*22話 3ユニオン合同「井之頭公園メイズ」攻略② 月下PTの実力


 12層 「東区画」中盤


はじめ麻美あさみ達也たつやの左へ!」


 月成凛つきなりりんの声が響く。対して神宮寺(日本刀装備のクールガイで名前は肇くん)と、神谷(西洋剣装備で回復スキル持ちのポニテ美女で名前は麻美さん)は、短く応じる声を発して、盾持ち五味達也ごみたつや君(地味メン)の左へ回る。


竜太郎りゅうたろうわたくしと右から回るわよ!」


 次に月成はそう言うと、小太り(といっても以前より痩せてスリムになった)槍持ちの東條竜太郎とうじょうりゅうたろうを伴って盾持ち(五味君)の右へ回る。そうやって前列の構成を整えつつ、


あん麗香れいかは援護をお願い!」


 と、後列の遠距離攻撃組にも抜かりなく指示を送っている。


「分かりました、お姉さま!」


 とは百合系(?)ツインテールな工藤杏くどうあん。同時に(多分最近習得したのだろう)【土属性魔法:中級Lv1】を発動。


「ボクはコボルトリーダーを狙う!」


 とは、ボーイッシュ系アーチェリー女子(ボクっ娘)の三崎麗香みさきれいか。以前はリカーブボウを使っていたが、今はコンパウンドボウに装備を切り替えている。その機械式の強弓に矢を番えて引き絞る。


 場所は12層「東区画」の中盤通路。前方からコボルトリーダー・・・・2匹とメイズハウンド25匹前後の群れが迫っている状況だ。コボルトリーダーは【眷属強化】と【統率】を持っている厄介な相手。しかも、「中規模メイズ」では12層から雑魚敵ポジションのメイズハウンドが大型化する。赤鬣犬レッドメーンほどではないが、体格が大きくなり、それに比例して戦闘能力も上がる。そこへ【眷属強化】と【統率】が上乗せされるから、舐めて掛かると痛い目を見る相手だ(経験済み)。


 だが[月下PT]の連携は隙が無い。


「大地よぬかるめ・・・・!」


 そんな声と共に工藤杏の【土属性魔法:中級】が発動。ひと塊で突進してきたメイズハウンド集団の中ほど・・・で、メイズの床がグニャリと固さを失う。見た目に大きな変化はないが、地面はまるで泥濘ぬかるみのようにメイズハウンドの足を呑み込んで絡め捕る。これで集団の半数がその場で立ち往生、群れは分断された。


「よし! 弱化魔法が効いたぞ!」


 とは、PTの最後尾に居たヒョロガリ眼鏡男子の二宮恭介にのみやきょうすけ君。ちょっと飯田に雰囲気が似ている目立たないタイプだが、やる事弱化魔法はえげつない。この二宮君の場合、難のある【弱化魔法:下級】の成功率を【強運】スキルで嵩上かさあげしているようだ。【弱化魔法:下級】は[TM研]の春奈ちゃんも持っているが、成功率は3割弱といったところ。それが、この二宮君だと7割を超える成功率を叩き出す。


 結果として、【弱化魔法:下級】の影響を受けたメイズハウンド集団の先鋒は、ガクンと突進の速度を落とした。そこへ、


――ビュッ、ビュッ、ビュッ!


 矢継ぎ早の風切り音。月成が持つ[魔剣:フライズ]の固有スキル【飛斬】が発動した音だ。威力は【戦技スキル】の習熟によって得られる「飛ぶ斬撃」や里奈の【操魔素】を利用した「飛ぶ打撃」と比べれば低いが、それでも【弱化魔法】の影響を受けたメイズハウンドの先頭4匹は、その攻撃で血塗れになる。そして、


「――フンッ!」

「せいっ!」

「やぁ!」


 と短く気合を炸裂させる神宮寺君の日本刀に続き、神谷さんの西洋剣と東條君の短槍が縦横無尽に繰り出される。刀身や穂先が閃光のようにまたたくたびに、1匹、1匹とメイズハウンドは屠られていく。勢いを崩された上に【飛斬】で出鼻を挫かれたメイズハンドには【統率】も【眷属強化】もあったものじゃない。あっという間に攻め立てられる立場へ転じた。


「ウォオォォンッ、オウオウッ!」


 不利を察して立て直そうとしたものか、後方では2匹のコボルトリーダーが指示を送るような吠え声を発する。しかし、


「ウォォッ――」


 その内1匹の喉元に、三崎麗香が放った矢が突き立った。滑車とテコの作用で強力なドローウェイトを発揮するコンパウンドボウは、喉から入ってうなじ・・・に鏃が突き抜ける圧巻の威力を発揮した。コボルトリーダーは結構体格もよく、首など普通の人間の倍ほど太さがあるように見えるが、それを貫通するとは、朱音の風属性矢に匹敵する威力に見える。


*********************


「う~ん……アイツ等、戦い方が変わったか?」

「どどど、どうでしょう……うう動きががが良いのかかな?」

「月成さんが前に出過ぎないようになりましたね」


 そんな言葉を言い合うのは、[月下PT彼等]を後方から見ている[チーム岡本]の面々。岡本さん、飯田、朱音の発言だ。それに対して俺の印象は「随分と連携を工夫したな」という物。個々のスキルも熟練しているし、幾つか新しくスキルを習得したのも分かるが、それ以上に8人のPTメンバー全員が月成凛を中心に上手く機能しているように見える。


 [小金井メイズ]の時は、解散の一歩手前まで関係が悪化していたが、そこからここまで・・・・持って来るとは「空気読めない女王」こと月成凛は、案外リーダーとしての素質に恵まれているのかもしれない。


「連携かぁ」

「ぼっぼ僕達も」

「頑張らないと、ですねぇ」


 そんな感想になる。とここで、俺の意識にそれと分かる・・・・・・違和感が生じる。後頭部の辺りを圧迫するような感覚……言わずと知れた【気配察知】(ちょっと前にLv2に上がった)によるモンスターの気配だ。ドタバタと接近してくるこの感じは多分ゴブリン系、数は何となくだが、


「みんな、後ろからモンスター! 数は大体15匹前後、ゴブリンだと思う」

(ピンポーン、正解なのだ!)


 ハム太……そう言うの、別に良いから……


「よし、じゃぁ一丁気合を入れて」

「ははははぃ!」

「やりましょう!」


 ということで、[チーム岡本]は後方へ向けて回れ右。通路は20mほど直線で、その先が直角の曲がり角になっている。その曲がり角からゴブリンFを中心にしたモンスター集団が姿を現した。



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