*2話 落とし前
俺と千尋が密かに注視する2人連れの男。その内1人は30代後半に見える。一見すると「土曜に外回りをするサラリーマン」といった風に見えるが、時折垣間見える目つきの鋭さは、とても
まぁ、それもそうだろう。というのも、その男性は今や押しも押されもしないAランク[
本来、知り合いである加賀野さんだけならば、歩いて行って挨拶をするところだが、俺と千尋は店内装飾の影から様子を盗み見ている。その理由は、加賀野さんと一緒に居るもう一人の男にあった。
その男は20歳前半、大学生に見えないことも無い若者。ぱっと見た外見の印象はイケメン風、というよりもホスト風、いや売れないバンドマンと言ったところか。元はそれなりに気を遣っていただろう明るい茶髪も今や伸び放題になっており、頭頂部は染める前の黒髪。
随分と生活に苦労して
「……
漏れ出た声に、何とも言えない葛藤があった。
*********************
その若い男の名前は「
その借金は俺の前職場「FZアメージングフード」が運営する洋食レストランチェーンでのバイトテロが原因。バイト仲間と厨房で悪ふざけをした動画をSNSに投稿するという少し古風なバイトテロの結果、手島はFZアメージングフード社から訴えられて300万円の損害賠償を背負うことになった。
その後、手島は(何故か賠償金より200万円多い)500万円の借金の連帯保証を千尋に頼み、自身は
まぁ、俺が[受託業者]を始める経緯
――求償権で行けるだろう。裁判するなら相談に乗るし、取り立ても協力する――
とのこと。どうも千尋以外に深沢雅治(通称マー君)の方も気合が入ってしまったらしい。よーわからん話だ。
まぁ、借金の事以外にも、千尋としては「裏切られた」という思いはあるだろう。だから、頬の一つも
そんな手島という男が、[脱サラ会]の加賀野さんと一緒に居るという構図は、本当に奇妙に見える。なんというか「世の中は狭い」という言葉の実例を見ているような気になる。というのも、[脱サラ会]の加賀野さんと手島の面識は、同じ[受託業者]として生まれたものだったからだ。
現在、ナント、手島はあの[赤竜・群狼クラン]に所属している。[第2次受託業者認定試験]で資格を取得し、[受託業者]業をやっていたということ。それで、所属しているPTは小金井事件でメイズの中に避難していた[群狼第3PT]だという。つまり、小金井緑地公園での救出作戦の際に、俺と手島は近い距離でニアミスしていることになる。まぁ、あの時は体育館前の制圧で忙しかったから、俺は全く気が付かなかった。
そんな感じで一度ニアミスした手島を含む[群狼第3PT]だが、小金井メイズ消滅後のモンスター掃討作戦に(多分無理矢理押し付けられて)参加することになり、そこで[脱サラ会]と行動を共にすることになり、面識が生まれたということ。
ただ、そうやって生まれた[脱サラ会]加賀野さんと手島の面識が俺に伝わったのは、つい先週の日曜日の事だった。その日[DOTユニオン]として[井之頭公園中規模メイズ]に潜っていた俺達は、行動終了後のドロップ品分配時に普段通りの世間話をしていた。その時の会話で加賀野さんから「手島君」という名前を聞いて、それが気になり、アレコレ聞いた結果、
「彼がそんな事をするとは……ちょっと信じられないけど」
と言う加賀野さんに頼み込んで頼んで、今日に至るという訳。
なんでも、手島の方でも加賀野さんに相談事があったらしく、それでコーヒーショップで待ち合わせることになり、その場所と時間を聞いた俺が千尋を伴って、物陰から様子を見ている。
一応、今日の目的は本当に本人か確かめるというもの。その後の行動は決めていない。
田中社長に言わせれば、まず周辺の情報を仕入れて交友関係を掴み、更に相手の収入具合を把握した上で方針を決めた方が良い、というアドバイスだった。そうしないと、逃げられるか、中途半端な返済しか勝ち取れないらしい。債務整理ならまだ良いが、一足飛びに自己破産に持ち込まれると、取れるものも取れなくなるという。最近は、そういう借金逃れを指南するような弁護士が多いらしい。
とまぁ、借金を取り立てるだけなら、その筋のプロである田中社長に任すべき。だが、この場合(というか千尋の場合)そこに男女の情が絡む。だから、
「許せない!」
と鼻息荒く、物陰から立ち上がった千尋を、俺は止めるべきなのか、見守るべきなのか決め兼ねて、後に続くしかなかった。
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