*番外編 朱音のターン
「ありがとうございます! でも、先輩のチョイス……じゃ、ないですよね?」
「……バレた?」
「千尋ちゃんですね」
「ご名答」
「やっぱり」
「でも、似合うね」
「そうですか? えへへ」
行動に移る前は、
目の前には、ハートと十字架をモチーフにしたネックレスを首に通した朱音の姿。浴衣に丹前という和風な格好に、ゴツい感じのシルバーアクセは全く
「うん、やっぱり似合うな」
「どうも、ありがとうございます。でも、女の子に初めて渡すプレゼントで
「そうなの?」
「そうですよ、流石、千尋ちゃんです」
「そうなんだ」
朱音の評価に、そう応じる俺。言いつつ言外に「コータ先輩のセンスはまだまだです」と皮肉を言われた事に気が付く。まぁ、「ダサい男」なのは隠しようが無い事実だし、そもそも、年齢に(そっち方面の)経験が追い付いていないんだから仕方ない。だから、腹を立てるような話では無いし、実際、腹が立つ気は微塵もない。
「でも、次に何か贈ってくれる気になったら、その時はコータ先輩が自分で選んで欲しいです」
「……トンデモナイ物を選ぶかもしれないぞ、それで良いの?」
「なんでもいいですよ、コータ先輩がくれるなら」
「巨大なクマのぬいぐるみとかになるかもしないぞ」
「いいですよ、先輩だと思って一緒に寝ます」
う~ん、なんだろう、この会話。口は自動的に受け答えしているが、頭の中はさっきからそんな感じの疑問が駆け巡っている。ただ、この場にハム太が居たのなら多分、
――そんなの、既に分かっているのだ!――
と言われるだろう。
そう「分かっている」いや「分かった気になっている」と言った方が正しいか。以前から朱音はそんな素振りが多かった。それこそ、前の職場に新入社員で入ってきて、その教育係を俺が担当していた頃から、そんな雰囲気があった。
ただ、これは中学高校生男子が良く陥る罠、つまり「なんか目が合う気がする、もしかして俺に気が有るのかも?」的な誤解の可能性が高い。仕事柄(前職でも今の[受託業者]業でも)近くにいる時間が長いから、そう勘違いしているのだと思うようにしていた。
そもそも、俺と朱音では全く釣り合わないだろう。それを
とまぁ、こんな感じで、その「薄々分かった気がする」という結論から、全力で距離を置いていた。
しかし、俺がどれだけ距離を取ろうとも、その距離を一瞬で詰められる事がある。理不尽な勢いで
「コータ先輩、私、先輩の事が好きです」
「お……お友達感覚?」
「恋愛感覚」
「……」
熱海の夜の時間が止まった。というか、俺の思考が処理落ちした。この瞬間、俺は自分がどんな表情をしているのかさえ、把握できなくなってしまった。ただ、強烈な一撃(一言)を放った朱音の方は、ニコッと笑うと、
「……そんな、想像通りの反応をされても困るんですが」
と言う。どうも、今の俺は朱音の想定内の反応をしているらしい……
「あ、いや、その、あの……」
「いいです、直ぐにどうこうって訳じゃないですから」
「へ?」
「これまで通りで良いんです。ただ、私が言った事は忘れないでください」
「……はい」
「それじゃ、私のターンは終わりです。プレゼント、ありがとうございました」
朱音は、そんな感じに捲し立てて言うと「先に戻っています、おやすみなさい」といって建物の方へ駆けて行った。
遠ざかる下駄のカラコロという音を聞きつつ、再度夜空を見上げる。浴衣の懐に残った里奈へのプレゼントの包みが、胸に押し付けられる。小箱の角が鳩尾の辺りに押し付けられ、それが妙に痛く感じて、しばらく、そのままでいた。
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