*9話 井之頭中規模メイズ⑤ 10層の事情
10層に降りた俺達の感想は一様に「なにここ? すごく広い!」というもの。50m(以上あるかも)四方の空間は、ちょっとした体育館よりも大きく感じられる。その上、天井の高さがこれまでの4m程度から、一気に8mくらいまで高くなった。お陰で頭上の圧迫感は感じられないが、その一方、体感的には9層から10層へ降りる階段の長さよりも天井が高く感じられる。
少し奇妙な感じだが「メイズは別次元に存在する」という説があるので、これはもう「こういう物だ」と納得するしかない。そもそも、色々な場所に出現したメイズの中には、入口の真下に別の構造物が存在する場所が在ったりする。日本で言えば、最近中野駅近くの商業ビル1Fに出現した小規模メイズなどは、その真下の地下1Fがボーリング場で、地下2Fが駐車場だったりする。
[TM研]の春奈ちゃんの話では、アメリカでは出現したメイズの周囲を実際に掘ってみた事例もあるそうだ。ちなみに、真下を掘り抜いてもメイズの入口も内部の構造も全く変化は無かったらしい。
とまぁ、そんな話は横へ置くとして、肝心なのは10層の
10層では、広大な空間に大勢のモンスターが待ち構えていた。構成としては、
と、ここに来て、これまで少し疑問に感じていた事に妙な納得感を得た。その疑問というのは、
――自衛隊のメイズ教導隊は七王子や赤海の中規模メイズ10層をどうやって抜けたのだろう?――
というもの。彼等が持っている「メ弾」の有効性は12層を過ぎる辺りで一気に弱まる。対して、10層では「13層相当」のモンスターが出る。そんな状況をどうやって打破したのか? という疑問だった訳だが、もしも、七王子や赤梅の中規模メイズ10層の構造が
この広い空間は、自衛隊が運用する現代兵器と相性がいい。跳弾を気にする事無く、大勢が展開して、一気に火力を投射出来る感じだ。だから有効性の落ちた「メ弾」でも手数
そんな現代兵器に都合が良い10層だが、裏を返せば、メイン武器が剣や槍に弓矢という前時代的な装備の
実際、戦闘は厳しい局面からのスタートになった。いきなり
最初、この突進に対して俺達は飯田の【生成:障害物】で対抗しようとした。ただ、当の本人、飯田がそれを嫌がった。
「ったったたぶん、むむ無理ででしゅ」
ということ。まぁ、ドカンッと開けた場所をグルリと半円形に飯田の障害物でカバーしようとすると、それだけで[魔素力]が枯渇する。15分後の再使用はおろか、戦闘中のカバーも出来ない(byハム太の解説)。
それは理解できるが、その間にもモンスターは距離を詰めてくる。結果として、仕方なく後衛組が遠距離攻撃を開始。朱音、古賀さん、春奈ちゃんが次々に矢を放つ。それに飯田や小夏ちゃん、俺、そして毛塚さんの【魔法スキル】が加わる。小夏ちゃんは【土属性魔法:下級】、毛塚さんはいつの間にか習得していた【火属性魔法:下級】だ。
結果、朱音が風属性矢の連射で
だが、突進を続けるモンスターの勢いは止まらない。結果として、岡本さん達盾組が
「ヤバっ、飯田!」
「はひぃっ!」
盾持ちが崩れてしまった状況に、俺は再度、飯田を見る。対する飯田は、今度は俺の意図を受け入れたようで、【飯田ファイヤー:火壁バージョン】を展開する。胸の高さほどもある炎の壁が、階段降り口付近の空間を半円状に取り囲む。しかし、炎の壁の内側には既に
俺は、その内1匹に斬りかかる。
「いやぁ!」
と気合を発して、大きな鉈剣を持つ右腕を手首から斬り落とす。
「ブヒィィ!」
咄嗟に左手で傷を庇う
だが、
(危ないのだ!)
と、この瞬間、ハム太が【念話】で警告を発する。次いで、
――ビュンッ! ビュンッ!
と火壁を切り裂いて、
「うわっ!」
「ぐぅ――」
木原さんは何とか上体を仰け反らせて直撃を躱す。お陰で矢は肩口を浅く切り裂いただけで済んだ。ただ、加賀野さんの方は、躱し損なって矢を太腿に受ける。
「加賀っち、大丈夫か!」
「油断した!」
そんなやり取りで、加賀野さんは木原さんと共に後ろへ下がる。と、ここで、驚いた事に
「ちょっとヤバイ、一旦9層へ!」
と岡本さんが声を上る。仕方ない判断だった。結果として、俺達はギリギリのタイミングで全員が階段へ退避した。
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「追って来る?」と春奈ちゃん。
「いや、大丈夫っぽい」とは相川君。
「どうする?」加賀野さんがそう言い、
「数が多いし、地形が不利だな」と、岡本さんが答える。
場所は階段途中。この場で[DOTユニオン]は下の様子を窺いつつ、そんな会話になっている。相川君が言うように、10層のモンスター達は階段まで入って来ることは無かった。まぁ、これまでモンスターが層を跨いで行き来するという話は聞いた事が無かったけど、期せずして、身を以て証明した感じだ。
「どうするか……」
「う~ん」
誰とも無しに呟いて呻る。そんな感じの時間が流れる。と、ここで飯田が声を上げる。
「ひひひっとああんどうぇいで」
「は?」
流石に今の発言は意図を汲み取れなかった。なので精一杯「疑問符」を表現する声で訊き返す。
「ででっでですから、ひひひっとあああんど、ぅえいで!」
「落ち着いてください、飯田先輩」
「うー!」
ちょっと興奮気味な飯田は、朱音に窘められて不満気だが、何かを思い付いたように、バックパックに手を伸ばす。そこから出て来たのは、以前準備した「ここ使ってます」表示用のホワイトボードだった。飯田はそれに、水性マジックで何かを書き出す。
全員の注目が集まった結果、飯田の手は震えるが、それでも何とか書き終えたホワイトボードには、
「一撃離脱 ――ヒット・アンド・アウェイ作戦――」
と銘打った飯田の作戦が書かれていた。
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