*幕間話 甲状況発生!?
2021年5月18日
**五十嵐里奈の視点***********
今朝、自宅マンションを出て虎ノ門にある[管理機構]本部オフィスに出勤するまで(正確には出勤してから1時間経過するくらいまで)の私は、結構「ルンルン」な感じで過ごしていた。
普段よりも少し早起きになったので、シャワーを浴びてサッパリした後、下着をどれにしようか? と悩む時間も十分あった。普段身に着けるベージュやクリーム色のシンプルなやつじゃなく、(私の手持ちとしては)精一杯「可愛い系」に見えるパステル調のフリルが付いたタイプか、又は黒や紫にレースが多目の入った「セクシー系」か、どちらが良いか? そんな事で頭を使うのもちょっと楽しかった。
まぁそれについては、10分ほど頭を悩ませた結果「何やってんだろ? 私」と途中で冷静になってしまい、結局、白のボクサータイプのショーツに同色のブラトップTシャツという組み合わせになってしまったけど……今日の夜は「食事だけ」の予定だし問題無いはず。この辺の
――
と、変な言葉で評したりする。野暮天乙女ってどういう意味よ! と思わないでもないけど、まぁ意味は何となく分かるから、困ったものだ。
とにかく、今夜は「食事だけ」のつもりだし、でも、もしも
と、まぁ、そんな感じで足取りも軽く出勤した私は、富岡さんから、
――ああ、うざい、朝からうざいわ! 幸せオーラがうざいのぉ!――
と冗談(なのか?)を言われたりしながら、業務を開始。9時過ぎまでは順調に業務(巡回課のメンバーから上がって来た報告書の処理)を
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私の[巡回課]の本来のタスクである現場のトラブル対応は、最近は問題を起こす[受託業者]がクランを形成して活動するメイズを固定化する傾向にあるから、減少傾向にある。まぁ、それが「正しい在り方なのか?」という疑問は残るけど、とにかく[受託業者]間のトラブルが減ったのは事実。今から4か月後の9月に第3期募集を行えば、またしばらくは面倒事が増えるだろうけど、今はそれまでの
ただ、完全に「中休み」気分で居られないのは確か。それが、最近問題になりつつある各方面の警察との連携強化だ。私としては、寧ろこちらの方が頭の痛い問題だと感じる。
私も含めて大部分の現場職員の立場を代弁するならば、[「管理機構]に警察権限なんて要らない」というのが(隠す必要もない)本音になる。しかし、
大体の場合はドロップ品の分配に関するトラブルで、稀にわいせつ目的や怨恨絡みの事例もあるとのこと。ただ、どちらにしても事件が発覚すること自体が稀で、発覚しても「所有者を失った外部からの異物は急速に劣化・風化する」というメイズの特性上、物証が乏しく刑事訴訟に持ち込むことが難しいとの事だ。
放棄された凶器や、それこそ被害者の遺体なども含めて、殆どの場合1日から2日で証拠が消滅してしまう(まぁこれはモンスターに殺された[受託業者]と同じ)。だから、犯罪者の視点に立てば、証拠となる被害者を残すよりも、殺してしまった方が逆に安全ということになる。なので、諸外国では、メイズ内の犯罪は凶悪化の一途を辿っているらしい。
結局、現時点でメイズ内の犯罪は犯罪者側の「やり得」「逃げ得」を許してしまう状況だ。お陰で、それらの国の
一方、
ただ、現実問題は(諸外国の事情を含めて)そうだとしても、日本国政府の建前として、メイズ内部がそのような犯罪無法地帯になる事を容認する事は出来ないらしい。何と言っても、政府にとってメイズは
――夢の次世代技術を培う素材の宝庫。しっかりと管理すれば安全であり、大きな利益を生む場所――
であって、
――[受託業者]の活動によって、十分な管理が出来ている――
という事になっている。特に「小金井・府中事件」が起きた後は、殊更この点が強調されている感じだ。とてもじゃないが、
――実は内部は警察の手が及ばない無法地帯なんです――
とは言えないのだろう。だからこそ(実際は無理でも)建前上、メイズ内の治安と法の統治を担う存在が必要になる。そして、そのお鉢が、当時「改正メイズ特措法」で組織改編と規模拡大を行った[管理機構]に回って来た、という事だ。
ただ、この立法は正直微妙だと思う。
ただでさえ、俗に言う「銃刀法」の改正を
また、[管理機構]側(というか、所管する内閣府側)にも現実が見えていない面々が居る。最初から建前と体裁を整えるだけの法整備だったのだから、首尾一貫してそう扱って欲しいところだが、一旦立法されると「その通りの運用」を求める人達が一定数出現してくる。それが[管理機構]を管轄する担当大臣(確か岡崎とかいう名前)だったりするから始末が悪い。
結局、本来なら協力体制を構築しなければならない警察と[管理機構]は、実地訓練の位置付け一つをとっても、纏まることが出来ずにいる。
例えば、本来なら今週に予定されていた警視庁・神奈川県警・管理機構・自衛隊の合同訓練などは、訓練シナリオこそ出来上がっているものの、各フェイズで「どの組織が何を担うか?」の調整が出来ていない。
――メイズ内は管理機構の範疇だから、犯人確保の段階は管理機構が「主」で警察のSATは「従」であるべき――
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もしも今、政府が想定した「甲状況」が発生したら、一体誰がどうやって対応するつもりなんだろう?
「はぁ……」
そんな事を考えると、自然とため息が出る。そんな私の手元には「改訂:第1回合同訓練骨子(案)」というA4用紙4枚分の書類がある。中身は多分内閣府の岡崎担当大臣
「[巡回課]がSATと連携してメイズ内に入り、犯人を制圧する……ふ~ん、現代ファンタジーかな?」
思わずそんな独り言が出て、次いでもう一度
「はぁ」
とため息が出る。それほど、骨子(案)の中身は荒唐無稽に思えた。だって、私達「巡回課」には犯人を制圧するような装備も技術も無い。一応、先の法改正で拳銃の携帯が可能される事になったが、肝心の拳銃は
「ばかばかしい……」
取り合えず、心の中のモヤモヤはそんな言葉で吐き捨てて、現実的な業務に戻る。その辺の事は忘れよう。そして、サッサと終わらせてコータと早く会いたい。もう、それだけ考えて今日1日を過ごそう。そんな風に考えていた時だった、
「――里奈、ちょっとイイかしら?」
隣の「委託課」の富岡(課長)から、そんな声が掛かった。見ると、バッチリメイクの富岡さんは、少し蒼褪めた顔色で私の方へ手招きを送っている。なんだろう? 嫌な予感しかしない。
そんな私の印象は、残念な事に大正解だった。
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