*54話 「双子新地高架下メイズ」③ 思わず人助け
大体何処の小規模メイズでも、6層は大黒蟻の巣と呼べるような状況だ。体長60~80cm前後の黒い外殻を持った巨大サイズの蟻が、ワラワラと群れで出現する。一般の[受託業者]にとって「4・5・6の壁」と呼ばれる地帯の最終関門となる。この場所を抜ける
ただ、大黒蟻というモンスターは、単体で見るとそれほど強いモンスターという訳ではない。強靭強固な顎が生み出す切断力は大型のケーブルカッターも
また、硬い外殻、特に頭部を守る頭殻は
つまり、
まぁ、5層の
特に一度殲滅されてしまうとリスポーンしない性質上、現在公開されているメイズで5層に
そのため、5層のフィルター無しに、そのまま6層に来てしまう[受託業者]PTは一定数居る。そう言う場合は、結構苦労する事になるかもしれない。場合によっては酷い怪我や死人だって出る可能性がある。現に今も‥……
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6層に入り、リスポーンしたと思われる大黒蟻の集団を
進む道順については、「あてずっぽう」に通路を選んでいる訳ではない。6層降りて直ぐの広間からは3つの通路が伸びていたが、その内1つの入口付近に先行した「赤竜・群狼」クランのPTの物と思われる荷物が置いてあったからだ。その通路を選んで奥へと進んでいる。
そして、しばらく進んだ時(感覚的には6層中盤の手前と言ったところ)、目の前に妙な痕跡を発見した。それは、
「ドロップだよな、コレ」
「[メイズストーン]ですね……あっちには[大黒蟻の頭殻]も落ちてます」
というもの、丁度通路の角を折れ曲がったところで、視界に入って来たのは、床にポツポツと散らばっているドロップ品だった。しかも、
「これ……プロテクター?」
「多分、例の中華製の安物プロテクターじゃないか」
と言うように、床には黄色や黒色のプラスチック片も同じ様に落ちている。そして、
「あっ」
「どうした、コータ?」
「これって……血痕じゃないですか」
「う~ん」
少し先には、掠れて消えかかっているが、明らかに血の痕だと分かる赤黒い筋が奥へと続いている。全体として不穏な雰囲気だ。
「6層にしては
「もしかして、この先に?」
俺と岡本さんは顔を見合わせる。
「とにかく、行ってみよう」
「そうですね」
という事になった。
通路には、相変わらず大黒蟻のドロップ品と、[受託業者]のものと思われる赤黒い血痕(大黒蟻の体液って黄緑色だし、床に滲むほど出ないからね)が続いている。そしてしばらく進んだところで、俺の【気配察知】スキルが、前方に
(大黒蟻は40匹前後で、人の方は10人なのだ。ただ、人の方は負傷しているのか死んでいるのか……2人ほど動いていないのだ)
流石です、ハム太大先生!
(コータ殿は、もっと【気配察知】の精進を積むのだ)
うるせぇ、一言余計だよ。という事で、
「先に大黒蟻と戦っている人が居るみたいです。数は40匹前後、戦っている連中は10人で、その内2人は怪我人みたいです」
「分かった……戦っているのは赤竜・群狼クランの連中か?」
「多分そうでしょう」
「とにかく、急いで行ってみよう」
そんな会話を交わしつつ、俺と岡本さんは通路を走り出す。ちなみに、落ちていたドロップ品はハム太が【収納空間(省)】でちゃっかり回収している。ネコババかな?
(吾輩、猫は嫌いなのだ)
しらんがな。
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大急ぎで現場に駆け寄る。場所は通路の角を曲がった先に有った。20mほどの直線通路の先が、再び左に折れる角になっていて、その角に10人の[受託業者]が居る。ただ、その手前(俺と岡本さんと、[受託業者]達の間)には20匹程度の大黒蟻。また、曲がった先の通路の奥にも同じくらいの数が居そうだった(流石にここまで接近すれば俺の【気配感知Lv2】でも分かる)。
「大丈夫か?」
と、岡本さんの大声。対して、あちら側からは
「助けてくれ!」
「早く!」
という悲鳴じみた声が返って来る。う~ん、ちょっと情けない?
(彼等の[修練値]は350程度なのだ、ただ、スキルが殆ど無いのだ、アレだと6層はちょっと荷が重いのだ)
なるほど、なんだか出会った当初の[CMB]のおっちゃん達みたいだな。
「赤竜群狼クランか?」
「そうだ、早く!」
「うわっ!」
「アキノリ!」
うん……もたもたしていると、犠牲者が増えそうな感じだ。特に「赤竜・群狼」クランの連中に想い入れは無いけれども、この場合は恩を売っておけば協力的になるだろう。我ながら実に、
(腹黒いのだ)
お前に言われたくないよ。ということで、
「やりましょう!」
「おう!」
となる。
その後の経緯は結構アッサリだった。
まず、岡本さんがこちらから見える大黒蟻の集団に【挑発】スキルを掛ける。それで10匹程度が、こちらへ向かって来た。その10匹に対して、俺は【水属性魔法:下級】を発動。イメージは「月下PT」の百合系女子工藤さんの得意な「水滴弾」だ。細かく硬い水の粒を向かってくる大黒蟻の集団にぶつけるイメージ。そのイメージ通りに、俺の
実際、硬い装甲を持つ大黒蟻に、直接的なダメージは少ない。でも、今の攻撃で前進速度が遅くなり、大黒蟻は通路の途中で団子状のひと塊となる。そこへ、
――ズバンッ!
俺は木太刀のままで「飛ぶ斬撃」を放つ。結果は10匹を一網打尽。はね飛ばされた数匹の死骸が、先の「赤竜・群狼」クランPTの中に飛び込んだりしたが、まぁ問題なし。
「次!」
「はいっ!」
と、ここで、岡本さんがもう一度【挑発】を発動。それで、残りの10匹が同じ様にこちらへ向かってくる。後は繰り返しになる。
6層中盤付近の戦闘は、5分も掛からずに終息した。
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