*6話 3ユニオン合同「井之頭中規模メイズ」① 1日目前半!


 先行した「GLクラン」の約40分遅れで、俺達「3ユニオン合同」はメイズに入った。予想通り、1層、2層と進む間、モンスターに出くわすことは無い。全部処理されてリスポーン待ちの状態なのだろう。なので、俺達「3ユニオン合同」は、只前に進むだけ、という状況になる。


 ちなみに、この「3ユニオン合同」という名称についてだが、以前に何度か


――なにかいい名前を付けよう――


 という話が話題になった。まぁそれを言い出したのは「月下PT」の月成凛つきなりりん達だ。対して他の面々は


――名前なんて別に良いだろう、勝手にすれば――


 という塩対応だった。ただ、その言葉を「承認」だと理解した月成凛達は結構トンデモナイ名前を考え出した。詳しくは覚えていないが、「○○△△騎士団」とか「ブライト・オブ・××○○」とか、聞くだけで鳥肌が立つような「厨二テイスト」な名前だ。それを聞かされた俺達面々の半数は白目を剥くような感じになってしまったものだ。


 まぁ、よくよく考えれば、普段「月下、月下」と呼んでいるが、彼女らの正式名は「月下刀葬」だ。その命名センスたるや推して知るべし・・・・・・・。「月下の良心」とも言うべき「クールガイ神宮寺」君や「ポニテ美女神谷」さんをしても、


――え? 何か問題でも?――


 という反応だったから、あのPTは全員病気持ち・・・・だ。


 結局「3ユニオン合同」は呼びにくいので「合同ユニオン」という呼称で落ち着いた。対して「余り変わらない」という月成達の抗議は……黙殺された。


 ちなみについでの話になるが、「PTパーティー」や「ユニオン」「クラン」といった組織のうち、「ユニオン」という複数PTがその都度組んで活動する形態は「日本独自のメイズ文化」らしい(里奈談)。


 銃火器を持てない日本の[受託業者メイズウォーカー]が作り出した苦肉の策とも言うべき活動形態だが、「PTでは足りないけれども、クランでは多すぎる」という状況にマッチしている模様。装備に制約がある割りに、日本のメイズ開発が進んでいるのはこの辺の事情が大きく貢献しているらしい。


 なので、[管理機構]もこの「ユニオン」という仕組みをもっと積極的に展開したいと考えているらしいが、現状は何も出来ていない。というのも、「ユニオン」の最小単位になる「PT」に対してすら、現状の[管理機構]の仕組みでは十分なテコ入れが出来ていないからだ。


 現状、PTを登録することは出来る。ただ、これは「登録するだけ・・」だ。別にPTを組んだからと言って何かしらの恩典が有る訳ではない。なので、中には登録したPTとは別の人間と組んで活動している[受託業者]も居るし、そもそも組む必要性を感じずに浅い層でソロ活動をする者もいるようだ。


 こういう状況に対して[管理機構]は、


――次回の3期募集に合わせて「PT」と「ユニオン」の活動に恩典が出るような制度に変わる予定よ。でもね……岡本さん達には悪いけど、多分Aランク、Bランクの既存の恩典がちょっと削れるわ。謝っておいてね、コータ――


 と里奈が説明するような状況らしい。まぁ、全体としてプラスマイナスゼロになるように調整するらしい。


*********************


 などと、余計な事を考えている間も俺は周囲に対する【気配察知】は怠らない。


 ただ、3層、4層と進んでも、モンスターの気配はない。俺だけが感じ取れていない訳でなく、「CMBユニオン」の【気配察知】持ちのおっちゃんも、「TM研」の【索敵】持ちの小夏ちゃんも、「月下PT」の【気配察知】持ち「ヒョロガリ眼鏡の二宮」君も、全員がモンスターの気配を感じ取れていない。


 それだけ、先行した「GLクラン」の面々が素早く丁寧に狩っていった、ということだろう。


 そうこうしている内に5層に到着。


 5層では、その「GLクラン」が丁度「これから6層へ行くぞ」となっている状況だった。なので、そんな彼等の気合に水を差すような感じになってしまったが……ここでお互いの行動を確認しておくことは双方の安全のためにも大切なステップになる。


 なので、俺達を代表して加賀野さんが「GLクラン」のリーダーだという30代前半の男と短い話をした。その結果、


「彼等は6層と7層を行き来して狩るらしい。だから後ろをついて行くことになった」


 とのこと。7層までは彼等の後ろについて行って、7層の適当なところで「合同ユニオン」が前に出るという話になったようだ。


 まぁ、この「井之頭公園中規模メイズ」の内部は広大なので、「GLクラン」は6層こそ贅沢に使うものの、7層では全面使って狩りをすることは無いらしい。なので、丁度良いところで「合同ユニオン」は8層へ降りる階段に繋がる通路を進むことになる、ということだ。


 少しまどろっこしい・・・・・・・気もするが、時刻はまだ10;30過ぎ。焦って先を急いだ挙句、彼等の狩りのペースを乱すのは良くない。それに、最近明確に定着しつつある「先行者優先」というルールを守るためにも「マナー良く行こう」という事になった。


*********************


 「GLクラン」は7人PT5つの35人で構成されていた。見た感じ年齢層は20代前半から30代前半といった感じ。女性メンバーも6人ほど混じっている。末期の「赤竜・群狼クラン」のようなすさんでヤサグレ・・・・た印象はない。寧ろ爽やかさすら覚える気がする。


 そんな彼等はと言うと、


「なんだか妙に緊張しますね」

「トップPTに見られていると思うと、流石にね」

「いや、いい機会だから、何か指摘が有ったらお願いしたいです」


 などと言っていた。多分、稼ぎが安定しているからなのだろう、緊張感は有るにしても過剰にピリピリしているという風でもない。


 ちなみに現在地は、通称「大黒蟻の巣」と呼ばれる6層の中ほど。ここでウンザリするほどの数の大黒蟻を相手に「GLクラン」の各PTは危なげない戦いを繰り広げている。「何か指摘が有ったら教えてください」と言っていた彼等だが、特に言うべき点は見つからない。前衛・近接・後衛と役割分担も明確だし、連携も上手く出来ている感じだ。流石に「[修練値]450前後なのだ」というハム太の見立て通りだ。


 欲を言えば、大黒蟻のように装甲が硬いモンスターに対して、後衛が持っている普通のクロスボウやアーチェリーが有効なダメージを与えられていない、という点か? 魔法スキルなんかを習得すれば、もうちょっと戦闘に寄与できると思う。でも、その程度だ。


 ということで、6層を粗々と狩った彼等は7層へ降りる。その後を「合同ユニオン」もしずしずと付いて行く感じになる。


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