*幕間話 「赤竜・群狼」クラン招集?
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2021年5月18日
――底辺[受託業者]の朝は早い――
とか、冗談を言う気も起きないほど、普段から活動開始時刻は早い。昼番の時は朝7:00にはメイズ前に集合になる。そこで「世話役」と名乗る(多分中国人)連中の点呼を受け、上がって来る「夜番」の面々と入れ違いにメイズの中に入る。そこから夕方の19:00まで、ずっとメイズの中というのが日常だ。
ただ、今朝は少し勝手が違った。普段[国立西駅前ビルメイズ]には同時に3~4PTしか入らない。他の面々は[アトハ吉祥メイズ]や最近出来た世田谷のメイズに行く。特に最近は世田谷のメイズの「確保」が優先されており、そちらに上位PTが回されることが多いらしい。
それなのに、今朝に限っては[昼番]担当だと思われる8PT全部が[国立西駅前ビル]に集合していた。さらに、普段は滅多に姿を見る事のない赤竜と群狼の第1PTの姿もある。全部で10PTとなるけれど、一体どういう事だろうか?
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[赤竜・群狼]クランの今の稼働PTの数は全部で18PT前後だ。ただ、以前とはPTの編成人数が違う。以前は6~10人で一つのPTだったのが、今は多くて6人で1PTとなっている。特に下位PTでは人数が少なくなる傾向があり、僕が所属する[群狼
ちなみに
とまぁ、それはさておき、現在[赤竜・群狼]クランの稼働人員は減少傾向にある。特に、僕と同じ時期に[第2期募集]で加入したメンバーを中心に、ある日突然失踪するようにバックレるメンバーが多い状態だ。中にはPT丸ごと行方を
一方、[赤竜・群狼]クランを抜けた面々を積極的に受け入れようとしているのが田中社長の[東京DD]になる。ただ、こちらも状況は思わしくないらしい。抜けた面々は[赤竜・群狼]よりも、その上位に存在する運営組織(多分中華系マフィア)からの報復を恐れて中々[受託業者]としてカムバックしないらしい。
現に、最初の頃に抜けた数人は「拉致されて殺された」とか「拷問されて廃人になった」という噂がある。そこまで行かないにしろ、実際に暴力的な制裁を受けたヤツは
そう言う事情から、田中社長の引き抜き工作は上手く行っていない。だからこそ、[赤竜・群狼]クランでは圧倒的カリスマ存在である朴木さんや金元さんの存在が必要になって来るという訳だ。
そんな2人の内、朴木さんから突然連絡を受けたのは5月初めの事だった。どういう経緯で僕がクランを抜けたがっていると知ったのかは分からないが、もしかしたら以前加賀野さんに頼んだ事が影響しているのかもしれない。とにかく、朴木さんはそんな僕に
――頼みがある――
と持ち掛けて来た。
その頼みを引き受けた僕は、田中社長という人物と連絡を取った。その際に田中社長から、千尋に迷惑を掛けた借金の件の顛末を聞かされることになり、随分と驚いた事を覚えている。「世の中は狭い」ということを充分に思い知っていたつもりだったが、現実はそんな認識すら超えることがあるらしい。
ただ、困った事に田中社長の側からすると、僕は会う以前から「最悪の信用度」な人間だった。「女に借金を被せて逃げた男だ」と言われると反論できない。だから、朴木さんの件も少し手間取ってしまった。中々信用してもらえなかったのだ。でも、最終的にはコウちゃん達[東京DD]の面々が口添えしてくれて、田中社長は話を受け入れてくれた。
今は、
――朴木達の安全を確保するまで、[赤竜・群狼]クラン側の動きを探ってくれ。何かあったら連絡して欲しい――
と頼まれて、そうしている。ただ、田中社長という人は、
――危ない仕事だから報酬は払う。PTで200万、それでどうだ?――
とのこと。もうそろそろ赤ちゃんが生まれる僕としては、お金は幾らあっても足りない。勿論、千尋に返済する事も忘れていない。とにかく、そんな破格な依頼だったから、僕達「第7PT」はその依頼を引き受けている。
そして、今、その依頼が求める「何かあったら」という状況起こりつつあるようだ。まだ、そうだと断定は出来ないが、どうも嫌な予感がする。というのも――
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「今日の予定は遠征だ」
「世話役」の男が妙なアクセントの日本語でそう言う。それで集まった面々がザワつくが、
「うるさい馬鹿! しずかにしろ!」
と怒鳴られる。それで一旦は静かになる。そこで[群狼第1PT]のメンバーの1人が、
「えっと、何処に行くんですか?」
と「世話役」に訊ねる。しかし、その質問は無視されていた。「第1PT」でも行先を知らないって、どういう事だ?
「スマホ出せ、全員! 預かる!」
え? と思う。それでまたザワ付きが広がるが、今度は
「さっさと出せ! 全員!」
別の「世話役」の1人がそう言うと、近くに居たメンバーをいきなり殴った。殴られたのは「第9PT」のヤツ。1発じゃない、2発、3発と殴られ、それで、殴られたヤツは蹲ってしまう。
「早くしろ!」
有無を言わせない暴力的な支配だ。結局[赤竜第1PT]現リーダーの保田さんが、
「みんな、言われた通りにスマホを出せ!」
と指示を出し、全員が従う。僕は……実はバックパックの中に別のスマホ(学生時代の遊び用のスマホ、律子に誓って最近は使ってない)がもう1台入っているが、それを隠してズボンのポケットに入れていたメインの1台を差し出した。
その後は、
「さっさと乗れ!」
と言われ、通りに停められていた数台のマイクロバスに乗せられる。
行先は未だ分からない。ただ、何処かのタイミングで連絡しなければならない気がする。普通じゃない状況が起こりつつあるのは確かだ。でも、バックパックの中に隠し持ったサブスマホには田中社長の連絡先が入っていない。乱暴なアクセル操作で急発進するマイクロバスの中で、僕は軽く舌打ちした。
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