*34話 3ユニオン合同「井之頭公園メイズ」攻略⑭ コータの帰還
「――火傷はこれで大丈夫なのだ」
「そうか、ありがとう」
モンスターを斃し切った後の14.5層「モンスタールーム」で、俺とハム太はそんな会話をしている。俺の怪我は、ハム太の
「
「まぁ、最近散髪してなかったから、明日にでも切って来る」
「あとは装備も、こりゃダメなのだ」
「それは、飯田に相談するよ、今後は耐火性のある装備が必要になる感じだ」
ここまでの間、俺は開始早々に【隠形行】を発動した事について、ハム太はドラゴニル
それに今はもっと大切な問題がある。それは、
「なぁ、ここからどうやって出るんだ?」
というもの。
実は、モンスターを全部倒しても、この「モンスタールーム」から外へ出る出口的なモノは現れなかった。俺としては「全部倒せば出口が出現する」と勝手に思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。
その代わり(?)なのか、広間の中央には宝箱らしき物体が出現している。また、それ以外にも、広間にはドラゴニル達が落としたドロップ品が散らばっている。中には目を惹くドロップ品もあるが、やっぱり宝箱の存在はひと際目を惹くものがある。ただ、宝箱は罠の可能性が高い、と聴いたばかりなので、ちょっと手を出すのを躊躇う感じだ。
「まぁ、先にドロップの回収なのだ」
とはハム太の言葉。それで、ハム太は広間中を駆けまわってドロップを回収している。今回は珍しい事にハム太が斃した4匹のドラゴニルも少数のドロップを落とした模様。それだけ実力が近かった、ということだろう。
一方俺は、外に出られなければドロップも何もないだろう、と思いつつ、それでもまず手近に転がっている太刀[幻光]を拾い上げる。刀身の具合はハッキリ言ってヤバイくらい痛んでいる。これまで謎の[Lv2]表記のお陰か、無類の頑強さを誇っていた[幻光]の刀身だが、今は切っ先3寸の
「よく折れなかったな」
思わずそんな呟きが出るほど激しい損傷だった。そして、その損傷を[幻光]に与えた赤銅色の鋸刃の大剣だが、驚いた事に、レッド・ドラゴニルの死体と共に消えず、その場に残っていた。これは、
「ドロップ、なのか?」
呟きつつも、その大剣を持ち上げる。ズシリとした重みは[幻光]の倍もありそうだが、その分剣身も[幻光]よりひと回り大きい。全長は120cmくらいだ。不思議な色合いを見せる赤銅色の刀身には細曳きの
この大剣を以て、レッド・ドラゴニルは仲間の死体を一刀両断した。恐ろしく斬れる剣なのだろう。そう考えると、これが自分に向けられていた事実に、今更ながらゾッと寒気がする。
「ムム、それは……」
と、ここでドロップを回収し終えたハム太が戻って来ると、俺が持つ大剣を睨んで声を上げる。【鑑定(省)】を使っているらしい。
「……やはり魔剣の
「魔剣って月成が持っているような?」
「そうなのだ、[魔剣:ソゾール]固有スキルは【切断】なのだ」
「【切断】ねぇ……道理で……」
道理で、あの斬れ味な訳だ。
「それはコータ殿、
「え? 取り込むの? 勿体無くないか?」
「スキルは多分[幻光]側に残るのだ。それに、そんな大きな剣をコータ殿は扱いきれないのだ」
言われる迄も無く、確かにこんな大きな剣は持て余す。だったら、ハム太の言う通りにした方が良いか。
「じゃぁ、コータ殿は作業をするのだ。その間吾輩は――」
床の上に刃喰鞘を出したハム太は、そう言うと回れ右して、
「宝箱なのだぁ!」
などと言いつつ、両手(前足)をキワキワさせながら中央に出現した宝箱に近寄っていく。罠とか大丈夫なのかな?
「吾輩の【鑑定(省)】に掛かれば、屁でもないのだ……グヘヘヘ」
本当に大丈夫かなぁ? 今の発言がフラグにならなければいいけど……
*********************
結果として、「モンスタールーム」の中央に出現した宝箱には開けると毒矢が飛び出す罠が仕掛けられていた。即効性のある致死毒の矢だったらしい。しかし残念ながら(?)
宝箱の中身はというと、ぎっしり詰まった[メイズストーン]だった。これだけで30kg位ありそうだが、幾らあってもメイズストーンはメイズストーンでしかない。期待外れの中身にハム太は宝箱を蹴飛ばしていた。ただ、そんなハズレのメイズストーンを全部回収した結果、宝箱の底に押しボタンのようなギミックが有る事が分かった。
その後はハム太と俺で「押すのだ!」「やだよ」の押し問答になったりしたが、結局ハム太がその押しボタンを憎々し気に踏みつけた結果、丁度レッド・ドラゴニルが最初に立っていた場所の壁が「ゴトンッ!」と音を立てて動き、その先に上へと続く階段が姿を現した。
階段の様子は、他の層と層の間を行き来する階段と全く同じに見える構造。上に向かっているという事は――
「恐らく14層の何処かに出るのだ」
と思われる。出た先ではモンスターとの戦闘になる可能性も高いが、いつまでもこの場に留まっている訳にもいかない。ということで、俺とハム太は階段を登る。
登り始めて直ぐの所で、俺は不意に立ち眩みに似た感覚を覚えた。どうやらハム太も同じだったようで、
「? 今のは何なのだ?」
「さぁ?」
といったやり取りになる。ただ、立ち眩みの感覚は1度だけだったので、結局先へ進むことに。それで階段の出口が見えかけたところまで進むと、不意に前方の14層側から籠った音が流れて来た。よく聞くと人の声に聞こえる。しかも何やら言い争っているような……
「吾輩、リュックの中に戻るのだ」
メイズ内の階段という場所に共通して、階段の外の気配は良く分からない。ただ、言い合いの声はどれも聞き覚えが有るように感じられる。そのためハム太は俺のバックパックの中に身を潜める。一方の俺は、階段を登るにつれて鮮明に聞こえる「言い合い」の内容にちょっとビビりながら、「恐る恐る」といった感じで歩を進める。そして、階段の終わりに達すると、
「……ど、ども……戻ってきました」
と、言いながら
「コータ先輩ぃぃっ!」
と抱き着いて来た朱音は別として、他の全員からは、まるで「幽霊が出た」ような顔をされたものだ。ただ、飯田だけは、
「ほほほほ、ほっほら、ももももっで、来たでしょぉ!!
と、良く分からない声を上げていた。
後で聞いたところ、この時3ユニオン合同集団は14層から15層へと降りる階段の前で「どうするか?」について揉めていたそうだ。俺が落とし穴に落ちたため、
「コータは15層に落ちたに違いない」
という岡本さんや朱音に対して、加賀野さんや月成凛を始めとした他の面々も、
「それなら、早く行かなければ!」
とやる気になっていた、とのこと。この時点でほぼ全員が、俺は
「ままま、待っていいいいましょう!」
と飯田1人が頑張って全員を押し止めていたとのこと。飯田はもともと説明が上手いタイプではないし、その上極度の
「いや、板挟みになって結構しんどかった」
と岡本さんが愚痴る程度に全体の雰囲気が悪くなったらしい。ただ、飯田は【直感】スキルを持っている。その1点において、全員がなんとなく、飯田に押し止められていたということだった。
そんな所に、ヒョコっと
「……15層だけど、また今度にしないか?」
「確かに、興が削がれましたわ」
「俺達はいつでも良いぜ」
という事になり、この日の活動は15層を目の前にして終了となってしまった。
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