*27話 3ユニオン合同「井之頭公園メイズ」攻略⑦ スキル【能力値変換】の秘密?


 結果から言うと、盾持ち地味メンの五味君は頑張った。結構な深手を背中に受けながら、それでも三崎さんを庇って3匹のゴブリンファイターと1匹のゴブリンナイトを相手に持ち堪えた。後衛のヒョロガリ二宮君が【弱化魔法:下級】を成功させたことも理由だけど、それにしても、4匹の猛攻を1人で受けとめるのは流石だ。「地味メン」なんて失礼な呼び名で勝手に記号化して申し訳なく思う。「地味メン」の呼称は使い続けるけど、君は立派だった。


 戦いの方は、この地味メン五味君が持ち堪えている間に俺の応援が間に合い、そこに百合系女子な工藤さんの【水属性魔法:下級】が加わる事で、なんとか4匹を押し返し、個別に撃破することが出来た。また、月成達近接4人が仕掛けていた包囲網もその後直ぐに完成し、最後に残ったゴブリンSHシャーマンは月成凛の【魔剣フライズ】によって討ち取られた。


 一方、俺が抜けた後方の戦闘も、岡本さんが残りの豚顔オーク2匹をきっちり仕留める事で終息していた。これで、13層「南区画」入って直ぐの戦闘は一旦終了。後は【手当】持ちの朱音と【回復魔法:下級】を持つポニテ美人神谷さんが協力して五味君の怪我を治療することになった。


 治療については、朱音が2度、神谷さんが3度ほどスキルを重ね掛けした事で無事終了(ハム太の【回復(省)】は出番無し)。その後は、五味君と三崎さんが何やら言い合いを始めるが、まぁ、その内容はどうでも良い。ハッキリ言って、はたで聞いている限りは恋人同士の痴話喧嘩だった。しかも最後は、


「あ、あんまり心配を掛けるなよ」と僕っ娘三崎さん

「ごめん、後ろは任せるよ」と地味メン五味


 などと言いながら熱い抱擁を……ペッペッ! 何でみんなして、ウンウンって頷いてるの? 不純だよ! ここメイズだよ!


 と、そんな「リア充〇ネ案件」はどうでも良いとして、この戦闘で俺が素手(と膝)で斃してしまったゴブリンヒディングが或るスキルジェムをドロップした。それは、


(【索敵】は[TM研]の小夏殿も習得している優良スキルなのだ、【気配察知】の使用型スキルバージョンなのだ)


 とハム太が言うように【索敵】というスキルだった。常時有効パッシブ型スキルの【気配察知】を使用アクティブ型スキル化したようなもの。任意のタイミングで使用できる分、常時何等かの気配を感じてしまう【気配察知】よりも精神的に楽なスキルだ。実は【気配察知】というスキル、地味に鬱陶しい時がある(もう慣れたけど)。


「気配を感知するタイプのスキルみたいですわね」


 とは【鑑定】の戦闘特化バージョン【見極め】を持つ月成凛つきなりりん。それに対して俺は、


「ヒディングを見破れるかもね? こっちは俺が【気配察知】を持ってるし、朱音が【看破】を持っているからそっち・・・で誰か習得したら?」


 と言う。


 ちなみに、これはハム太の入れ知恵。【索敵】では【隠形行】などの隠蔽系スキルは見破れないが、存在を感知することは可能。存在を感知した場所に何も見えなければ、その場所へ向けて朱音が【看破】を使う事でゴブリンHのようないやらしい・・・・・モンスターにも対応可能になる。まぁ【看破】が無くても、魔法スキルなどを目クラ撃ちに撃ち込んでも良いかもしれない。


 また、他の理由としては、結構スキルが充実している[月下PT]だが、敵を感知する系統のスキルは持っていないので、その不足を補うという面もある。言うまでも無い事だけど、この手のスキルは非常に有用で且つ重要だ。[DOTユニオン]だと、さっきハム太が言ったように[TM研]の小夏ちゃんが同じ【索敵】を習得している。また、[CMBユニオン]のおっちゃん達でさえも・・・【気配察知】スキルを持っているくらいだ。普段はPT単独で活動する[月下PT]だからこそ、PT内に1人はこの系統のスキルを持っていた方が良い。


「よろしいのかしら?」

「良いですよね、岡本さん」

「おう、良いんじゃないの?」

「では、1つ貸しということで」


 というやり取りを経て、【索敵】のスキルジェムは[月下PT]の手に渡る。「1つ貸し」という月成の言葉が気になるが、まぁ言葉のあや・・・・・だろう。ちなみに、習得したのは僕っ娘三崎さん。まぁ弓持ちの後衛だから、全体を見るという面では順当なチョイスだと思う。


*********************


 その後、[チーム岡本+月下PT]は改めて13層の「南区画」を進む。心配だった地味メン五味君も完全に回復しているようだから、そういう風になった。


 それで、通路を虱潰しらみつぶしに歩いて行くのだが、この間、実は俺に少し問題があった。なんだか良く分からないのだが、身体がだるく感じる。ちょうど、長距離走を走り終えた後、又はプールで泳いだ後のような怠さがズンっと身体に圧し掛かって来るような感じだ。風邪でもひいたかな?


「コータ先輩……大丈夫ですか?」


 そう思っていると、朱音が声を掛けて来た。どうも、俺の不調を見抜いた様子。というか、何で分かったんだ? と思うが、怠いだけで熱がある訳でもない。だから、


「あ、いや、大丈夫」

「本当ですか? 無理しないでくださいよ」

「分かってるって」


 というやり取りになる。


(う~ん……その内治るのだ?)


 と、今度は頭の中にハム太の念話が響く。「治る」ってことは、やっぱり何かの異常なのか? あと、最後の疑問符は止めて欲しい。不安になるから。


(異常といえば、異常なのだ……)


 え? なにそれ、気になる。


(多分、スキルの過負荷発動オーバーロードなのだ……でも【能力値変換】でオーバーロードを起こすとは初耳なのだ……)


 ハム太によると、現在俺が感じている「怠さ」は【能力値変換】を過負荷発動オーバーロードさせたことが原因らしい。俺は直接見られないが、ハム太が【鑑定(省)】で俺を見たところ、全能力値([魔素力]や[耐久]も含めて全部)が3割ほど低下しているとのこと。まぁ、それだけ能力値が下がっていれば怠く感じるのも無理はない。


 この「スキルの過負荷発動オーバーロード」だが、本来は【魔法スキル】全般や【連撃】【強撃】といった使用アクティブ型スキルで稀に発生する現象らしい。スキル使用時に強烈な思念を持っていることが発動の引き金になるとのこと。効果のほどは読んで字のごとく、ひとたび発生すれば通常のスキル効果の域を遥かに上回る効果を発揮することになる。ただし、その代償も強烈で、通常は2時間ほど[魔素力]が欠乏状態になり、その間はポーション類でも回復できないらしい。


 「[魔素力]欠乏イコール魔坑外套の不活性化」だから、これは結構危ない状況と言える。まぁそれだけの効果を得られるということ。まぁ[魔素力]を消費してスキルの効果という結果を引き出しているのだから、この辺りの理屈は直感的に分かるというもの。


 でも、俺の場合は何故か全能力が低下する、という状況になっている。どうして? と思うが、それについてハム太は


(そもそも、【能力値変換】などという珍しいスキルを持っている人間を吾輩はコータ殿以外では1人しか知らないのだ)


 と頼りない。


(まぁ、先程朱音殿を助けようとした時の感じ・・を思い出すに、能力値を不等価で変換したのだ)


 なにそれ?


(10引いて、10足すのが普通の【能力値変換】だとすれば、さっきのは何も引かずに・・・・・・ただ20足す感じだったのだ)


 じゃぁ、その20は何処から来たんだ?


(分からないのだ……だが、今の状況から察すれば、未来のコータ殿から前借したのかもしれないのだ)


 という事は、少し先の未来では怠い状態で難儀するけど、それと引き換えに現在の能力値を引き算無しで上乗せすることも出来るって事か? それって、凄くないか?


(「未来からの前借」は吾輩の推測なのだ、もしかしたら寿命とか生命力とかを削っているかもしれないのだ、それに「スキルの過負荷発動オーバーロード」は狙って出来るような芸当じゃないのだ)


 おう……、寿命が減るのは嫌だな。それに狙って出来る訳じゃないなら当てにならないか。


(とにかく、普段よりも弱くなっているのだ。十分に注意するのだ)


 結局、この時の念話による会話はこんな感じで終わる。そして、ハム太のこの言葉がフラグになったように、この後何度も起こった戦闘で、俺は随分と苦労することになった。



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