*7話 3ユニオン合同「井之頭中規模メイズ」③ 効率という名のマンネリ感


 1泊2日の活動を始めた当初、なんというか、メイズ内で過ごす1夜は妙なワクワク感があった。喩えるなら、修学旅行や林間学校、または「五十嵐道場」の面々と出掛けたキャンプに似た「特別なイベント」的なノリがあった。


 「26歳にもなって子供臭い事を」と思われるかもしれないが、平均年齢が30歳を超えている「脱サラ会」や、もっとアダルトな「CMBユニオン」もそんな感じだった。放って置いたら、全員でカレーを作って飯盒はんごうでご飯を炊き始めそうな雰囲気があったものだ(実際は全部レトルトだったけど)。


 ただ、そんなワクワク感も回数をこなすと鳴りを潜め、それに伴い作業感とも言うべき手慣れた感じが滲み出る。当初は宿泊装備がチグハグに豪華だった「月下PT」ですら、最近は妙な玄人感・・・を醸し出している。


 ということで「合同ユニオン」の根拠地となった10層ベースキャンプは、手元の時計で23:00を過ぎる頃には「シン」と寝静まる感じになる。モゾモゾと起きているのは、まだ呑み足りない「CMBユニオン」の一部のおっちゃんだけ、という感じ。俺はと言うと、22:00頃には意識を手放し眠りに落ちていた。


 そして夜が過ぎ、朝が来る。


 大体のメンバーは7:30前には起床してくる。俺の場合は遅くても7:00だ。起きた後の俺は、全員の共同物資である水を大き目の鍋(殆ど寸胴鍋に近いもの)に2つ分汲み取り、2台のカセットコンロに掛ける。所謂いわゆる朝のルーティーンだ。


 寸胴2つの中身のお湯は、1つが飲む用。これでインスタントのコーヒーや紅茶、又はカップスープや中には朝からカップラーメンをキメる人もいる(俺はカップのコーンスープ派)。そして、もう1つがレトルト食品なんかを温める用になる。大体の場合はレトルトパックの白米と、同じくレトルトパックのおかず類が放り込まれる感じになる。


 米派とパン派は流動的だ。ちなみに、最近の俺のメイズ朝食はカップスープとカロリー爆弾的な菓子パンが定番になっている。1袋で1,400KCalもある甘~いパンを半分から3分の2。それを熱々のコーンスープで流し込む。カロリー的には丁度良い感じだろう。ちなみに、残った菓子パンはリュックの中のハム太が胃袋に収納・・・・・することになる。甘辛両方いける口らしい。


 という感じで朝食が済むと、後片づけと並行して各自が装備の点検など準備を始める。ちなみに女性陣はタープテントを利用した仕切りの向こう側が生活空間になっているので、その中で着替えとか、色々しているらしい。


 そして各自の準備が整い行動開始。目標時間は9:00だが、殆どの場合、8:45には準備が整っているので、そこから行動開始となる。今日も今日とて、12~14層。ただ、午後には16層を「覗いてみる」というイベントが有る。さて、どうなるものか……


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 12,13,14層と階層を進むが、現在、最も効率が良いのは14層だ。そのため、14層でモンスターを狩った後は、リスポーンタイムを調整するために13層に戻り、そこで再び狩るか、または休憩場所を確保する程度に留めて、14層のリスポーンを待つ、という感じになる。


 各ユニオン・PTのフォーメーションは、昨日同様に「DOTユニオン」「CMBユニオン」が2方向へ前進し、「月下PT」がバックアップを務めるというもの。これを「2トップ1バック」と呼んでいる。ちなみに、「1バック」を務めるPTは「月下PT」固定ではなく、順次ローテーションしている。


 とにかく、このフォーメーションで14層を「東区画」「北区画」「西区画」の順に狩っていく事になる訳だ。


 以前は、「チーム岡本+月下PT」「脱サラ会+TM研」「CMBユニオン」の3つに分かれて活動する「3トップ」方式を採用していた時期もあったが、色々と比較検討した結果、今の「2トップ1バック」に落ち着いている。此方の方が攻守ともに堅実だし、なにより全体の分散度合が低いため機動性が高くなる。


 実は、この機動力の高さが今の活動では重要になっている。というのも、現在の14層の狩り方は、各区画ともに深入りせず、浅いところで留める感じになっているからだ。どの区画も入ってしばらく進むと大きな広間があり、そこから細かく通路が分岐するが、通路の奥まで入り込むことはしない。理由は単純に効率が悪いからだ。それ以外には、以前俺がまったような「モンスターハウス14.5層」に繋がる罠を避ける、という意味もある。


 どの通路でもスカウトハウンドやコボルト系(チーフやリーダー)の「遠吠え」を利用してモンスターを集める。大体の場合は第1波、第2波、第3波くらいでひと段落する感じだ。そこで、通路を切り替えて、別の方面へ向かう。そうすると、短時間で可成りの数を相手にする事が出来る。


 この辺の工夫について、飯田や脱サラ会の面々は「ネトゲの効率厨みたいだな」と苦笑いしていた。一方、俺は「ネトゲ」の経験はないけども、効率厨の意味は分かる。何となく否定的な語感のある言葉だ。だけれども、現状は誰にも迷惑を掛けていないので問題ないだろう。


 ただ、そうは言いつつも、最近は心の中に「マンネリ」な部分を感じ始めているのは確かだ。[受託業者]としてモンスターを斃し、その収拾品を売って生計を立てる。より稼ぐためにはよりモンスターを斃す必要がある。限られた時間で大きな収入を得るためには効率は欠かせない要素だ。ただ、その「効率」に行動基準を振り過ぎると、「飽き」や「マンネリ」が出てくるのが人のさが


 そういう意味で、「16層へ」と主張した「月下PT」の主張が受け入れられる土台は、既に出来ていたのかもしれない。


 ただ、「効率的な狩り」がしみ込んだ身体で臨む「未知の16層」。その危険度について、俺達は多分、鈍感過ぎた……。


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井之頭公園中規模メイズ - 16層


 到着時刻は7月5日の午後。丁度14;30だった。


 16層に降りて直ぐの印象は……特に目新しいものはない。壁の感じも天井の感じもこれ迄と同じだ。


 ただ、構造は始めて見る感じが強い。階段を下りて直ぐの空間6mx6m程度のサイズ。「合同ユニオン」のメンバー全員が立つには少し手狭に感じる。そんな狭い階段下から東西と南へ合計3本の長い一本道が伸びている。通路の先が見通せないので、多分、40m以上ある直線通路なのだろう。ちなみに通路の幅は6mだ。


「Record start. July 5th 2;30 PM. Now we are in the 16th floor of Inogashira middle grade maze. Camera recorder is Mr.Ninomiya,――」


 近くではウェアラブルカメラを装着した「ヒョロガリ眼鏡の二宮」君に向かって、月成凛つきなりりんが突然英語で喋り出した。どうやら「国際メイズ学会」にレポートするための動画を撮るようだ。


 何となく、声が入ったらマズイと思い、誰も喋らず月成が撮影を一旦止めるのを待つ。一方、月成の方はひと段落したように言葉を区切ると、


「ん? 皆さん、どうされました?」


 と、とぼけた感じで聞いて来た。


 もう、この頃になると、月成凛のこういう感じ・・・・・・は全員が慣れっこになっているので、文句を言う人間は居ない。全員が「やれやれ」と言った感じに成る。そして、この後の行動について軽い話合いになった。

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