*26話 3ユニオン合同「井之頭公園メイズ」攻略⑥ 炸裂! 看破スキル


 通路の前方で[月下PT]がゴブリン集団と戦っていた時、[チーム岡本]もまた、後方から迫る豚顔オーク集団と対峙していた。集団の数は6匹と、それほど多くない。しかし、豚顔オークの場合は個体の強さが場合によってはゴブリンナイト上回(防御力は劣るが攻撃力が上)るので、油断は出来ない。しかも、この場合は6匹中1匹が豚顔オークアーチャーだったので尚更だ。


 ただ、油断できない相手だからこそ、こちらは最初から全力を出す。ということで、会敵直後に飯田の【飯田ファイヤー:火球バージョン】と朱音の風属性矢が、ほぼ同時に奥の豚顔オークAに襲い掛かった。


 結果、火球の直撃を上半身に受け、そこに1発、2発と朱音の矢を追い打ちで受けた豚顔オークAは、自慢の強弓を引く事も出来ずに床に倒れ込む。倒れた直後は火を消そうと藻掻いていた豚顔オークAだが、その後直ぐに動かなくなったので、絶命したのだろう。と、そんな様子を視界の端に入れつつ、俺は岡本さんと並ぶ格好で残り5匹と切り結ぶ。


 近接タイプの豚顔オークは、大体の場合大きな鉈剣を装備している。豚顔の鉈剣は刃物としては鋭さに欠けるが、その分重く、剣と言うよりも鈍器と言った方が良い武器だ。そんな武器を力任せに振り回すのが近接タイプの豚顔の戦い方になる。まともに打ち合うとこちらの武器がダメになりそうだし、そもそも岡本さんよりも大きな体格と強烈な膂力から繰り出される1撃をまともの受け止めると、こちらの体勢が崩れてしまう。


 ということで、俺は対峙した1匹の攻撃をサイドステップで躱し、もう1匹へ【水属性魔法】を牽制として撃ち込み、ついで「[抵抗]の4分の1を[敏捷]へ」と念じて【能力値変換】を発動。岡本さんへ打ち掛かっていた別の1匹へと一気に詰め寄ると、掬い斬りの要領で右手首に太刀[幻光]を打ち込む。


「フギィ!」


 絶叫と共に豚顔の右手首が鉈剣を握ったまま宙に舞う。ただ、その時には既に、俺の太刀[幻光]は片手上段の位置にあり、そのまま袈裟懸けにその豚顔へと襲い掛かった。


――ガツガツッ


 という手応えは骨を断ち斬るもの。豚顔の骨格が人間と同じなら、[幻光]の刃は鎖骨と肋骨を断ち斬り、胸骨の辺りで止まったことになる。その途中で心臓に繋がる動脈を斬ったのだろう、ザックリと割られた豚顔の胸部からは、ドス黒い血がドッと溢れ出す。


 異様なタフさを誇る豚顔でも、この一撃は流石に即死級の致命傷なのだろう。全身から力が抜け、糸が切れた人形のように床へ崩れ落ちた。その勢いで太刀[幻光]が豚顔の胸部から抜ける。普通ならば刃毀れ必至の斬撃だが、流石にLv2表記・・・・・の太刀だけあって、[幻光]の刀身には傷一つなかった。


「うらぁ!」


 とここで、横から岡本さんの怒声が上がる。見れば、岡本さんは強烈なメイスの一撃を別の豚顔の頭部へ叩きつけたところ。ドスンと腹に響くような音と共に、豚の頭部の前と後をギュッと圧縮したような醜い顔面が、文字通り崩壊する。


――ボンッ!


 と、今度は反対側から破裂音が響く。こちらは飯田が【飯田ファイヤー:火球バージョン】の2発目を放った所。丁度、俺に最初に斬りかかって来た1匹が、上半身に火球の直撃を受けて燃え上がっている状況だ。即死ではないが、戦闘を続ける力はないだろう。


 数は4匹減って残り2匹。俺が【水属性魔法】で牽制した1匹と、岡本さんから【威圧】を受けた1匹だ。これなら直ぐに戦闘は終わる。まだ気を抜けないが、見通しが立った気がしてホッとする。そんな時だった。


*********************


「コータ先輩! 後ろが!」


 という、朱音の鋭い叫び声が耳を打つ。それで反射的に振り返った先、朱音越しに見える向こう側には、床に膝を着く三崎さんと、それを庇おうとする五味君の姿。五味君の盾の向こうにはゴブリンファイター3匹とゴブリンナイト1匹の姿がある。一方で、月成や神宮寺君達は左右に分かれて、別のゴブリンFを相手にしている。直ぐに駆け付けられない状況なのは一目瞭然だった。


 状況的には1人庇って4対1。しかも、五味君の背中は真っ赤な血で濡れている。


「ヒディングです!」


 とは朱音。なるほど、確かに五味君の足元には額に大穴を開けたゴブリンヒディングの死体がある。不意打ちを受けた事が一瞬で分かる状況だ。それにしても、何故後衛弓持ちの三崎さんが五味君と最前線にいるんだ?


(そんな事は良いのだ! それより、もう1匹隠れていそうなのだ!)


 とは、ハム太の念話。マジか、だったら!


「朱音、もう1匹居るから看破を使え! 岡本さん、アッチ・・・の援護に回ります!」

「はい!」

「お? おうっ!」


 俺の声に朱音と岡本さんの返事が被る。その直後に動いたのは朱音。【看破Lv1】を発動した。このスキルは【隠形行】等の認識阻害系や隠蔽系のスキルを無効化する。相手のレベルが高すぎる場合は効かない場合もあるが、大体の場合は【看破】側が優位に作用するらしい(ハム美談)。実際、朱音の【看破Lv1】の前では俺の【隠形行Lv3】は毎度無効化されてしまう(スキル練習中の話)。


 果たして、今回も朱音の【看破】は有効に作用した。ただ、姿隠しを破られたゴブリンヒディングは、あろうことか、朱音の真横に立っていた。腰だめに構えた短剣を朱音の左側面に突き込もうとする、その寸前だった。


「きゃっ――」


 突然左隣にゴブリンHが現れたため、朱音は悲鳴を上げつつ反射的に右側へ跳ぶ。その結果、ゴブリンHの初撃は朱音の上着(山ガール風のウィンドブレーカー)を浅く切り裂くに留まる。ただ、躱した結果として姿勢を崩した朱音に、初撃を外したゴブリンHは圧し掛かるようにして追撃を仕掛けた。その光景に、


「てめぇ!」


 自分でも驚くほど大きな怒声を発した俺は、床を蹴って朱音の元へ飛び出す。この時、俺は「何をどう」とは考えず、単純に「[敏捷]を!」とだけ念じていた。その結果だろうか?


――ダンッ!


 瞬間、踏み切った足に強烈な衝撃を感じ、ほぼ同時に・・・、目の前には朱音に圧し掛かったゴブリンHの背中があった。一瞬前までは、6mほど距離があったはずなのに、今は手が届く場所に居る。まるで瞬間移動をしたような状況に理解が追い付かず、思わず


「え?」


 と言ってしまうが、今は続きを考える余裕がない。「少しでも早く朱音からゴブリンHを引き離さなくては」としか考えていなかった。


 そんな俺はシンプルにゴブリンHの首を握り掴むと、そのまま力任せに朱音から引き剥がし、目一杯高く持ち上げる。ゴブリンHはジタバタと手足を動かし藻掻く。しかし、首根っこを掴んだ俺は微動だせず、その高さからゴブリンHをメイズの床に叩きつけた。この間、俺はゴブリンHの体重を殆ど意識していない。これもまた、奇妙な気がするが、この時の俺はそれを深く意識せず、


「グギョ!」


 と変な声で鳴くゴブリンのいびつな顔面に、そのまま膝を叩き込んでいた。有るか無いかも分からないような低い鼻に膝部を守る装甲がめり込み、グッと体重を掛けると、ゴキッと鈍い衝撃が伝わってくる。それでゴブリンHは一度大きく痙攣して、ぐったりと脱力した。


「コータ先輩ぃ……」


 上体を起こした朱音が半泣きの表情で抱き着いてくる。フワッと香って来る朱音の匂いに頭がクラッとする。


「け、怪我はないな?」


 俺はそう言いつつ、朱音の上着を確認するていで彼女の身体を押し離す。今は両手にしっかりと朱音の体重を感じている。軽い事は軽いけど、普通だろう。さっきのは何だったんだろうか?


「はい、大丈夫です」


 対して朱音は気丈に返事をする。怖かっただろうと思うが、まだ戦闘中だ。


「援護を頼む!」


 俺はそれだけ告げると、窮地に陥った五味君と三崎さんの救援に向かった。


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