*26話 3ユニオン合同「井之頭公園メイズ」攻略⑥ 炸裂! 看破スキル
通路の前方で[月下PT]がゴブリン集団と戦っていた時、[チーム岡本]もまた、後方から迫る
ただ、油断できない相手だからこそ、こちらは最初から全力を出す。ということで、会敵直後に飯田の【飯田ファイヤー:火球バージョン】と朱音の風属性矢が、ほぼ同時に奥の
結果、火球の直撃を上半身に受け、そこに1発、2発と朱音の矢を追い打ちで受けた
近接タイプの
ということで、俺は対峙した1匹の攻撃をサイドステップで躱し、もう1匹へ【水属性魔法】を牽制として撃ち込み、ついで「[抵抗]の4分の1を[敏捷]へ」と念じて【能力値変換】を発動。岡本さんへ打ち掛かっていた別の1匹へと一気に詰め寄ると、掬い斬りの要領で右手首に太刀[幻光]を打ち込む。
「フギィ!」
絶叫と共に豚顔の右手首が鉈剣を握ったまま宙に舞う。ただ、その時には既に、俺の太刀[幻光]は片手上段の位置にあり、そのまま袈裟懸けにその豚顔へと襲い掛かった。
――ガツガツッ
という手応えは骨を断ち斬るもの。豚顔の骨格が人間と同じなら、[幻光]の刃は鎖骨と肋骨を断ち斬り、胸骨の辺りで止まったことになる。その途中で心臓に繋がる動脈を斬ったのだろう、ザックリと割られた豚顔の胸部からは、ドス黒い血がドッと溢れ出す。
異様なタフさを誇る豚顔でも、この一撃は流石に即死級の致命傷なのだろう。全身から力が抜け、糸が切れた人形のように床へ崩れ落ちた。その勢いで太刀[幻光]が豚顔の胸部から抜ける。普通ならば刃毀れ必至の斬撃だが、流石に
「うらぁ!」
とここで、横から岡本さんの怒声が上がる。見れば、岡本さんは強烈なメイスの一撃を別の豚顔の頭部へ叩きつけたところ。ドスンと腹に響くような音と共に、豚の頭部の前と後をギュッと圧縮したような醜い顔面が、文字通り崩壊する。
――ボンッ!
と、今度は反対側から破裂音が響く。こちらは飯田が【飯田ファイヤー:火球バージョン】の2発目を放った所。丁度、俺に最初に斬りかかって来た1匹が、上半身に火球の直撃を受けて燃え上がっている状況だ。即死ではないが、戦闘を続ける力はないだろう。
数は4匹減って残り2匹。俺が【水属性魔法】で牽制した1匹と、岡本さんから【威圧】を受けた1匹だ。これなら直ぐに戦闘は終わる。まだ気を抜けないが、見通しが立った気がしてホッとする。そんな時だった。
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「コータ先輩! 後ろが!」
という、朱音の鋭い叫び声が耳を打つ。それで反射的に振り返った先、朱音越しに見える向こう側には、床に膝を着く三崎さんと、それを庇おうとする五味君の姿。五味君の盾の向こうにはゴブリン
状況的には1人庇って4対1。しかも、五味君の背中は真っ赤な血で濡れている。
「ヒディングです!」
とは朱音。なるほど、確かに五味君の足元には額に大穴を開けたゴブリン
(そんな事は良いのだ! それより、もう1匹隠れていそうなのだ!)
とは、ハム太の念話。マジか、だったら!
「朱音、もう1匹居るから看破を使え! 岡本さん、
「はい!」
「お? おうっ!」
俺の声に朱音と岡本さんの返事が被る。その直後に動いたのは朱音。【看破Lv1】を発動した。このスキルは【隠形行】等の認識阻害系や隠蔽系のスキルを無効化する。相手のレベルが高すぎる場合は効かない場合もあるが、大体の場合は【看破】側が優位に作用するらしい(ハム美談)。実際、朱音の【看破Lv1】の前では俺の【隠形行Lv3】は毎度無効化されてしまう(スキル練習中の話)。
果たして、今回も朱音の【看破】は有効に作用した。ただ、姿隠しを破られたゴブリン
「きゃっ――」
突然左隣にゴブリンHが現れたため、朱音は悲鳴を上げつつ反射的に右側へ跳ぶ。その結果、ゴブリンHの初撃は朱音の上着(山ガール風のウィンドブレーカー)を浅く切り裂くに留まる。ただ、躱した結果として姿勢を崩した朱音に、初撃を外したゴブリンHは圧し掛かるようにして追撃を仕掛けた。その光景に、
「てめぇ!」
自分でも驚くほど大きな怒声を発した俺は、床を蹴って朱音の元へ飛び出す。この時、俺は「何をどう」とは考えず、単純に「[敏捷]を!」とだけ念じていた。その結果だろうか?
――ダンッ!
瞬間、踏み切った足に強烈な衝撃を感じ、ほぼ
「え?」
と言ってしまうが、今は続きを考える余裕がない。「少しでも早く朱音からゴブリンHを引き離さなくては」としか考えていなかった。
そんな俺はシンプルにゴブリンHの首を握り掴むと、そのまま力任せに朱音から引き剥がし、目一杯高く持ち上げる。ゴブリンHはジタバタと手足を動かし藻掻く。しかし、首根っこを掴んだ俺は微動だせず、その高さからゴブリンHをメイズの床に叩きつけた。この間、俺はゴブリンHの体重を殆ど意識していない。これもまた、奇妙な気がするが、この時の俺はそれを深く意識せず、
「グギョ!」
と変な声で鳴くゴブリンの
「コータ先輩ぃ……」
上体を起こした朱音が半泣きの表情で抱き着いてくる。フワッと香って来る朱音の匂いに頭がクラッとする。
「け、怪我はないな?」
俺はそう言いつつ、朱音の上着を確認する
「はい、大丈夫です」
対して朱音は気丈に返事をする。怖かっただろうと思うが、まだ戦闘中だ。
「援護を頼む!」
俺はそれだけ告げると、窮地に陥った五味君と三崎さんの救援に向かった。
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