*23話 3ユニオン合同「井之頭公園メイズ」攻略③ 12層「東区画」踏破


 「アーチャー3匹、ナイトも3匹、後はファイターです!」と言うのは俺の声。それに、岡本さんが「アーチャーのターゲットを取るぞ!」と応じ、「直ぐに終わらせます!」と朱音が不敵な事を言う。


 ちなみに飯田も調子を合わせて何か言おうとしたみたいだが、どもって・・・・結局言葉にならなかった。そんな飯田は諦めて詠唱に取り掛かる。この詠唱の感じは……【飯田ウィンド:渦風バージョン】だったかな。そうだとしたら、標的はゴブリンファイターと言ったところか。


「カケマクモ、アヤニカシコシアマツカゼ、シナドノカゼトフキハラウラム。オンハヤベイソワカ、バー!」


 普段は噛み噛みのくせに、これ・・だけは妙に滑舌が良い飯田の詠唱が完成。狙いは俺の予想通り。我先にと突進を開始していたゴブリンF集団の前方に、沸き立つような風の渦が生じる。だが、勢いの付いたゴブリンF達は、止まる事が出来ずに自らその風の渦へと突っ込んでいく。


「――ギョギョ――」

「ギャミャ?」

「ギョェ!」


 渦風の中は真空の刃が乱舞する……言い方はアレだが、風のフードプロセッサーだ。中に飛び込んでしまったゴブリンFは全身をなます・・・に切り刻まれることになる。ちょっとグロイ結果になるのは毎度の事なので、何がどうなった・・・・・・・かは自主規制しておく(合掌)。


――カンッ、カンカンッ


 とここで、風の渦を避けるように射線を確保したゴブリンアーチャー3匹が一斉に矢を放つ。しかし、ヤツ等は既に岡本さんの【挑発】効果の影響下だった。その結果、一番防御の硬い岡本さんをターゲットにして放たれた矢は3本全てが飯田式方形ポリカ盾に弾かれた。


「朱音、今の射線で撃ち返して!」


 ここで、俺も行動に移る。直ぐ斜め後ろに居る朱音にそう声を掛けると、【隠形行Lv3】を発動。今ゴブリンAが撃ち込んで来た射線を避けつつ、ズタボロになったゴブリンFを無視して、一気に通路を駆ける。狙いは後方に留まっている3匹のゴブリンナイトだ。12層といっても、まともに相手をすれば、高い防御力が面倒になる相手。だからこそ、【隠形行Lv3】の力を使い、不意打ちで倒してしまうのが[チーム岡本]の定石になっている。


「わかりました!」


 背後からは朱音の声。ほぼ同時に2度、3度とリカーブボウの弦鳴り音が響く。それに、


「うらぁ!」


 と、生き残ったゴブリンFに襲い掛かる岡本さんの怒声が重なる(どっちがモンスターか分からない、なんて口が裂けても言えない)。


 それらを背中で聞きながら、3匹のゴブリンKに肉迫した俺は、既に鞘を払った太刀[幻光]を脇構えに付けると、それを一気に振り抜いた。狙いは右端の1匹。


「ギョ――」


 初太刀が首をザックリと断ち割る。上手い具合に鎧と兜の隙間を狙う事が出来た一撃は確かめるまでも無く致命傷。残りは後2匹。


「ギョギョ!」

「ギャンギョッ!」


 派手に動いた結果として俺の【隠形行】は効果が切れるが、それでも残り2匹の側面を取った優位は変わらない。ということで、続いて俺は左手を突き出し、てのひらに意識を集中。【水属性魔法:下級】による瀑流を牽制として放つ。イメージとしては消火栓に繋いだホースから水をぶちまける感じ。(ハム美や飯田のアドバイスによれば)イメージの持ち方をもっと工夫すれば殺傷力が上がるらしいが、俺としてはこれで十分。寧ろ、分かり易いイメージで発動させた方が、素早く効果を得られて便利なくらいだ。


「ギョッ!」


 【水属性魔法】による牽制を受けたのは左端の1匹。水流をまとも顔面に受けて、兜が吹き飛び3歩4歩と後退する。一方、孤立した中央の1匹へは、右手一本で保持した[幻光]で霞突かすみづき(五十嵐心然流の突き技の1つ。刃筋が下向きの状態から動作が起こり、捻じりこみながら刀身が寝る状態で突きの終端に達する刺突技)を繰り出す。


 ねじり動作が加わった刀身は、これを咄嗟に打ち払おうとしたゴブリンKの剣をいなして・・・・喉元に潜り込み、そのまま切っ先の下3寸ほどを頸部へズブリと差し込む格好になる。手元に何か紐のようなものを断ち斬る手応えがあり、俺はそれがゴブリンKの頚椎を断ち斬った感触だと確信する。


「グギョ――」


 仰け反る時には既に絶命したゴブリンKは、首から噴水のように血を吹き上げる。血飛沫は中規模メイズの高い天井に届くことなく陰惨な放物線アーチを描いて床を打つ。そのアーチの下を「[抵抗]の半分を[敏捷]へ」と念じつつ、俺は一気に駆け抜け、


「鋭ッ!」


 ここで初めて気合を発しつつ、最後のゴブリンKの兜を失った頭部へ大八相から一気に刀身を叩きつける。


「……」


 ザックリと額を断ち割った太刀[幻光]は[Lv2]という謎表記(?)の実力を遺憾なく発揮して、ゴブリンの醜い顔面を両断すると下顎の骨すら断ち割って外へ抜ける。断末魔すら許さない唐竹割りだ。これで3匹居たゴブリンKは残らず討ち取った。


 それとほぼ同時に、朱音の矢が最後のゴブリンAを、岡本さんのメイスが最後のゴブリンFを、夫々それぞれ片付ける。背後では[月下PT]とコボルトリーダーの戦いも終わったようだ。通路に静寂が戻って来た。


*********************


 一連の戦闘が終わると、その後は床に散らばったドロップを回収する時間になる。[受託業者メイズウォーカー]としては一番楽しい(?)ひと時だ。ドロップの内容は、通路の後方でゴブリン集団との戦闘を繰り広げた[チーム岡本]側が[メイズストーン]合わせて4kg前後に[魔素回復薬:少][回復薬:中][解毒薬:小]といったポーション類を3本。一方、通路前方でコボルト+メイズハウンド集団との戦闘を行った[月下PT]側は[メイズストーン]多数に[ポーション]類が数本と、後は[メイズハウンドの皮]が幾つかと言う内容だった。


「[メイズストーン]って結構出ている筈なのに、買取り価格は下がりませんね」と朱音。

「ありがたい話じゃないか」と岡本さん。

「なんだか、使用用途は増える一方らしいよ」と俺。

「うううっちも、すす少ししし仕入れていましゅ」と飯田。


 そんな感じの会話を挟みつつドロップの回収を終える。その後は全員で通路の奥を目指すことになったが、この先、同じ通路でモンスターとの戦闘は発生しなかった。ということで、全員で今度は来た道を引き返し、分岐地点まで戻る。そして、残り1つとなった通路を踏破。最後の通路では2度ほど戦闘になったが、既に背後を突かれる心配は無かったので、[月下PT]と[チーム岡本]で交代しながら交互に戦闘を受け持った。


 結果として12層「東区画」を踏破した[チーム岡本+月下PT]の一団は12層スタート地点へ戻る。戻ってみるとスタート地点は無人。この時点では他のグループはどれもスタート地点へ戻っていなかった。


 時刻は15時過ぎで、12層攻略を開始してからの経過時間は2時間ちょっとだ。体感的にどの通路もモンスターのリスポーンまで30分くらい時間があるだろう。後30分して、その時点で戻らないのなら「ちょっと様子を見に行こう」となるが、今は未だそのタイミングじゃない。


 ということで、


「ちょっと休憩ですわね!」


 と月成凛が言うように、休憩を取る事になった。



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