*53話 「双子新地高架下メイズ」② 5層通過
5層はガランとした空間だった。当然だけど、
その証拠、という訳でもないが、5層の壁沿いには何カ所か荷物を固めて置いてある場所がある。どれにもビニールシートが掛けてあり、中には
ただ、見た感じどの荷物も「赤竜・群狼」クランの物ではなさそう。多分、このメイズのローカルルールだろうけど、どの荷物にも持ち主のPT名と連絡先の携帯番号が書かれた紙が貼られている。そんな荷物の持ち主達は、今日はメイズに来ていないようだ。まぁ、入口にあんな連中(チンピラ風の男達)が居たら、だれも寄り付かなくなるというもの。
「盗られたり、心配じゃないのか?」
「そんな貴重品は置いてないんでしょう、たぶん水とか簡易トイレとかじゃないですか?」
岡本さんと俺は、そんな光景を横目に5層を通過する。
ちなみに、5層に「赤竜・群狼」クランの姿は無かった。俺の予想ではそれなりの数のPTがこの5層で休憩していると思っていたのだが、そうではなかった。ちょっと肩透かしを食らった気分になる。場合によっては、可成りの人数から妨害を受けて、それを強行突破しなければならないと考えていたので、尚更だ。
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ちなみに
事件当時(半年ほど前)の彼等は
まぁ、当時の彼等はリーダーの朴木が使う
辛うじて覚えているのが、赤竜第1PTの
とまぁ、その程度のメンバーしか居ないPTだったから、主力(朴木と金元)の2人が抜けた後は、「大したことはないだろう」ということになる。現に、これまで通過した場所に居た3つのPTに聞いた話では、赤竜・群狼、
(油断は禁物なのだ)
勿論、ハム太に【念話】で指摘されるまでもなく、油断するつもりはない。でも、この場合はどうしても、
その7人については正体不明。先ほど話を聞いた時は、言われるままに「世話役」(「蛟龍会」とか「六龍連合会」とか)だと思ったが、
メイズの外では暴力にモノを言わせることができても、メイズの中は別の世界になっている。
そう考えると引っ掛かるのが、先程パチンコ店の事務所で谷屋さんが話していた会話の一部。中断して有耶無耶になってしまったが、あの時の谷屋さんは「統情六局」という言葉を口にしていた。その前には撃たれる直前の「張」という男も同じ様な言葉を発していたはず(そちらは電車の音でよく聞き取れなかったけど)。
そんな「統情六局」という言葉が何を指すのか分からないが、中国の諜報機関に属するメイズの
(ありそうなのだ)
ということなのだ。
(まぁ、今は考えても仕方ないのだ。それにコータ殿も今の状況を全部自分で引き受けるつもりは
一方、ハム太はそんな指摘を【念話】で送って来る。それに対して、俺はちょっと考えた後で、内心頷いて肯定。まぁ……そうなるんだよね。
というのも、俺が今「双子新地高架下メイズ」に潜っている事には、実は大した大義名分が有る訳ではない。朴木や金元の件も気になると言えば気になるが、結局は他人事に過ぎない。
ならば、何故こんな面倒な場所にいるのか? ということになるが、それはもう、犯罪者なのかチンピラなのか諜報機関なのかよく分からん連中から里奈を守りたい、という強烈な個人的動機が一番の理由だ。
実際問題として里奈が誰かに「守られる」必要が有るか無いかは別として、そう思う事が今の行動の原動力になっている。だから、こうやって先行してメイズの中に入り、露払いを兼ねつつ状況を整理しようとしている。
(健気なのだ)
そういう言い方はちょっと違うと思うけど……まぁ、出来る事があるのにやらないでおいて、その結果「もしも」の事態が起きたりしたら……親友だろうが恋人だろうが、とにかく大切な人が身近から消える経験はもう勘弁願いたい。
だからこそ、
――中の赤竜・群狼クランの面々の敵対度合は?――
――他の[受託業者]は居るのか?――
――[受託業者]以外の奴等は居るのか?――
――居たとして、そいつらの敵対度合や脅威度合は?――
といった事柄についてある程度調べられれば、というのが目下の俺の思惑だ。
里奈が
ただ、今の情報から考えれば、状況はそれだけでは済まない。寧ろ、手島に対する「殺人未遂」は全く余計なアクシデントだろう。今、このメイズ内に居る連中は【解読】というスキルを習得してしまった金元恵の確保を目指している。その点が里奈と警察が持っている認識とのズレだ。
本当なら、後からやって来る里奈と合流したいところだが、それが無理でもこの認識のズレは伝えておきたいと思う。
(田中殿や谷屋殿に迷惑が掛からないように伝えるのは大変なのだ……)
それはそうだけど、いざとなったら里奈だけでも知っていればいい。だから、その時はハム太の【念話】で頼むよ。
(【念話】関連で
俺とハム太はそんな感じで【念話】を交わしつつ、岡本さんと共に5層の空間を突っ切り、6層へ降りる階段へ足を踏み入れた。
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