*30話 3ユニオン合同「井之頭公園メイズ」攻略⑩ 思わぬ落とし穴(物理)


 14層「北区画」最後の通路。ここに入る直前に飯田が見せた不審な反応は少し気になったが、それもしばらくの事。通路に入ってしまえば襲ってくるモンスターの方を警戒しなければならない。


 とは言っても、これまでの経験から最後の通路・・・・・での戦闘は、殆どの場合が奥に残ったモンスターの掃討となる。他の通路のモンスターは既に斃し切っている場合が多いので増援(?)の心配も無い。だから後方警戒役のPTも役割が軽くなり、内部に存在する分岐点を警戒する以外は前方の戦闘に参加する場合も多い。寧ろ、この時点では既に斃したモンスターのリスポーンタイムを気にしている事が多いので積極的に戦闘に参加して「さっさと」終わらせるようにする。この場合もそうだった。


 ちなみに、この通路に残っていたモンスターは豚顔オーク8匹の集団と、コボルトチーフ率いるメイズハウンド15匹の集団。他はノンアクティブな大小各種のスライムと大蝸牛おおかたつむりという構成だった。


 最初にコボルトチーフ+メイズハンド集団が襲ってきて、その物音に引き寄せられるように豚顔オーク集団も途中から戦闘に加わった。但し、それらは全て前方からだ。なので、[チーム岡本+月下PT]は全戦力を前方に集中させ、これら残存モンスターを排除した。


 そして、通路の奥へと進む。


 通路は何度か折れ曲がりつつ、奥行きの浅い枝道への分岐を見せながら、500mほど(PLSマップ装置の計測値)続く典型的オーソドックスな構造。一番奥では「T字」に分岐しており、そのT字の両方とも、20mほど進むと突き当りが小部屋状の空間になっていた。そこで行き止まりとなるのだが、一応T字の先を確認するため、[チーム岡本]は左側、[月下PT]は右側、という感じに手分けして進む。


 [チーム岡本]が進んだ左側の小部屋には、奥の床の角に大型スライムが3匹ほど固まって居るだけだった。まぁ、これも定番といえば定番の光景だ。


「たったたた宝箱って、ななないんですかね?」


 とは飯田の言葉。まぁ気持ちは分かる。これがゲームだったら、ダンジョンにお宝が隠されているのは定番だ。ただ、現実の[メイズ]ではこれまで「宝箱」を見つけた事はない。ネット上の情報では、「宝箱があった」という噂は多いが真偽は不明(外部掲示板の書き込みなので多分嘘だと思う)。ちなみに、あちらの世界・・・・・・で「魔坑」を経験しているハム太が言うには、


「有るには有るのだ、でも、殆どの場合が罠とセットなのだ」


 とのこと(月下PTと分かれているので生声で喋っている)。


 ちなみに「有るには有る」という意味は「非常に稀で、且つ中規模以上のメイズの深い場所でなければ無い」というもの。


「15層以降なら、吾輩も見たことがあるのだ」


 そう言うハム太が見た宝箱の中身は各種ポーションがぎっしり詰まったものだったらしい。60本ほど入っていたとの事。ちなみに、その宝箱とセットになっていた罠は、1つ下の番人センチネル階層に居るモンスターを呼び出すというものだった(らしい)。


 その後、ハム太は調子に乗って、その罠で出現した番人センチネルモンスターを「如何に斃したか」をペラペラと説明し出すが、俺はそれを無視。ただ、背中のバックパックから器用に首だけ出して「ドレイクが吐く火炎ブレスを掻い潜り、胸元の急所を一撃なのだ、吾輩の勝利なのだ」などと言っているので、まぁうるさい。


 という事で、ハム太は相変わらずペラペラと頼まれてもいない武勇伝を話しているが、俺はと言うと、この間、小部屋の隅に固まって居る大型スライムの処理に取り掛かっている。「スライムハッピーセット」と名付けた砂糖を丁度「核」の上に存分に振りかけて、ガストーチでそれをあぶる。程よく(?)表面が真っ黒焦げになり、スライムが持つ【反射】が無効化される。その状態で、懐かしの木太刀を構えて【能力値変換】で「[理力]と[抵抗]の半分を[力]へ」と念じ、上段から振り下ろす。


 「ズボッ」という手応えと「ガコッ」という手応えが連続で生じ、木太刀の切っ先は見事スライムの[核]を破壊。その結果、スライムの身体は一気に張り・・を失って床へ広がる。それを素早く飛び退いて躱した後には、床に転がる[スキルジェム]と[スライム粘液]。


「もう、これがお宝でいいだろ」


 と呟きつつ、俺は同じ事を2度繰り返し、小部屋の隅に固まって居た大型スライム3匹を処理した。成果は[スキルジェム]2個と[スライム粘液]が全部で多分3kg位。それに、水色が綺麗な[属性石]1つとお馴染み[メイズストーン]の塊が3つ(5kg位ありそう)ほど。うん、これは美味しい。


「結構出たな」

「凄いですね」

「たったたかか空箱とと同じ」

「空箱ってなんだよ……でも確かに、宝箱みたいなものですね」

「罠が無い分、宝箱より安全なのだ」


 そんな感じの会話を交わしつつ、俺はドロップを回収するべく部屋の隅、大型スライムが居た場所へ進む。そして、粗方回収し、最後に部屋の角に転がる[メイズストーン]に手を伸ばした時だった。


「のだ!?」


 不意にハム太が耳元で大声を上げる。「え?」と思ったその瞬間、俺の足元から突然「床」が消えた。


「ああああ!」

「せんぱ――」

「罠!」


 完全に不意をつかれた上に、踏ん張る足場が無い状況だから成す術がない。エレベーターが扉を開けたまま降下を始めたように、俺の視界から驚いた表情で固まった3人の表情が上へ滑るように流れていく。


 多分、俺はこの瞬間「え?」と間抜けな顔をしたまま「ストン」と下へ落ちたと思う。それにしても、罠の話をしている最中に罠に掛かるとは……我ながら渾身のギャグだと思う。ただ、全く面白くないのが玉に瑕だ。


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