岡本」側としては、余り手島に注意を払っていない。全員がヤツのバイトテロが原因で会社を辞めたようなものだけど、「結果オーライ」だと思っているので文句の言い
「おお、手島じゃないか、コータから聞いてるぞ、頑張れよ!」
と声を掛けたりしていた。ただ、これで「はい! 頑張ります!」と気持ちよく答えられないのは……手島自身が積み上げた
「さっさと稼いで、早く金を返せ」
とだけ言っておいた。多分、これが一番のプレッシャーになっただろう。そう考えると俺も業が深い気がするけど……ハム太のツッコミはナシだった。ほんと、昨日の夜からハム太の調子が悪い。
とまぁ、そんな事はさて置き、「メイズ消滅作戦」は開始となったわけだが、「選抜Bユニオン」の面々の実力はというと
(7層、8層くらいでは通用するのだ)
と、妙に無口なハム太が【鑑定(省)】の結果をかなり簡潔に述べた通りだ。
ちなみに、5層の
「今ある小規模メイズで俺達に解放されているやつは、何処も5層の番人が居ないから」
「強い先輩方のバックアップがある状態で挑戦できたらラッキーです」
というのが理由だ。まぁ、俺達のような先行組が「ドロップ狙い」で5層、10層の
と、そんな事を考えながら1層、2層、3層と進んでいく。順路は床にスプレー缶で矢印が記されている(書いたのは「一般参加者グループ」だろう)から、それに従うだけだ。モンスターと遭遇することは無かった。70人強の一般参加者グループが討伐を済ませたのだろう。
なので、今のところは粛々と5層を目指すだけだ。少し暇に感じてしまう。
(……う~ん……)
こういう時、ハム太の【念話】と他愛のないやり取りをするのが普通だが、今日はハム太が無口過ぎる。まぁ、
俺はそう考えつつ、俺自身もちょっと憂鬱になるほどだった「昨晩の話」を思い出す。昨晩は7月10日。つまり新月の夜。数か月ぶりにあちらの世界と交信が取れた夜だった。
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