*11話 酔っぱらいは電話にご用心!
「反省会」は開始直後に「新年会」へと姿を変え、1時間半経過した今、ただの「飲み会」に変貌している。料理は粗方片付いてしまい、今は酒の
「塩分の取り過ぎ」と一通り全員から突っ込みを受けた2人(匹)だが、
「吾輩、太く短く生きるのら! 塩を舐めつつ酒を呑むような男になりたいのら!」
「竜の炎でも死なないりゃん! 塩分なんかで死ぬわけないりゃん!」
とのこと。発言の内容はともかく、呂律が怪しくなっている。
ちなみに、俺と岡本さんは(主に岡本さんの好みによって)芋焼酎の5合瓶をお湯割りセットでやっている。一方、里奈と朱音は、ハム太やハム美と一緒に「ナントカ大吟醸」という日本酒(仰々しくアイスバスケットに入っている)を飲んでいたが、今はワインに切り替えたところだ。そして、飯田が座っていた場所には半分残ったカルアミルクのジョッキが墓標のように置いてある(本人はトイレの中だ)。
それで、俺は岡本さんの話(マンションが云々というもの)に相槌を打ちながら、日本酒からワインに移った里奈達の様子をついつい見てしまう。というのも、さっきから何か忘れている気がするのだけど、どうしても思い出せない感じがするからだ。キャキャ言っている里奈と朱音を見て「ハッ」としたから、2人に関係が有るはずだとは思うのだが……何だったけか?
そうやって視線を送る先では、里奈と朱音、それにハム太とハム美が結構なペースでワインを飲んでいる。日本酒からワインに移るという
「――それで、里奈さんのお休みっていつまでですか?」
「12日までよ、年末年始分とこれまでの時間外労働分を含めた代休だって。散々こき使っておいて、調子が良いのよ。大体ね――」
あぁ、お休みだったんだ。
「じゃぁ、お休みの間は?」
「マンションに居ても一人だから、今は実家よ。まぁ、今日で2日目だけど、もういい加減にしんどい」
「デートとかする人とか居ないんですかぁ?」
「どうせ居ませんよ。朱音ちゃんと違ってモテないから」
「やだ~、そんなことないです~」
……なんだろう、盛り上がっている割りに、空気が張り詰めている気が……気のせい、だよな。
(コータ殿……なにか忘れている気がするのら……思い出せないのら)
と、ここでハム太が【念話】を送ってきた。念話でも呂律が回っていないとは芸が細かいな、とも思うが、それよりも、ハム太も何か忘れている気がしているのか……ほんと、何だったかな?
「プレゼントりゃん! お兄様、プレゼントりゃん、レッツゴー、コタニャン!」
と、ここで不意にハム美が
「あ~そうだった、プレゼントだ!」
思わず大き目の声を出してしまい、全員の注目を集める。ただ、俺もちょっと酔っぱらっているので気にならない。そう、気にならない今なら、全部渡してスッキリ出来るんだ! やるぞ、俺!
「皆さんに、プレゼントがありま~すっ!」
「おお、コータ殿のテンションが高いのら!」
「勢いで押し切る作戦ニャン!」
よしよし、良い感じの勢いだ。
唐突だけど、プレゼント云々を言い出した俺に、岡本さんは
「お、ありがとうな!」
と言う。一方、里奈と朱音は、
「コータ、それって『ナントカ細胞ありま~す』の真似? 似てないわ、アハハハ」
「あ~ん、プレゼントって全員に配る系ですかぁ、ガッカリ~」
という反応。そして、丁度トイレから帰って来た飯田は、
「きき、き気持ち悪い……です、ぷぷぷプレゼント」
どういう意味だよ? と思うが、この際流す! 今は勢いを大切にしたい!
「
だが、そう思って口に出した自分の言葉に、直ぐに「しまった!」と感じる。問題は主に2つ。「先ずは」と切り出した点。これだと、次に勿体を付けるように聞こえてしまう。まぁ、勢いで乗り切るしかない! そしてもう1つは「皆さんに」と言った点。実は、里奈用のマフラーは買っていない。そもそも、12月24日のお食事会で渡すつもりで買ったもので、そのお食事会に里奈が参加する予定は微塵もなかったのだからしょうがない。でも、どうする? 飯田の分を里奈に回すか?
(自分用が有るのら!)
お、そうだった! ナイスアシスト、ハム太! ということで、
「どうぞ! 岡本さんの奥さんの分もあります!」
と、高級カシミアマフラーを配る俺。とにかく、勢いを大切にしたいので、岡本さんの「鳴海の分まで、ありがとうな!」という言葉や、里奈の「え? 私にも?」という言葉、朱音の「センスいいですね、コータ先輩のチョイスですか?」という微妙に鋭い指摘も、全部無視して、次に繋げる。
次は朱音用として買ったシルバーアクセと里奈用に買ったクリスタルのブレスレッド。この2つの処理が厄介だったから、今こんなに焦っている。でも、勢いは十分、いざ参らん!
ただ、この瞬間、自分に気合を入れるために間が空いたのは確か。そのため、「溜め」を作ったような流れになり、全員が俺を見る事に。そして、元々他の客が居ない居酒屋の個室スペースに一瞬の静寂が訪れ、
――ピリリリッ、ピリリリッ!
岡本さんのスマホの呼び出し音が、妙に明瞭に響き渡った。
「あん? なんだ?」
岡本さんは、そう言いつつも電話に出る。一方、俺は流れを完全に断ち切られてしまい、焦りが表に出る。ヤバイ、どうする? 朱音、妙に期待の籠った目でコッチを見るな! っていうか、そもそも、このタイミングで電話を掛けて来た空気読めないヤツは誰だ!
「――ちょっと聞いてみるから」
そんな俺の内心の葛藤(?)を知らない岡本さんは、そう言って電話を脇に置くと、
「なぁ、月成が温泉に招待したいって言っているけど、どうする?」
だ~っ! 月成凛、てめぇか! 「何故温泉?」と思うが、それよりも、この流れだと、このお誘いについて話してから、「改めて」と言う感じで話しが元にもどってしまう。それは、流石に言い出しにくいし渡しにくい。もう、こうなったら、空気を読めずに電話を掛けて来た月成凛に、全部乗っかろう!
「……いいですね、みんなで行きましょう!」
酔っぱらった頭で、勢いに任せて考えた結果、俺はそんな事を口走っていた。勿論、翌日後悔したが、後の祭りとは、まさにこの事だった。
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