*33話 3ユニオン合同「井之頭公園メイズ」攻略⑬ 起死回生?
「モンスタールーム」の罠が始まる直前、【隠形行】で姿を隠したのは、まぁ俺が悪いかもしれない。でも、事前に下打合せをする時間がなかったんだし、不可抗力だと思うんだ。しかも、結果的にドラゴニル
(――仕返しというのは冗談なのだ、戦略的思考に基づく役割分担なのだ)
対してハム太はそんな感じの念話を送って来る。それで、
(気を
との事。まぁ、俺も別に気を逸らしてまで、頭の中で文句を言っている訳じゃない。というか、レッド・ドラゴニルを相手に気を逸らすなど、とてもじゃないが出来そうもない。
――ブゥンッ!
今も、レッド・ドラゴニルが繰り出す鋸刃の斬撃を何とか躱すだけで精一杯だ。
「ギギィッ」
レッド・ドラゴニルは、金属が擦れ合ったような声を発しつつ、鋸刃の大剣を手元に引き戻す。仲間の死体を両断した一撃以降、これまで怒涛の連続攻撃を打ち放ってきたが、俺はそれらを全て「逃げ」に徹することで
そのせいだろうか? この瞬間、レッド・ドラゴニルの雰囲気が変わった。同時にこれまで力任せに振るわれていた鋸刃の大剣が、下段と脇構えの中間的な位置でピタリと止まる。明らかに
その状態で、レッド・ドラゴニルは左半身をグイと
どうする? これまでだって【能力値変換】を駆使して[敏捷]を普段の2倍に引き上げ、それで何とか逃げていたんだ。本気で間合いを詰められれば、どうしようも無い。
どうする? 打って出るか?
【水属性魔法】から【隠形行】で姿を晦まし、【能力値変換】で「飛ぶ斬撃」を撃ちまくるか? それとも、逆に懐に飛び込んで捨て身の一撃をお見舞いするか? いや、ドラゴニル
そんな感じで俺は次の行動を決めきれない。対して、レッド・ドラゴニルの側は、そんな俺の様子を「怯んでいる」と受け取ったのか、前傾姿勢をまま大きく口を開けて
(ブレスが来るのだ、逃げるのだ!)
え?
そう思った瞬間、大きく開かれたレッド・ドラゴニルの口に灼熱色の光が灯る。そして、
――ゴォォォッ!
瞬間、俺の視界はオレンジ色の炎と凄まじい熱に埋め尽くされていた。
*********************
「うわぁ!」
その瞬間、何をどうしたか? などと言う記憶は無い。「逃げなければ死ぬ!」という本能的な直感があっただけだ。後になって思うに、その本能的な意識の働きが無自覚に【能力値変換】を発動させたのだろう。結果として、レッド・ドラゴニルが吐き出した
ただ、至近距離で完全に不意を突いた攻撃だ。躱そうとして躱し切れるものじゃない。その証拠に、刺すような鋭い痛みと熱を左の手足に感じる。見れば左の手足を護っていた[乙式3型四肢防具]からブスブスと燻るような煙が上がっている。CFRP製の装甲は表面が泡立つように溶け、化繊の下地も半分溶けたようになって煙を上げている。
その様子を見取ったところで、不意に刺すような刺激臭が鼻を突いた。化繊が焼け焦げる匂いに、別の
咄嗟に「ポーションを」と思うが、それをバックパックから取り出す余裕は無かった。というのも、
「ひっ!」
半身を起こした状態の俺。その頭上に迫るのは赤銅色の鋸刃の大剣。俺はもう、殆ど悲鳴に近い声を上げて、その刃から必死に逃れる。左の手足に力が入らないため、右足一本で飛び退いて、無様に床に転がる。無茶苦茶に、我武者羅に、必死の思いで床を転がり
だが、そんな俺の動きはレッド・ドラゴニルにとって、まるで死に掛けの鼠が藻掻く程度の事でしかなかった。
「キェェェッ!」
見上げる視界には、大上段に大剣を振りかぶったレッド・ドラゴニルの姿。
「くそぉ!」
逃げ場がないと分かった時、俺の肚に急に激しい怒りが沸いて来た。俺を殺そうとするレッド・ドラゴニルに対する怒りなのか? それとも、ここで無様に殺されてしまう自分自身への怒りだろうか? 良く分からない。だが、そんな事はどうでも良い。俺は、振り下ろされる鋸刃の大剣に向かい、怒りに任せて太刀[幻光]を振り上げていた。
その瞬間、またも無意識に【能力値変換】が発動していたのだろう。[力]を極限まで上昇させた状態で振り上げた太刀[幻光]は火花を散らして赤銅色の鋸刃の大剣を受け止める。
――ガキィィンッ!
鋸刃の大剣の中ほどに、[幻光]の切っ先3寸
「キェィ!」
思わぬ抵抗に、レッド・ドラゴニルは苛立ったような声を上げる。そして、力任せに鋸刃の大剣を振り払う。その拍子に太刀[幻光]は俺の右手を離れて床に転がる。絶体絶命の状態。「クソッ垂れ!」と思うが、案外[受託業者]の最期なんてこんなものかもしれない。そう思うと、なんだが全部を諦められる気がしてきた。ただ、
(里奈には、ちょっと悪いかな……)
というのが心残りではある。後日連絡をする、と言っていた里奈から今のところ連絡は無い。
――そっちに無くても、私にはあるの――
と言っていた、そんな里奈の
目の前には改めて赤銅色の鋸刃の大剣を上段に構え直すレッド・ドラゴニルの姿。まるで時代劇の切腹シーンに出てくる介錯人のような所作に、自分の事ながら滑稽さまで感じてしまう。だから、
「……さっさと、やれよ……トカゲ野郎」
柄にもなく、つい煽ってしまう。流石に言葉は通じないだろうが、俺の一言でレッド・ドラゴニルは柄の握りを改めた。そして、トドメの一撃が「来る!」と思った瞬間だった。
「隙ありなのだ! 聖剣技
ハム太の口上と共に生じた衝撃波。俺は、倒れ込んで来たレッド・ドラゴニルの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます