*74話 複合スキル【指揮者】
(【暗黒場】とは珍しいスキルニャン)
戦場と化した10層を見下ろす魔法少女ルックの造魔生物(ハムスター)は、そう独り言を呟く。そして、奥の方へ視線を向けると、
(それに【千里眼】持ちが居るニャン……「見られていた感じ」の正体はアレニャン……だとすると、もう少しテコ入れが必要な感じ……あんまり被害者が多いと里奈様もコータ様も凹むニャン……)
と、独り言を続ける。その後は、
(世話が焼けるニャン、お兄様と同じニャン)
などと呟きつつ、2度ほど星型の魔法少女ステッキを振るう。
(手遅れな人には申し訳ないニャン、でもまだ生きてる人には[
**SAT隊 隊長視点**********
視界が戻った結果、敵と我々の位置関係が分かった。正面に続く通路のような何もない空間の先に2名。恐らく金元恵や朴木太一は、その周辺の物陰に押し込められているのだろう。距離にして40m程度だ。
一方、左側の壁際に積み上がったコンテナの上と、反対の右側に出来上がったコンクリ片と砂利の山の上に
「牽制射撃、切らさず撃て!」
元から、全員がそのつもりらしく、左右のバスの物陰から頭を出した3班、4班の面々は、射線を左右の2カ所と正面の1カ所に分散させている。正面を牽制する事は当然として、対角線上の左右へも射撃を行っているのは、手りゅう弾の投擲を警戒してのことだ。視界が戻ったので、当然の如く敵側の投擲は正確になる。現状、左右2台の大型バスの背後に押し込められている我々にとって、頭上から投げ込まれる手りゅう弾が一番の脅威だ。
ただ、牽制しているだけでは
「右側の敵、狙撃できるか?」
私は同じ班の狙撃手に声を掛ける。
「はい、顔を出してくれれば、やります!」
「頼む、4班、右への牽制は少なめに。おびき出す!」
「はい!」
これで上手く誘い出せれば、敵の脅威は半減するが、果たしてどうか?
「隊長、1班が――」
と、ここで別の隊員の声が掛かる。それで私は視線を階段の方へと移す。階段手前の開けた場所に1班の盾持ち(ポイントマン)が到達しているのが見えた。
ポイントマンは膝立ちの状態で
当然の如く、正面奥の敵からの射撃がポイントマンに集中するが、防弾盾は貫通力の高い銃弾によく耐えて……いや、明らかに不自然なほど高い防御力を示していた。本来、あの盾は「NIJ規格レベルⅡ」相当品だから、精々が9mm拳銃弾に対する防弾性しか有しない。一方、敵が使用している銃弾は、8層や9層で回収した空薬莢から見て5.7x28mmのFN社が作ったPDW仕様の弾で間違いないだろう。
そうなると、こちらの防弾盾は数発程度持ち堪えたとしても、直ぐに防御力を失うはずだ。しかし、実際には度重なる着弾を問題無く撥ね退けている。不自然過ぎる光景だ。
その光景に思いついた事は、「弾が中国製なのか?」ということ。実際、敵が使用する弾丸は此方の隊員を加害している。米軍の講師が語るところの「
実際、弾丸が何処製であっても「9mmMiZ弾」と同じ組成と性質を持つなら、欠点も同じになるはずだ。つまり、バレル内抵抗によって銃口初速が下がり、また弾体強度も若干劣る、という「9mmMiZ弾」の欠点と共通する問題がある筈だ。その結果として、
だが、そうだとすれば、通路の中央で倒れている2班のポイントマンが同じ規格のより強固なレベルⅢA相当の防弾ベストを撃ち抜かれていることへの説明が付かない。
一体どういう事だ? 何かが不自然だ。
だが、今の状況はそんな「不自然さ」に対する考察を許さない。私はそんな「不自然さ」に対する思考そのものを無理やり脇に押しやるようにする。
そもそも私の一連の思考は全て【指揮者】というスキルの効果だ。米国での訓練中にホスト国の米国から提供された(実際は日本側が購入した)このスキルは幾つかのスキル効果を統合したものだという。その中に含まれる【明晰化】というスキルが、往々にして無駄な思考を強いてくるのだ。これはもう、弊害といっても良いかもしれない。
ただ、実際には通常の3倍程度の量の思考を、同じく通常の3倍近い速度で処理する感覚だ。なので、外面的には余計な時間を取られるようには見えないが、頭の中にはまるでエラーログを蓄積したような思考の結果が残る。そういう思考の処理や活用を含めて、頭の働き方が変化したことに対応するまでは、少し時間が掛かったものだ。
勿論、私が習得した【指揮者】はこのような悪い面ばかりではない。寧ろ部隊行動をとるためには非常に有用なスキルだと言える面が多い。例えば、【能力向上】の効果は各隊員の身体能力を上乗せするし、【士気高揚】や【不屈】は、隊員の精神を強くする。先ほどのように暗闇に包まれた状態で一方的に攻撃を受ける場面でも、(多少取り乱したりはしたが)結局誰も勝手に逃げるようなことはしなかった。
結果として、状況が幾分好転した現在、部隊は直ぐに指示通りの行動を行うことが出来る。
「後退急げ!」
私は1度出した指示を繰り返す。
結果として、ポイントマンが十分に持ち堪えたため、全部で6人居た負傷者はすべて階段まで後退することが出来た。
と、ここで、今度は4班の面々から声が上がる。それは、
「手りゅう弾だ!」
「3班! そっち!」
という警告の声。右側の土砂の山に隠れていた敵は、牽制射撃が緩んだ結果、次の手りゅう弾を投擲したのだ。当然の如く、
――バンッ!
その瞬間を待ち構えていた狙撃手は、投擲体勢の敵を狙い撃つ。弾は敵の体幹部を外れたが右手を撃ち抜いた模様。狙撃手が「チッ、妙に弾が落ちる」と毒を吐く。
一方、投げ込まれた手りゅう弾はバスの上を飛び越すような放物線を描き、3班側へ飛び込む。だが、
「えっ?」
「どうした?」
「不発か!」
実際は「何がどうなった」のか分からないが、手りゅう弾は起爆しなかった。それどころか、投げ込まれたはずの手りゅう弾
――バンッ!
という破裂音が起こった。同時にあ「あぁ!」と悲鳴のような声が上る。今のは誤爆か? だとすると、不発と誤爆が交互に起こった? そんな事があるのか?
「隊長、今なら!」
と、ここで3班班長の声。「今なら」とは、今なら「イケる」ということだろう。【士気高揚】と【不屈】の効果か、誰も本来の任務を諦めていない。それは私も同じ事だ。さっと周囲を見渡すと、既に負傷者が後退した状況なので、この場には3,4班を合わせて8名が居ると分かる。とここで、
「戻りました!」
更に階段側から戻って来た1班のポイントマンを加り、全部で9名になった。
「よし、前進、敵は残り2人だ、制圧する」
多少の迷いは有ったが、私はそれを振り払い、任務を遂行する事を選んだ。
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