*1話 近況
俺達[チーム岡本]が正常な[
復帰早々、[DOTユニオン]として設定した活動方針は10層未攻略のメイズにおける10層攻略というもの。その方針に従って、[アトハ吉祥メイズ][霞台駅メイズ][西川口メイズ][下赤羽メイズ]の10層
ちなみに、[CMBユニオン]と合同で[調布ビルメイズ]の10層を攻略することもあったし、[月下PT]に呼ばれて[成成学園内メイズ]に出向くこともあった。そういう感じで、[赤竜・群狼クラン]を除く他ユニオンとの交流は続いている。
一方、[チーム岡本]単独PTの場合は、10層攻略済みのメイズにおいて11層以降を単独で安定して攻略することが目標となった。年末年始にかけての一連のメイズ消滅作戦では、他ユニオンやPT、自衛隊メイズ教導隊との合同行動だったが、それを単独PTで行う事を目標に設定した訳だ。
結果として、その目標は思った以上に
ただ、どういう訳か(恐らく上がってしまった[修練値]の影響だろうけど)、10層よりも浅い層ではドロップ確率が目に見えて下がってしまったため、11層以降での活動は今や収入面で必須になっていた。
とまぁ、そういう状況だったので、厳しい戦いを承知の上で12層やそれ以降へ挑み、石に食らい付く気持ちでモンスターとの戦闘を
これが、[チーム岡本]や[DOTユニオン]の2月頃までの状況。
一方、その間[
2月の中旬になって、これまで自衛隊が管理していた2つの中規模メイズ[七王子メイズ]と[赤梅メイズ]が[
また、2月の末には[メイズ半年周期説]を彷彿とさせるように、国内の大都市を中心に合計14カ所のメイズが新発見され世間を騒がせた。この新発見は先の「小金井・府中事件」を連想させるもので、政府並びに[管理機構]は初期調査を最優先として事態に取り組むことになる。
ただ、この時の[初期調査]は昨年のソレと異なり、希望者が殺到する形となった。人選と、そのやり繰りに七転八倒していた昨年の状況が嘘のような話だが、それだけ[管理機構]が運用を開始したランクシステムの貢献が大きいという事だろう。お陰で2月末の新メイズ大量発見は「魔物の氾濫」を誘発する事無く無事に乗り切ることが出来た。
ちなみに、[管理機構]の[巡回課](係から課に格上げになった)の課長代理となった里奈によると、
――久しぶりね。元気だった? コータが知りたい新しいメイズだけど、解放は多分4月初め頃になると思う――
とのこと。そんなメッセージがスマホに届いたのが、今日の午後の事だった。
*********************
2021年3月13日 午後
俺は、スマホに届いた短いメッセージを読み終えると、そのまま画面を上へスクロールしてみる。次に新しい里奈からのメッセージは1月13日の23時48分。短く、
――鍵はポストに入れておきました――
というものだ。それ以降、今朝俺がメッセージを送るまで、2人の間に行き来は無かった。
連絡を取り合うほどの「用事が無かった」というのは、完全に自分向けの言い訳だ。本当の所は「大輝と言葉を交わした後の里奈に会うのが怖かった」というところ。まぁ、どんな顔をして会えばいいのか分からなかったし、会って「どうだった?」と感想を訊くような類の話でもない。
何よりも、ああやって2人が会うように仕向けた自分の姑息な考えに、もう一度向き合うのも億劫だ。
(とんでもなく我が儘なのだ……それに不誠実なのだ……)
ハム太の呆れた口調の【念話】が頭に響く。
なんとでも言ってくれ。我が儘で自分勝手で不誠実な事はもう分かっている。あのまま本当にフェードアウトするつもりなら、そもそも今朝メッセージを送った理由はなんだ? 連絡を絶ってからも、ハム美を預け続けているし、時折ネット掲示板に上がる彼女の情報をチェックしている。一体どういうつもりだ?
(素直さって、大事だっていうのだ)
きっと、それじゃダメだろ。
(メンアンドウーマン♪、なのだ)
もういい。ということで、俺はハム太の【念話】を遮断する。ちなみに、「念話の遮断」は最近出来るようになった技だ。【スキル】でもなんでもない。単純に自分の殻に閉じこもるだけ。昔はよくやっていた事だから、コツは弁えている。
ただ、この場合、自分の殻に閉じこもり続けることは出来なかった。というのも、今は外出中で、同行者がいる。それに外出理由も結構重大な話だ。
「お兄ちゃん、約束は14:30だったよね?」
少し不安気に話し掛けてくる妹の千尋の声で現実に引き戻される。
今、俺達兄妹は吉祥駅付近のコーヒーショップに居る。世界的にチェーン展開している超有名なコーヒーショップの店内は落ち着いた色調と雰囲気で、コーヒーを愛する者のための空間を演出している。その店内席の奥の隅にあるボックス席に腰を下ろしているが、その内千尋は時折入口へ視線を送っている。
「落ち着いて待とう」
俺はそんな千尋に声を掛けて、内心、何を偉そうに、と思いつつコーヒーを飲む。生温く妙に苦さだけを感じる液体を飲み下し、一息つく。と、ここで千尋が緊張したのが気配で分かった。
「来た」
短く息を呑むように言う千尋。その視線の先を追うと、そこには2人の男性がカウンターで注文をしている光景があった。2人ともよく見知った人物だが、2人同時に居るというのは、少し奇妙に感じられる。そんな光景だ。
「しばらく、様子を見よう」
「うん」
俺の声に小声で返事をする千尋。ただ、睨め付けるような視線は相変わらず2人の男性客の内の1人へ向けられていた。
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