*56話 「双子新地高架下メイズ」⑤ 俺Tueeeなの?
「手早く終わらせる」
「レッサーコボルトに『遠吠え』を使わせないように――」
「分かってる、コータはメイズハウンドの方を頼む」
「了解!」
ということで、俺と岡本さんは7層階段下の広場に飛び出す。
飛び出した俺の背後では、岡本さんが【挑発】スキルをレッサーコボルトに使用。【挑発】が効果を発揮する一瞬前には、レッサーコボルトが(多分飛び込んで来た俺達に驚いたからだろう)広間の奥の方へ向けて「遠吠え」を発しようとしていた。なので、ギリギリのタイミング、といったところだ。
結果として、レッサーコボルトは「遠吠え」を発する事をすっかり忘れたように、粗末なこん棒を振り上げて岡本さんへ突進する。
一方、俺はというと、ドサクサに紛れて持ち替えた[魔刀:幻光]の鞘を払いつつ、手近のメイズハウンドから順に斬りかかる。
カツンッ――
という軽い手応えは、まるで枯れ枝を払ったような感触だが、[魔刀:幻光]はその一刀でメイズハウンドの首を易々と断ち斬っている。思わずゾッとするような斬れ味に、俺は心を一層引き締めると、次、次とメイズハウンドへ斬りかかる。
全部で10匹居たメイズハウンドの内、6匹迄をほぼ一太刀で斃すと、残り4匹が逃げ腰になる。とここで、レッサーコボルトを葬った岡本さんが、通路を塞ぐように回り込み、メイズハウンドの退路を断つ。
結果として、7層階段降りて直ぐの広間の戦いは
俺と岡本さんは、階段の方へと引き返し、そこからこちらを覗いていた赤竜第2、第3PTへ向けてもう一度
「なぁ、先へ進んだ第1PTの連中とは何時ごろに別れたんだ?」
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一度目に質問した時は、流石に彼等も「関係ねぇだろ」とか「なんで、第1PTとか知ってるんだ?」などと言って素直に答えてくれなかった。なので、目の前に
直接彼等に対して実力行使をしようにも、狭い階段に12人+2人が
ということで、2度目の質問になった訳だが、今回こそは、
「え、えっと、1時間半ほど前に……別れました」と、連中のリーダー格。
「どっちの方へ行った?」とは岡本さん。
「あ、あっちの通路に入って行きました」言いつつ通路の1つを示すリーダー格。
「そう言えば、マップ持ってる?」これは俺。
「は、ハイッ、どうぞ――」別のヤツが、そう言ってA4サイズのクリップボードを差し出す。
こんな感じで素直な受け答えになった。
「マップ、借りて良い?」
「ど、どうぞ、持って行って下さい」
そんなやり取りで、俺は7層途中までのマップ情報を入手した。マップの書式は[管理機構]のWEBページにあるやつをダウンロードしてプリントした感じ。7層の半分以降は白紙になって[No-Data]となっているから、ここまでしか情報が無いのだろう。
「ああ、途中までしか無いんだ……」
「すすすっ、すみません!」
とは、俺にマップを差し出してきたヤツ。別に謝る必要はない話だけど、妙に怯えたような視線を向けてくる。そんなに派手にやったつもりはないけど、さっきの示威行為が効き過ぎた感じだ。少し居心地が悪いので、俺はそいつの視線を避けるようにして今ほど聞き取った内容を整理してみる。
7層の
ちなみに、ここまで来る間は、
「4層くらいまでは第4とか第5PTの奴等が先頭だったけど、途中で『遅い』ってことで第1PTの人達が先頭を交代して、俺達はその後ろでバックアップでした」
という感じで進んでいたようだ。
「メイズに着いたのは9時だったんですけど、ちょっと待機になったんで――」
「中に入ったのは午前の10:00頃です」
という事も分かった。今の時刻が16:30前なので、約6時間で9層か10層に到達したことになる。ちょっと時間が掛かり過ぎか? 途中までは格下のPTが先頭を進んでいた事を考慮しても、赤竜・群狼の第1PTの実力は思った以上に低いのかもしれない。
一方、正体不明の7人組(多分「統情六局」の連中)はというと、
「『遅い』って文句を言う癖に、後ろから見ているだけで、特に戦闘に加わる事はなかったです」
「なんだか、妙に余裕がある感じで、俺達を見下している感じがして――」
「感じが悪かったです」
という事だった。う~ん、余裕だったのか、自分達の戦闘を見せたくなかったのか……
(吾輩、ちょっと嫌な予感がするのだ、その7人組は要警戒なのだ)
そうだな。俺も同じ感じだ。
「よし、行くか」
と、ここで岡本さんの声が掛かる。その声を受けて、俺はチラと時計を確認。時刻は16:33だった。このメイズに入ったのが14:00頃だったから、これまで2時間半が経過していることになる。途中の6層で行ったり来たりをした割には(後は、普段の「チーム岡本」フルメンバーでない事を考慮しても)そこそこのペースで来ていることになる。
でも……そういえば、岡本さんって今日は遅くなっても大丈夫なのだろうか? 確か、明日は「法事」と言っていた気がする。これまで、何となく俺の行動に付き合わせてしまった感があるけど、場合によっては戻る事も考えないといけない。それに、どこかで里奈と合流して状況を伝えた方が良いかも……
「ん? オレは大丈夫だぞ、メイズに入る前に嫁さんに連絡したからな」
ただ、岡本さんは俺の考えを汲み取ったようにそう言うと、先に通路へと入って行った。なので結局、俺はそんな岡本さんの後を追うように通路へと足を進めることになった。
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結果的に「この時戻っておけば」というような後悔には……ならなかった。
どの道、里奈は仕事(任務と言っても良いかも)のために奥へ進む事になるのだし、実はこの時には、結構近くまで来ていたからだ。それに、この時先へ進む事を選択していたからこそ、
それは、8層から9層へ降りる階段手前で遭遇した光景だった。
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