*75話 複合スキル【千里眼】
***「第六局第二工作班長」鄭視点****
何かがおかしい。
戦闘開始直前から感じていたオレの違和感は、
「なんで!?」
隣の
「変です!」
郭の声が上がる。
確かに変だ。あの盾は特殊なのか? それとも、何かスキルを使って弾の威力を落としているのか? オレは手がかりを得ようとして【千里眼】を発動する。しかし、
「――?」
【千里眼】が持つ機能の内、【鑑定】が上手く機能しない。まるで濃い霧か、そうでなければ
「なんだ、これは?」
思わず呻くように声を出してしまう。
とここで、前方から爆発音が響く。
「郭、2人に呼びかけろ、どうなっている?」
「はい ――! 曹が右手に被弾、遼は……手榴弾の至近弾で重傷のようです!」
郭が【念話】で呼び掛けた結果、左右に展開した2人は反撃を受けていた。
「郭、2人を……いや、遼を優先して回復させろ! 曹は自力で何とかなる!」
「わかっています!」
そんなやり取りで郭はコンテナ側の遼の元へ移動する。その後ろ姿を見送りつつも、やはり状況の奇妙さを感じざるを無い。
そもそも、日本のSATはスタングレネードを装備しているが、加害性の高い手榴弾は装備していない筈だ。何処かで装備編成が変わったのならば、「変わった」という情報が入って然るべき。しかし、実際は――
(
と、ここで郭の【念話】が入る。取り敢えず遼も曹も無事だと言うので一安心。ただ、それ以外の内容に理解が追い付かない。まるで、【収納空間】持ちがもう1人この場にいて、投げ込んだ手榴弾を瞬時に取り込み別の場所で取り出したような……
(曹も同じ風に言っています。とにかく遼は無事で、曹の方も移動を開始しました、合流します)
「分かった!」
状況は物事を深く考える余裕を与えてくれない。というのも、正面で後退する動きを見せていた日本のSATが、何を思ったのか前進を開始したのだ。恐らく状況が好転したと踏んだのだろう。だとしたら舐められたモノだと思う。
確かに【暗黒場】と【千里眼】を合わせた一方的な展開は阻止されたが、それでも此方にはそれ以外の戦力がある。オレから残り3人に対して【念話】を発信することは出来ないが、それでも、オレの行動を見ればあの3人なら何を意図しているか察するだろう。
オレはそう考えて、意識を集中。スキルの発動に備える。発動するのは【火属性魔法:上級】。此方に伸びる一直線の通路状の空間が発動場所だ。その通路のような空間の左右に張り出した障害物に身を隠しながら近づいてくる日本のSATを燃え上がる灼熱の地獄に送り込んでやろう。
「炎獄、発動」
*********************
**SAT隊 隊長視点**********
前方からの射撃が一時的に弱まった。この隙を利用して、私は隊を一気に前進させる。
「カバーリング、てぇ!」
号令に従って断続的な射撃が起こる。それを合図に1班のポイントマンを先頭にした3班の面々が左右の障害物を伝って通路状の空間を前進。対して前方からの応射は無い。
「隊長、そろそろバレルがヤバイかもしれません」
「妙に弾が落ちるんですよ!」
私の近くで援護射撃をする隊員がそう告げるが、今は銃を分解整備するような場合ではない。
「ダメだと思ったら各自の判断で拳銃に切り替えろ」
私はそう答えると、視線を前方へ移す。敵(と、恐らく金元や朴木)が居る場所まで、距離にして25m。バスの陰に籠っていた時と比べて、約半分まで詰めた状況だ。そして、今の前進で、先行した3班の隊員は更に10mほど先に行っているから、敵との距離は15mまで詰まっている。
後は、後続の私達も距離を詰めた上で、「音響閃光弾」を投げ込み一気に制圧。ここまで来ると、様々な状況を想定して繰り返した訓練の中の1パターンに似てくる。恐らく制圧はスムーズに運ぶだろう。気を抜ける訳ではないが、そう思うに足るほどの練度が私達にはある。
既に前進した3班は此方の行動を援護するための牽制射撃を開始している。この辺りは阿吽の呼吸だ。私は最後の一手に向けて、後続の4班に前進の指示を出す。
「4班、前し――」
ただ、私はこの言葉を呑み込む事になる。というのも、不意に前方 ――10m先の3班の面々の後ろ姿―― がまるで
「な?」
ゆらりと揺れる視界は、次の瞬間、鮮やかな朱色に染まる。そして、
――カッ
と音が出るような閃光を発した。
視界が真っ赤に染まり、次いで、全身を焼き尽くすような熱が襲う。身体は膨れ上がった空気の塊によって弾き飛ばされる。足元から地面の感覚がなくなった。その間、私の【指揮者】スキルによって明晰化した思考は「仕掛け爆弾か?」と状況の答えを求めるが、もう何もかもが遅かった。
――ドォンッ!
強烈な熱と共に伝わる轟音を私は宙に舞いながら聞いた。そして、感覚が音を失くす。視界も赤い闇の中へ落ち、何処かに落下したはずだが、その衝撃や痛みすら感じなかった。
*********************
***「第六局第二工作班長」鄭視点****
やはりオカシイ。
オレのスキル【火属性魔法:上級】による「炎獄」の威力は、本来
スキルを発動した瞬間、妙な手応えが感じられたのは確かだ。まるで何者かが威力を減じる「囲い」のようなものを爆心地の周囲に張ったような、妙な閉塞感だった。そして、その妙な手応えの原因となった存在を、この時、
それは、オレの前方、ちょうど「炎獄」の爆心地付近の空中に
「!?」
その
そうしながら、同時に【千里眼】スキルを発動させると、先ほどまで
ならば、今の内に正体を見てやろう。それに、9層に残してきた3人の部下の行方も確認しておきたい。
オレはそう考えて【千里眼】を強く発動する。その結果、先ず見えて来たのは9層に残してきた3人の部下の様子。
今は7層の中ほどを移動しているようだが、全身にガムテープを巻かれた状態で床を引き摺るように引っ張られている。1人は意識不明で、他の2人は意識があるようだが戦闘不能状態。全員が拘束されて連行されている。そんな風に見えた。あの3人を取り戻すためには「転移石」の使用が必要だと判断せざるを得ない。
次に見えて来たのは、この10層に入り込んだ
「?」
一瞬驚くが、認識阻害系スキルを使ったのだろう、と結論付ける。そして残った男女2人に焦点を当てると、その格好からして日式の[
そして、最後に見えて来たのは
ただ【千里眼】スキル特有の【直感】や【予知】の部分が、その存在に「妨害はするが、加害は出来ない」という
(――鄭隊長、一体なんですか? 突然「炎獄」とか「穿火槍」とか、止めてください! 巻き込まれるかと――)
その瞬間、不意に割り込んで来たのは郭が発する【念話】だった。それで、思わず意識が逸れる。その僅かな間で、俺は再び【千里眼】の効果を失ってしまった。妨害が再開されたようだ。
(マズかったですか?)
オレの思考を読み取った郭は文句を引っ込めて気まずそうな念話を送って来る。対してオレは、10層に
(分かりました、遼をそちらに行かせます。私は曹の援護に回ります)
郭はそんな【念話】を返して来るが、オレはそれに反対。郭には此方へ戻るように指示する。侵入者への対応は曹と遼に任せる格好だ。2対3か4になるが、まぁ問題ないだろう。寧ろ
(――朴木ですね、分かりました。合流します)
郭からの返事を聞きながら、私は足元を見下ろす。そこには、又もや虫の息状態に逆戻りした朴木の姿があった。[魔坑核]を受け取るまで、この男には死んでもらう訳にはいかない。再度、郭の【回復魔法:上級】が必要な状態だが、なんとも面倒臭い話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます