*9話 3ユニオン合同「井之頭中規模メイズ」⑤ vs トカゲ人間!
対峙したのは「直立歩行型オオトカゲ」こと、
ただ、コイツは攻撃を仕掛ける寸前まで姿を隠していた。微弱な気配は察知出来たが、此方がその正体を見破るよりも遥かに早く接近していたことになる。そう考えると、コイツ等は――
(リザードン・スカウトが4匹、奥にはアーチャーが4匹、姿隠しのスキルを使っているのだ)
と、ハム太が念話で告げるように、ノーマルな
(で、出てしまったものは仕方ないのだ! て、てへぺろ?)
ハム美の真似をしている場合じゃないと思うけど……まぁ、今はそんな言い合いをしている場合じゃない。
ということで、俺は戦況と目の前の敵に意識を集中。背後の朱音や飯田の具合が気になるが、今は先ず、迫る敵を排除しなければならない。
初撃は[魔刀:幻光]で受けとめた。それでリザードン・スカウトは
リザードン・スカウトの体格はゴブリンよりも遥かに良い。似た体格の持ち主は、レッサー・コボルトになるだろう。身長でいえば165cmといったところだ。その身体で、まるで突進力をため込むように低く身構えている。
俺は相手の一挙手一投足に注意を払いつつ、その一方で周囲の状況を確認する。剣道で言うところの「遠山の目付」や拳法でいうところの「八方目」だ。五十嵐心然流では「鷹の目」と呼ぶ。一点に意識を集中しつつ、視野を広く取るというのは、
結果として状況が分かる。
現在4匹のリザードン・スカウトが俺を含めた南側通路の面々と対峙している。岡本さんが1匹、井田君と上田君で1匹、俺が1匹、そして相川君が1匹という構図だ。
相川君の負担が大きい。
岡本さんが【挑発】を使ってくれれば、と思うが、当の岡本さんは、通路の奥に居る4匹のアーチャーからターゲットを取っている状況だ。今は姿が見えないアーチャーだが、攻撃の瞬間に姿を現す。その間隙に【挑発】を仕掛けたのだろう。結果として、予告なく飛んでくる4本の矢を捌きつつ、すばしこく動くリザードン・スカウトと対峙している状況だ。そんな岡本さんに、相川君の分までフォローする余力はない。
つまり、俺がフォローしなければならない。そのためには――
「シャァァッ」
金属が擦れるような不快な鳴き声を放つ目の前のリザードン・スカウトをさっさと片付けなければならない。
「ジャァッ!」
対峙したリザードン・スカウトはこの瞬間、一気に姿勢を低くする。「飛び込んで来る」と分かる動きだ。勿論、それに付き合う義理は無い。なので、俺は左手を前方に突き出して【水属性魔法;下級】を発動。繰り出すのは無数の水滴弾。それが、リザードン・スカウトの出鼻を
「ジャァ!」
リザードン・スカウトの踏み込みが浅くなる。その状態で刺突攻撃を届かせようと無理に上体を伸ばす。勿論こんな攻撃は、
「ぇいっ!」
肚に溜めた息を短く漏らしつつ、すれ違い
確認するまでもない。交差する瞬間に振り抜いた[幻光]は、確実にリザードン・スカウトの胴を捉えていた。両断とはいかないが、途中で背骨を断った感触があった。3分の2は斬り払っているだろう。即死に近い。
そう判断し、俺は次の標的へ向かう。振り抜いた[幻光]は、そのまま下段の位置で保持。重たい「太刀」を下段に構えることで、全体の重心が下がり、移動が楽になる。そして、3、4歩と足早に進み、
「鋭ッ!」
下段から持ち上げた切っ先をそのまま、相川君に襲い掛かるリザードン・スカウトの胸元へ叩き込む。丁度割り込むような横からの攻撃だ。
「ジョッ――」
リザードン・スカウトはその瞬間、大きく上体を仰け反らせて俺の刺突を躱した。流石に16層。モンスターも強い。でも、今の場合は
「であっ!」
この一瞬の隙に、それまで押され気味だった相川君が反転攻勢に出たからだ。構えた飯田式ソードスピア壱式を鋭く突き出す相川君。【戦技(槍)Lv3】は伊達じゃない。ショートソードほどの刃渡りを持つ両刃の穂先が、リザードン・スカウトの爬虫類の皮膚を突き破り深々の胸に突き立つ。
「――ゴッ」
人間で言えば
これで前列は4対2。後は敵のリザードン・アーチャーをどうにかしなければ。しかし、【隠形行】のような姿消しスキルを使うアーチャーをどう仕留めればいい? 【看破】が使える朱音は先ほどの矢を受けている。これでは――
「【看破】、行きます!」
あれ? 朱音の声? ……もう復活したの?
「大丈夫なのか、朱音?」
「はい、新しい防具のお陰です!」
「飯田は?」
「こっちは気絶してるだけです!」
俺と朱音はそんな言葉を交わす。
後で落ち着いてから聞いた話によると、飯田金属製の「試作乙式5型四肢防護具」が朱音の太腿を守ったらしい。美人コスプレイヤーである
あの瞬間、朱音を襲った矢は、そんな「メイズハウンドの皮」で出来た外革に突き当り、太腿にめり込んだ(痛そう)ものの、貫通はしなかったということだ。お陰でダメージが軽く、[回復薬:小]で事足りたらしい。
ちなみに、飯田の方はというと、俺と同じ「試作丙式3型体幹追加防具」の「大黒蟻の頭殻」を用いた装甲部分に矢を受けていた。ダメージとしては、貫通はおろかかすり傷すらない。でも、「胸に矢を受けた」という思いが先行して軽く気絶していたらしい。まぁ、飯田らしいと言えば、飯田らしい話だ。
とにかく、今は戦闘中。軽傷で済んだ朱音は宣言通りに【看破】スキルを発動する。そして、
「そこっ、あと、ソコとソコぉ!」
と矢継ぎ早に言うと、一番遠いアーチャーへ向けて射撃を開始する。
「コータ先輩も、早くして!」
遠方の敵に向けて矢を放つ朱音は、俺へ急かすように声を掛ける。意味合い的には、比較的近い2匹を「やってくれ」というものだ。この辺はもう以心伝心。
「お、オウ!」
それでもちょっと気圧された俺は、姿を現したリザードン・アーチャーへ一気に斬り込む。肉迫してしまえば、こちらの方が手数に勝る。
結果、朱音が戦線に復帰してから1分以内に4匹のリザードン・アーチャーは全て屠られた。一方、前列の方は井田君と上田君が共同してリザードン・スカウトを仕留め、岡本さんは単独で1匹を血祭に上げた。これで、南側の通路に静寂が戻った。
ただ、これで16層の戦いが終わりだったかと言うと……全然、そんな事は無かった。
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