*10話 3ユニオン合同「井之頭中規模メイズ」⑥ 迫りくる豚の壁
俺達「南側通路」組が
「こっちは重装オークだ!」
丁度、朱音の矢が最後のリザードン・アーチャーを斃したタイミングで、緊張を帯びた加賀野さんの声が聞こえて来た。それで俺は一旦通路を戻って「東側通路」を覗き込む。
「お……多い、ですね」
見た
「飯田さん、しっかりして!」
「飯田先輩、出番ですよ!」
背後からは春奈ちゃんと朱音の声。どうやら「致命傷を受けた」と勘違いして気絶している飯田を起こそうとしているようだ。まぁ、これだけ密集した敵ならば飯田の魔法スキルも障害物も、両方必要になるだろう。
そんな後方のやり取りはさて置いて、俺は再び東側の通路を見る。対峙する
「なんで仕掛けてこない?」
「脱サラ会」の誰かが言うとおり、豚顔達はその場から動かない。まるで何かを待っているような?
(ッ! 南側に新手……重装オークなのだ!)
「え?」と俺。
「どうしました?」と相川君。
ただ、相川君の問いに答えたのは岡本さんだった。
「ちっ、新手だ。こっち側にも重装の豚……数が多い!」
流石の岡本さんもちょっと焦った声になる。
なるほど、南と東から同時に攻撃を仕掛けるつもりか……ということは、タイミング合わせのために【念話】的なスキルを使うことが出来る個体も――
(いるのだ、
俺の内心の推測にハム太が念話で答えを出し、そして……
しかもこの瞬間、【火属性魔法】による「火の玉」は南と東の2方面から同時に投げ込まれた。タイミングをピッタリと合わせた連携攻撃だ。
「ヤバッ」
「チッ」
「クソ!」
誰の声だか分からない悪態が響く。だが、それと同時に、
「かかっか、壁ぇ!」
詰まりまくった飯田の声。
気絶から復活した飯田が咄嗟の判断で【生成:障害物】を発動した。ただし、出来た壁は南側の通路に1枚きり。結果、
――ドォォンッ!
東側通路から飛び込んで来た火の玉が、脱サラ会の久島さんを直撃した。
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久島さんは着弾の瞬間、火の玉から身体を庇うようにポリカ盾を
「クジっち!」
「ショウちゃん!」
といった、悲鳴めいた声が上がる。ああ、久島さんは
「飯田、南側にそのまま壁を展開して!」
「はっはい!」
俺は飯田にそう指示すると、次いで、
「岡本さん、相川君たちも、脱サラ会の援護を!」
と叫ぶ。そんな俺の指示に対して、(流石は「雰囲気秀才」の)相川君が当然の反論を口にする。それは、
「でも、こっち側が!」
というもの。
まぁ、彼がそう言うのは当然で、飯田が使う【生成:障害物】は複数使うことで幅6mの通路を塞ぐことはできるが、上方向にはどうしても隙間が出来てしまう。そして、これは以前の「井之頭中規模メイズ」15層攻略時に得た戦訓なのだが、
つまり、15層以深の
でも、それに割ける十分な人数がない。「脱サラ会」の久島さんが負傷した今、盾は毛塚さんの他には岡本さんと井田君しかいない。3人で6メートルの通路をカバーするのは難しい。左右両脇にサポートする近接組が必要だ。となると、加賀野さん、木原さん、上田君、相川君がその役になる。それに、
「こっちは……1人の方がやり易い事もある!」
俺は相川君にそう答えると、岡本さんと頷き合う。
「任せたぞ、コータ!」
「はい!」
ということだ。
俺は「東側通路」へ応援に向かう面々の後ろ姿をチラと見た後は、視線を南へ戻す。そして、
「飯田! なるべく奥に壁を出してくれ、ちょっとでも時間稼ぎだ!」
「はっは、はい!」
「朱音、
「なんですかそれ! ちゃんと援護しますよ!」
「たのんだ、じゃぁ、行くぞ!」
そんな言葉を交わし、俺は南側通路を一気に駆ける。視界の先には床から迫り出したような飯田の「障害物」が通路を塞ぐが、その上には早くもよじ登ろうと上半身を出した
2匹だ。
前後に潰した豚のような顔。意外に
待ってやる義理はない。なので俺は【能力値変換】による「4分の1回し」を実行。そして、足りない[技巧]の値を[抵抗]から補って、[魔刀:幻光]を横一文字に振り抜く。勿論、【切断】の効果付きだ。
――ズバンッ!
切っ先が空気を切り裂き衝撃を放つ。普段のように広範囲を狙った扇状の斬撃ではない。狙った場所、丁度2匹分の広さをカバーするように凝縮された不可視の斬撃が空を斬る。そして、
「フギィ!」
「フゴォ!」
壁の上に上半身を出していた2匹の
壁の向こうでは同胞の血に興奮したのか、豚の鳴き声が「フゴフゴ、キーキー」と鳴っている。興奮した奴等は、少しは統制を乱すだろう。ここからが、本番だ。
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