*25話 3ユニオン合同「井之頭公園メイズ」攻略⑤ 影の戦士


 12層で休憩(俺だけずっと「刃喰鞘はぐろうそう」で作業してたけど)を終えた後、3ユニオン合同集団は、13層へ降りる階段が存在する「西区画」を進む事になった。


 今回の行動は今日5月9日(日曜日)と翌日月曜日の2日を掛けて「15層を突破」することが目標になっている。そのため、今日中に「14層を1度覗いておきたい」となるわけだ。勿論、無理は禁物なのは言わずもがな・・・・・・な大鉄則であるが、現状、各ユニオン・PT共に「無理」をして12層をクリアした訳ではない。余裕綽々しゃくしゃくとは言わないが、余力を残していることは確か。それが、この3ユニオン合同集団の実力だ。


 (少し失礼な話だが)俺的に一番戦力が劣ると考えていた[CMBユニオン]のおっちゃん達でさえ、「小金井・府中事件」を経てスキルを積極的に習得するようになった結果、装備類の改善も相まって、中々の強さになっている。ハム太が【鑑定(省)】で見る限り、全員が必須ともいえる【戦技スキル】を習得しており、その他にも防御系や能力バフ・デバフ系、攻撃系に魔法スキルなど、それなりにバランス良く習得しているらしい。特別「レアだ!」と言えるようなスキルではなく、枯れた(?)感じのスキルばかりだが、聞けば「管理機構の[鑑定]に出してから習得している。それにネットの情報とかも大分参考にしている」とのこと。若くない分思慮が深いのが中年の強みといったところか。


 しかも、


(修練値の平均は[脱サラ会]と大差がないのだ)


 とのこと。どうやら彼等は根城にしている「調布ビルメイズ」の10層に1週間の内4日は泊まり込み、12~14層でモンスターを狩り続けているらしい。流石は平均年齢42.5歳の中年ユニオン・・・・・・だけあって、やる事が万事落ち着いている。


 ちなみに全員の修練値についてだが、現状[チーム岡本]、[TM研]、[月下PT]の3PTが平均で840前後。他のPTが平均で820前後となっている。これは、「小金井メイズ」の次に「太磨霊園メイズ」でも15層を経験したかどうか? が差になって現れている感じだ。ただ、実力的に大きな差は感じられない。


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 と、俺はそんな事を考えながら通路を進む。勿論、途中では(考え事をしながらも)ちゃんとモンスターを斃している。ただ、3ユニオン合同で1つの区画を進むと、1人当たりの戦闘回数は相対的に少なくなる。その結果、余計な事を考える時間が生まれる、というわけだ。決してサボっていたわけじゃない。


 程なく、俺達は13層へ降りる階段の地点へ到達した。


「じゃぁ、13層へ」と加賀野さん。

「いつでもオッケー」とはCMBのおっちゃん。

「参りましょう!」とは月下の月成凛。


 そのやり取りで、全員が13層への階段を下りる。降りた先では、12層同様に3つのグループに分かれて「区画」を探索する。一応、じゃんけんでどの区画に進むか決める事になっていて、俺達[チーム岡本+月下PT]は、今回は「南区画」を進むことになった。


 「井之頭公園中規模メイズ」の13層の構造の方は、12層と殆ど変化がない。「北区画」「南区画」「西区画」と3つに大別される区画があって、その先は夫々それぞれが丸々1つの「『小規模メイズ』の13層」といった感じの広さになっている。


 そんな13層に出現するモンスターは数もさることながら、質の面でも12層以上に各系統の上位種(ハム太に言わせると「まだまだ下級・中級種」らしいけど、俺達的には立派な「上位種」)の割合が増えてくる。


 ゴブリン系ならナイトSHシャーマンの割合が増え、豚顔オーク系なら高威力の太矢を撃って来るアーチャーが混じる。さらに、コボルト系は殆どがコボルトリーダーになるし、メイズハウンドは頻繁にスカウトハウンドが通路を周回している。赤飛蟻も天井に5匹から10匹が固まって居ることがあるので、頭上への注意も必要になる感じだ。


 そんな中、まれに出現する厄介なモンスターとしてゴブリンヒディングというヤツが居る。どうも、俺の【隠形行】と同じ系統のスキルを使うらしく、戦闘中に突然死角から不意打ちを仕掛けてくる厄介なモンスターだ(だから、多分俺もモンスターから見れば厄介なタイプなのだろう)。見た目はゴブリンファイターよりも貧相で、強さ的にも大差はないが、姿を隠すためにヒディングと呼称している。


 このゴブリンHはいつも出現する訳ではなく、大体の場合はゴブリンSHシャーマンとセットになって現れる。まぁ、そのゴブリンSHが出る状況では、他にナイトが居るのが常で、Kが居るとファイターも大勢いる。どうしても前列が乱戦状態になり易く、そのため、背後や後衛(朱音や飯田)が狙われやすくなってしまう。その辺が少し厄介な部分になる。


 もっとも、[チーム岡本]の場合は都合が良いことに、この姿を隠すモンスターへの対抗手段として、朱音が【看破Lv1】というスキルを習得済みだ。しかも、いざとなればハム太の【気配察知】も不審な気配を察知することが出来る(ちなみに俺の【気配察知Lv2】では無理)。


 ただ、これは[チーム岡本]単体の場合の話で、今のように別のPTが居て、しかも前方と後方に分かれて2方面で戦闘を展開する感じになると、どうしてもカバーしきれない状況が発生してしまう。そんな状況で要所を突いて不意打ちを仕掛けられると、結構苦戦する。


 丁度がそんな状況だ。場所は13層の「南区間」に入って程なくの場所。丁度1つ目の広場を過ぎて、そこから伸びる3つの分岐路の1つを進み出して直ぐのことだ。


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「ぐわっ!」


 突然悲鳴を上げたのは[月下PT]の盾持ち地味メン、五味君。彼は丁度、通路の中央でゴブリンF3匹とゴブリンK1匹の猛攻撃を一身に盾で受けとめている状況だった。


 他の[月下PT」近接組(神宮寺君や神谷さん、東条君に月成凛)は、通路の左右に展開しており、中央に居座るもう1匹のゴブリンKとゴブリンSH、そしてその取り巻きのゴブリンFを包囲するように立ち回っていた。そんな状況だから、モンスター集団(ゴブリンSHとKを中心とする15匹前後の集団)は、包囲が完成する前に中央突破を仕掛けるべく、盾持ち五味君に挑みかかっている状況だった。


 その状況で、不意に悲鳴を上げた五味君の背後には、他と比較するとひと際華奢きゃしゃなゴブリンの姿。いつの間にか背後に回り込んだゴブリンヒディングだ。短剣程度の長さの剣を五味君の背中に突き立てている。


達也たつやぁ!」


 と、悲鳴のような声を上げるのは三崎さん。言いざま・・・・、奥のゴブリンSHを狙っていたコンパウンドボウをそのゴブリンHへ向け、放つ。


「ギュッ――」


 矢はゴブリンHの後頭部を射抜き、勢い余って矢全体が外に飛び出る。それでゴブリンは床に崩れ落ちたが、不意打ちのダメージを受けた五味君は、短剣を背中に生やしたまま、一気に厳しい状況に追い込まれた。同時に「これを好機」とゴブリンFは攻勢を強める。


「達也、しっかりしろ!」


 一気に劣勢になった五味君を助けるべく、(僕っ娘)三崎麗香はコンパウンドボウを投げ捨てると、腰の大型ナイフボウイナイフを鞘から引き抜き、五味君に駆け寄ろうとする。そんな三崎さんに、同じ後衛役の二宮君が「まって!」と声を掛けるが、三崎さんは待つ気が全く無いように、ぎこちない構えで大型ナイフを片手に五味君へ駆け寄る。


「麗香、下がれ!」


 駆け寄って来た三崎さんに、五味君が制止するような声をかける。だが、三崎さんはそれすらも、


「嫌だ!」


 と言うと、強引にゴブリンFと五味君の間に割って入る。ただ、これはどう考えても無謀な行為だ。近接戦闘のスキルを持たず、またその手の経験もない三崎さんでは、13層のゴブリンFは相手が悪すぎる。当然の如く、直ぐにゴブリンFの槍で腕を打たれ、ナイフを取り落とす事になってしまった。


 と、そんな危機的な状況が[月下PT]を襲っていた事を、俺は、


「コータ先輩! 後ろが!」


 という朱音の叫び声によって、ようやく知る事ができた。


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