*21話 3ユニオン合同「井之頭公園メイズ」攻略① 再集合!


 2021年5月9日


 ゴールデンウィーク([チーム岡本]的には連休でも何でもない普通の日)明け、最初の日曜日になる今日は、翌日月曜にかけて1泊2日でメイズに潜る[DOTユニオン]の活動日。活動場所は最近の定番になりつつある「井之頭公園中規模メイズ」だ。


 ただ、この日の活動は普段と少し違う。[DOTユニオン]以外のグループと合同でメイズに潜ることになっている。そのグループとは、普段は「調布ビルメイズ」を中心に活動している[CMBユニオン]のおっちゃん達と、「成成学園メイズ」を拠点としている[月下PT]の2グループ。


 この2グループを加えて


――「井之頭公園中規模メイズ」の15層を突破しよう――


 というのが今回の活動内容になる。[脱サラ会]の加賀野さんと[月下PT]の月成凛つきなりりんが発起人となって計画段取りされた企画だ。


 こうなった背景には色々な理由がある。


 4月初めの時点で[受託業者]に解放されたメイズの数は関東地方(東京西部、神奈川東部、埼玉南部)で23カ所だった。制度創設時点で存在した7つ(8だったが北七王子は消滅したので7つ)に、昨年12月に相次いで発見された4つ(元々は6つだったが2つ消滅したので今は4つ)と、2月に解放された「井之頭公園メイズ」を含む中規模メイズ3つ、そして4月に解放された9つが内訳になる。


 その内、4月に解放された比較的新しいメイズ9つの内2つが4月の終わり頃に或る[受託業者メイズウォーカー]グループによって攻略され消滅した。そのメイズは丁度北七王子メイズ同様に5層までしかなかったようだ。その結果、5月の時点で[受託業者]に解放されたメイズは2つ減って21カ所になってしまった。


 ハム太やハム美、大輝からあちらの世界・・・・・・における魔坑の増殖を聞いている俺としては、「減って良かったね」という感想なのだが、そんな事情を知らない[管理機構]ひいては日本国政府にとって、これは結構重大な問題だったようだ。恐らく、次世代技術の資源宝庫であるメイズが減る事に危機感を抱いたのだろう。


 また同業の[受託業者]の間でも「稼ぎの場所が減る」という反発があったのも事実。


 その結果、4月の末に[管理機構]より


――既存のメイズをむやみに消滅させる行為は厳に慎む事。[管理機構]から特段の要請が無い限り「小規模メイズ」の15層は立ち入り禁止とする――


――万一メイズを消滅させた場合はランク降格処分や、故意性が高いと判断される場合は認定資格のはく奪処分を行う――


 という通知が全[受託業者]に発信された。


 ハム太などは「メイズの保護など最悪の措置なのだ」と憤懣遣ふんまんやる方無い様子だったが、まぁこれで飯を食って・・・・・・・・いる身とすれば、親方日の丸[管理機構]に逆らうべくもない。


 ただ、そうは言っても人間とは「欲」から逃れることの出来ないあさましい・・・・・生き物。小規模メイズの15層が禁止されたなら、代わりに中規模メイズの15層を目指そう、と発想するのは当然の事だ。それに加えて、3月から始めた「井之頭公園中規模メイズ」の10層以下での活動が安定してきた[DOTユニオン]では「そろそろ15層へ」という雰囲気があったのも確か。


 また、別の理由としては、小規模メイズの10層番人センチネルモンスターを斃しても、最早もはや800越えの[修練値]では思ったほどのドロップが得られないという事情もある。今現在、小規模メイズの10層番人センチネルがどれだけ残っているか分からないが、方々のメイズを巡って10層を狩る意味を見出せない状況だ。


 一方で、同じ10層番人センチネルでも「中規模メイズ」なら「井之頭公園中規模メイズ」がそうだったように、それなりに美味しい成果が期待できる。しかし、赤梅と七王子の2つの中規模メイズの10層番人センチネルは既に自衛隊のメイズ教導隊が処理している。だったら、次に美味しい(?)と思われる「中規模メイズ」の15層を目指したくなるのが人情だ。


 ただ、「中規模メイズ」の特徴から15層では多数の番人センチネルモンスターを相手にしなければならないと予想出来た。中規模メイズではモンスターのバリエーションも増えるが、それ以上に数が多くなる傾向が強いからだ。だかこそ、以前「小金井・府中事件」で合同行動をしたことのあるユニオン・PTを呼んで、一気に15層を突破してみよう、という話になった訳だ。今回の「井之頭公園」が上手くいけば「七王子」や「赤梅」にも行くぞ、というのが今後の流れになるだろう。


 ちなみに、[赤竜・群狼クラン]にも声を掛けたらしいが、無視されたように無反応だったとのこと。まぁ、朴木や金元が行方不明の状況では、大した戦力にならないだろうけど、無反応というのは愛想が悪すぎる気がする(もともとあの連中は愛想の良い奴らでは無かったけど)。


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 12層 「東区画」中盤


 中規模メイズの11層以降の構造は、基本的に小規模メイズとそれほど大きな違いは無い。樹形図状に枝分かれした通路とその途中に点在する広間で構成されている感じだ。ただ、小規模メイズの広さを1とすると、この「井之頭公園中規模メイズ」は3から4ほど広さに違いがある。


 「井之頭公園中規模メイズ」の場合、12層降りて直ぐの広いホールから東西南に3つの通路が伸び、その先に各々おのおの「小規模メイズ」相当の空間が広がっている感じだ。だから、便宜的に3つの通路の先を「東区画」「西区画」「南区画」と呼び分けている。


 通常[DOTユニオン]だけで進む場合は、その内1つの区画に絞って行動することになる。その区画の中で、更に枝分かれした分岐を各PTが受け持つ感じだ。だが、今回の合同行動では、それだと逆にスペースが手狭になって勿体無い。そう言う理由から、3つある区画を夫々のユニオンで受け持つ感じになる。


 しかし、そうなってくると、各ユニオンの構成PTに数的なバラつきが出る。特に1PTのみの[月下PT]だけで1区画を受け持つのは少し荷が重い。そのため、何故か[DOTユニオン]から[チーム岡本]が分離して[月下PT]と臨時で組む事になった。その結果、[チーム岡本+月下]は4人+8人=12人の構成で東区画を受け持つことになる。


 ちなみに、[CMBユニオン]は3PT18人、[脱サラ会+TM研]は11人となる。まぁ、この構成で12層をやってみて、難しければ挑む区画を減らそう、という事になっているわけだ。


 そして進んだ12層「東区画」の中盤、[チーム岡本+月下]は通路の1本1本を丁寧に探索し、モンスターを斃しながら少しずつ前進している状況だ。進み方としては、各通路を夫々それぞれPTで受け持つ従来のやり方ではなく、1つの通路に対して2PTで中に入る感じ。その内1つが先頭に立ち、もう1つが背後を固める。そうやって通路を虱潰しらみつぶしに踏破していく。このやり方は、つい前々回のメイズ潜行辺りから[DOTユニオン]で取り入れるようになった新しいやり方(発案者は飯田)だ。


 というのも、今は12層だからまだ良い・・・・が、13層や14層になるとモンスターの質はともかく数が手強くなる。そうすると、各通路に1PTのやり方では、下手をすれば押し負けて撤退の憂き目にあう可能性が出て来たからだ。そうなると、必然的に他の通路を進むPTが背後を不意打ちされやすくなる。そうならないため、戦力を1点に集中してモンスターを掃討しよう、という発想のやり方だ。


 幾つも枝分かれする通路の1つを選んで全員が進むから、当然のように、常に前後を挟撃されている状況になる。ただ、不意の挟撃と分かり切った挟撃では状況は全く違うというもの。結果的に各PT単位で分かれて行動するよりも安全で、時間的にもそれほど遜色なく進むことが出来る訳だ。


 そのやり方で、現在[チーム岡本]は[月下PT]と共に通路を進んでいる。今は前方が[月下PT]後方が[チーム岡本]という配置だ。


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