*11話 3ユニオン合同「井之頭中規模メイズ」⑦ コータの本気
状況として、現在俺達は16層に降りて直ぐのT字通路の中央地点で、東と南から
これは結構しんどい話だ。そもそも、2方面から攻められるという時点で結構辛い。だが今の場合はそれに加えて相手が
そのため、当時の戦いでは場所の広さを利用することが出来た。例えば、俺は【隠形行】を使った迂回戦術でモンスター側の後衛を一気に片付けることが出来た。また、加賀野さんや相川君のような近接組が集団化した重装豚顔の側面を突いたり、岡本さん達「盾持ち」の間隙から朱音達後衛組が十分な支援射撃を行うことも出来た。すべて「場所が広かったから」出来た戦法だ。
それが一転、現在は幅6mの通路という限定された空間で対峙することになる。こうなると、通路をぎっしり埋める
俺の場合は【能力値変換】を用いた「飛ぶ斬撃」に[魔刀:幻光]が持つ【切断】スキルを組み合わせることで遠くから有効な攻撃を与えることが出来る。だが、これだって無限に出来る訳じゃない。体感的に[魔素力]70位を消費して20秒間に3~4回【切断】効果を持った斬撃を飛ばすことが出来る程度だ。その斬撃も大きく横に薙ぐようなタイプでは効果が薄いので、ぶ厚く狭い範囲に威力を集めた斬撃をイメージしなければならない。
そんな「飛ぶ斬撃」に頼って戦えば、あっという間に[魔素力]切れになる。[魔素回復薬]を使いながら「飛ぶ斬撃」を連発する、というのも戦法の1つだけど……
(ポーションに頼らず切り抜けるのだ。だいたい、最近のコータ殿は「飛ぶ斬撃」に頼り過ぎなのだ。そんなのだから、戦技のレベルが上がらないのだ……)
などと
「わかってるって!」
ということで、傍から見れば(今は誰も見ていないだろうけど)完全な独り言を言いつつ、俺は[幻光]を正眼に構える。目の前には激高して壁をよじ登ろうとする
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――ブンッ
槍を空振りした直後の豚顔は、俺の体当たりで姿勢を崩し、後ろへ下がる。その退き際を追うように、俺は地面スレスレから掬い上げるような斬撃を放つ。狙いは鎧に護られていない膝下。
――ガツッ
という手応えと共に、重装豚顔の膝下鎧に護れていない足が膝下から切断されて地面を転がる。
「フギィィ!」
片足を失った重装豚顔は、そのままバランスを崩して地面に倒れる。これで、3匹目。だけど、トドメを刺す余裕はない。
「――っと!」
直ぐに、別のもう1匹が短槍の穂先を突き込んで来る。
「[抵抗]の4分の1を「敏捷」へ」と念じつつ、俺は斬撃後の伸び切った体勢を強引に立て直す。寸前まで俺の頭があった空間を重装豚顔の槍の穂先が突くが、空振りだ。重装豚顔は慌てて穂先を引き戻す。
その瞬間、俺はチラと「壁」を見た。
壁の
一方、「壁」の状態は? と言うと、
――ドシィン、ドシィンッ
と鈍い音を響かせている。そろそろ崩れるか?
「フゴォォオッ!」
とここで、空振った槍を手元に引き戻した重装豚顔が叫ぶ。まるで、「俺を忘れるな」と言っているようだが、別に忘れていませんよ。ということで、
――シャンッ!
次の瞬間、俺は再度突き込まれた槍の穂先に[幻光]の刀身を当てると、そのまま刀身を滑らせるように穂先を外へ逃す。そしてそのまま一歩踏み込みつつ、[幻光]を平正眼の位置に付ける。結果、
「グェ――」
[幻光]の切っ先は吸い込まれるように重装豚顔の喉に埋まる。ゴツッという手応えは頚椎を断ち斬ったものだろう。
「4匹目――っちぃ」
ただ、4匹目を斃した喜びは無い。というのも、ほぼ同時に、
――ガシャンッ!
と妙に軽い音を立てて「壁」が崩れたからだ。崩れた「壁」は飯田が【生成:障害物】で造り出したものだから、だろうか? 残骸を地面に残すことなく崩れると同時に消滅した。そして、開けた視界の先、通路の奥には15匹程度の重装豚顔の姿がある。さらに、その奥には頭蓋骨を先端に取り付けた悪趣味な杖を持つ1匹の豚顔 ――豚顔
その内、真っ先に動いたのは豚顔SHだった。手に持った骸骨杖を高く掲げる。すると、杖の先端にバレーボール大の火の玉が出現。次の瞬間には俺へ向かって一直線に飛んでくる。
「ヤッベ!」
この時、口では「ヤバイ」と言いつつも、俺は内心で【能力値変換】を発動していた。そして、迫り来る火の玉に向けて「飛ぶ斬撃」を放つ。勿論【切断】の効果を解放した「飛ぶ斬撃」だ。全部咄嗟の「思いつき」だが、多分上手く行く!
振り抜いた[幻光]の刀身から生じた不可視の斬撃が、豚顔SHの放った【火属性魔法】スキルの火の玉と空中で衝突。ただ、残念な事に、初動の差から、衝突地点は俺の
――ドバァンッ
という衝撃と熱が俺の身体を襲う。堪らず俺は地面を転がる。
一方、[幻光]から放たれた斬撃の方は、「火の玉」と衝突して威力が減衰しつつも、そのまま通路を飛んで、重装豚顔の集団にそれなりのダメージを与えた様子。奥から豚に似た悲鳴が上がっている。
「コータ先輩!」
とここで、朱音の叫び声。と同時に
――ブンッ、ブンッ、ブンッ
俺の真上を朱音の風属性矢が音を立てて飛び過ぎる。
「フギィィ!」
通路の奥から他と異なる少し甲高い悲鳴が響く。どうやら今の射撃で、朱音は豚顔SHを狙撃した模様。そして、
「かっかか、壁ぇ!」
次いで飯田の詰まりまくった声が上がり、重装豚顔と俺の間に再び「壁」が姿を現した。
「コータ先輩、もうちょっと頑張ってください!」
とは朱音の声。なるほど、まだ東側通路も片付いていないという訳か。
「分かった、て、痛てて……」
俺は返事をしつつも立ち上がる。手足は無事だが顔が突っ張ったように痛い。
(まったく、魔法スキルの相殺は【戦技】がレベル5になってからやるのだ)
とは、頭の中に響くハム太の【念話】。呆れた調子に聞こえる「声」だが、どちらかと言うと「よくやった」的な心情を読み取ることが出来る。咄嗟の「思いつき」にしては良い線を行っていたのだろう。
(サッサと治すのだ、多少の傷は男の勲章なのだ、でもあんまりだと里奈様が悲しむのだ、それっヒール! あそれ、ヒール!)
そんなハム太の「ヒール音頭」を聞きつつ、俺は[幻光]の柄の握りを確かめる。新しく出来た「壁」の上には、既によじ登ろうとする新手の重装豚顔の姿があった。
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