*24話 3ユニオン合同「井之頭公園メイズ」攻略④ 武器にまつわる「よもやま話」

 昼食は12時前に10層の[ベースキャンプ]で食べているので、休憩中は特にこれと言ってやることが無い。そのため今の休憩は正真正銘の「休憩」になる訳だが、俺の場合はやる事があった(というか出来た)。どういう事かというと、


「遠藤さん、例の鞘・・・でお願いしたいんだけど」

「ちょっと傷みがひどくて」

「お願いします」


 とクールガイな神宮寺君以下、ポニテ美人な神谷さん、スリム体型になった東條君の3人が夫々の武器を持って来たからだ。どうやら俺が持っている[刃喰鞘はぐろうそう]と今日これまでの戦闘で拾った[メイズストーン]を使って武器の補修と強化をしたいらしい。


「今回は私もお願いしますわ! ドロップは全部コレに使います」


 とはそんな3人の後からやって来た月成凛つきなりりんの言葉。「全部って凄い量だな」と思うが、本当にそうするつもりらしい。その証拠に多分10kg前後の重さがあるだろう[メイズストーン]で一杯になった大きなバックパックを俺の前にドサリと置いた。


 因みに、[小金井メイズ]の時は「初回無料」で対応したが、あの時はちゃんと、


――今後は有料で――


 と言ったはず。よく覚えていないが、確か「1回20万円で」と適当な値段を付けたような記憶が(薄っすらと)残っている。ただ……こういう状況・・・・・・ではちょっとお金を取りにくいなぁ、というのが正直なところ。別に「良い人」ぶりたいのではなく、彼等の武器が補修・強化されれば、それだけ全体としての安全性や効率が上がる。彼等のためではなく、自分達のためでもある。そう言う訳だから、お金を取らないでおこうかな……


「あら、1回20万円でしょう? そうおっしゃいましたわ、ちゃんと覚えていますとも――え? 何を仰っているかしら? 払いますとも」


 うん、余計なお世話だったらしい。まぁ……PTメンバー全員がお金持ちのご子息ご息女という[月下PT]だから、これくらいの出費は「」でもないのかな。


 ということで、俺は彼等の武器を「刃喰鞘はぐろうそう」で補修・強化していくことになった。


*********************


「ちょっとした研ぎ傷まで直るんだから……これは凄いよ」


 とは、愛刀(「ナントカ兼光かねみつ」とかいう銘刀)の刀身を確かめている神宮寺君。うっとりとした表情で今にも刀身を舐めそうな勢いで顔を近づけている様子が怖い。ちなみに神谷さんが引き攣った表情でその様子を見ているのにも気づいていない。一方、十文字槍というタイプの槍を補修・強化した東條君も綺麗になった穂先を見て「うんうん」と感慨深そうに頷いている。


 ちなみにこの2人が持つ刀や槍は、先祖伝来の由緒正しい品らしい。「そんな貴重品をメイズに持って来るなよ」と言いたいが、まぁ金持ちの道楽だろう。


 一方、


「これで新品の時よりも切れ味が良いんだから、買い替える意味がないわね」


 と言うのは、西洋剣(護拳ヒルト部の装飾が緻密なファンタジーっぽい見た目の剣)をビュッビュッと振っている神谷さん。彼女の剣は俺のサブ武器カタナソード[陽炎]と同じく米国製だそうだ。ただ、製造元はブラックスミスアーマメント社という別の会社。現在日本の[受託業者メイズウォーカー]の間では、ホットスチールワークス(HSW)社製の武器と並んで人気を2分している。


 そして、


「……あまり変わり映えはしないわね」


 と言うのは月成凛だ。まぁ、彼女が持つ【魔剣:フライズ】は滅多な事では刀身にダメージを負わないらしい(ハム太談)ので、この反応は仕方ない。実際、月成が差し出してきた剣の刀身は戦闘直後にも関わらず研ぎたてのような輝きだった。ただ、月成としては武器(と言うか魔剣固有スキルの【飛斬】)の威力を上げたいらしい。


「これで少しでも【飛斬】の威力が上がればいいのだけど」


 という発言がその気持ちを物語っていた。


 ちなみにハム太が念話で語るところによると、


(魔剣の場合はメイズストーンよりも、対応する[属性石]で強化したほうが効果的なのだ)


 とのこと。月成凛の持つ【魔剣:フライズ】は微かに「風属性」らしい。だから、[属性石:風]で強化するのが一番効果的とのことだ。まぁ、風属性を強くすることで一部のモンスターに対しては威力が下がるらしいが、15層前後では強く属性の特徴を持っているモンスターは[赤飛蟻]の風属性くらいらしい。ということで、


「月成は[属性石]は持っていないのか? 【飛斬】のイメージだと風属性っぽいから、それで強化した方が良いかもな」


 と言う。対して月成凛は「風の属性石は自宅に有る」とのこと。だから、


「じゃぁ今度お願いするわ」


 となってしまった。不用意な発言で「今度の約束」が出来てしまったが、まぁ、以前ほど面倒な感じではなくなったから別に良いか。


 という事で、俺は休憩を返上して[月下PT]の装備の補修・強化に当たる。そしてしばらくすると、タイミング良く[CMBユニオン]と[脱サラ+TM研]のグループも12層スタート地点に戻って来た。そのため、休憩時間を延長しつつ、俺は次から次に作業を求められることになった。まぁ、実際作業しているのは「刃喰鞘」で、俺は「喰い口」と「入れ口」を間違わないように気を遣うだけ。でも、これはこれで気を遣う作業だ。


*********************


 ちなみについで・・・の話になるが、現在、日本の[受託業者メイズウォーカー]を取り巻く武器事情は、4月に施行された「改正メイズ特措法」によって幾らか改善されている。これまでグレーな取り扱いだった海外からの輸入刀剣類が正式に「受託業者用」として輸入が認められたのだ。また、国内でも飯田金属のように独自に武器の製造販売に乗り出す企業が現れ始めた。更には各地の日本刀匠の元にも「信じられない数」の新作注文が入っているらしい(大輝のお父さんの周作さん談)。


 その結果として、受託業者が持つ武器のバリエーションは増えつつある。ただ、バリエーションが増えた結果、持っている武器によって[受託業者]を評価するような風潮が出来てきたようだ。この前[管理機構]のネット掲示板の[PTメンバー募集板]を覗いた時、装備関連の記述を見つけたのだが、その内容によると、


[初心者以下]――バット、包丁、擂粉木すりこぎ(メイズ舐めてる、擂粉木とかヒノキノ棒以下、犬に噛まれとけ)

[情弱初心者]――マチェット(安くて優秀でも直ぐダメになる。安物買いの銭失い)

[情強初心者]――剣鉈(高いが丈夫。自作槍に派生可能、初心者はコレ)

[中級者]――HSWのエキスパートクラスの武器(456の壁はこれでOK)

[中級者]――飯田金属(玄人好み、今後に期待)

[中級~上級者]――BSAの武器(性能はHSWと同じ。見た目重視。高い!)

[上級者]――日本刀(日本人ならやっぱりこれ! 目指せ注文打ち)

[最上級]――魔剣(買えるもんなら買ってみろ、お値段以上の超希少品)

[有能さん]――クロスボウ(威力を求めるのはNG)

[最優秀有能さん]――アーチェリー(見掛けたら友達になっておこう)


 他にも色々と書いてあったが、概ねこんな感じだった(内容自体は外部掲示板をコピペしたものだと思う)。何を以て初心者、中級者、上級者なのか……まぁ言いたい事は何となく分かる。あと、何気に飯田金属の名前が中級者向けとして上がっていたのは関係者(?)として素直に嬉しい(飯田が自分で書き込んだ可能性もあるけど)。実際、飯田金属製の「ソードスピア壱式」は結構売れているらしい(その反面「フランジメイス壱式」は芳しくない様子だけど)。


 とまぁ、そんなネット掲示板の書き込みは脇に置いておくとしても、本格的な武器が出回るようになったのは確かだ。そのため、[DOTユニオン]や[CMBユニオン]でも装備を切り替える動きが出始めた。その結果として、現在では近接武器持ちのほぼ全員が掲示板の表で言うところの「中級者]以上の装備、主にミッキーさんの[ミリタリーショップ:プラトーン]で購入したHSW社製の装備にランクアップしている。


 しかも、特に[DOTユニオン]の面々は前の装備も[刃喰鞘]で強化しまくっていたので、HSW社製の装備に切り替えた段階で元の装備を吸収した結果、何人かの武器に「Lv1」表記が現れている。このLv表記は、掲示板を探しても何処にも当てはまる記述が無かった。多分「刃喰鞘」自身がレアドロップ品なので余り知られていないのだろう。


 また、さっき月成凛にも言ったが[属性石]をどうやって取り入れるか? というのが今後は重要な意味を持ってきそうだ。現在[チーム岡本]では岡本さんのフランジメイスの頭部に[属性石:火]を封入してある。これはハム美から聞いた方法を踏襲したやり方で、通常は無属性の普通の武器として使える一方、「ここぞ」と言う時に念じると[属性石]から火属性の力を取り出して攻撃に上乗せできるらしい。


 今のところ実戦で活躍する機会はないが、前に通常サイズのスライムで試したところ、見事に一撃(ハッピーセット無しで)でスライムを撃破することが出来た。通常攻撃を反射するスライム相手に、その反射能力を貫通する威力だから、これは期待大だ。


 実は俺も何とか自分の太刀[幻光]に[属性石]を仕込もうとしてみたのだが、今のところ、柄・鍔の辺りの拵えが特殊になるのでやってくれる職人さんが居ない状況。最悪は飯田にでも頼んでそれ用・・・の柄頭(太刀の場合は兜金かぶとがね)を作ってもらうか? などと考えている。


 ただ、日本国内はこんな感じで[受託業者]の武器に選択肢が増えているが、その他方、海外に目を向けると、例の「メ弾」よりも高威力な銃弾が開発・発売されという事がニュースになっている。銃器全般が規制されている日本では全くニュースになっていないが、それらの所持が可能な国のメイズウォーカーは新型弾丸を得て「新時代の到来!」と盛り上がっているらしい。


 まぁ、別世界の話だな。



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