*10話 反省会にゲスト登場!
西国分寺駅近くの個室居酒屋は、下赤羽みたいにレンタカーでの移動が必要なメイズに行った際の「反省会」会場として使っているお店だ。全国展開しているような大規模居酒屋チェーン店ではなく、東京西部や埼玉、神奈川の一部に10店舗前後を展開している中小チェーンの店になる。チェーン店としては焼肉店の方が有名らしく居酒屋店は3軒しかないのだが、そのため(?)、店はいつも落ち着いた雰囲気で、予約が取り易いのもありがたい(岡本さん談)。
お店に入ったのは丁度18時頃。夜の営業開始時刻とほぼ同時だ。少し早い気もするが「早く初めて早く終わろう」という方針的なものがあるので、[チーム岡本]の反省会としては普通。それで、俺達は店員さんの案内で個室風のスペースへ通される。
お店の中は時節柄……というか、今の状況を受けて閑散としている。まぁ、主要路線の中央線と西武新宿線が未だに運休している状況なので、これは仕方ない。
それで社員風の店員さん(店長さんかな?)に訊いたところ、今日の予約客は俺達だけ、とのこと。元飲食チェーン社員だった[チーム岡本]はその返事に妙に切ない気持ちになったりする。聞けば年末年始の忘新年会需要も「魔物の氾濫」によって吹っ飛んでしまったらしい。
こうなるとアルバイトの出勤を控えさせて社員だけで店舗を回し、メニューも
ということで、客足が遠のいた時の飲食の辛さと内情の厳しさを身に染みて知っているだけに、今日のオーダーは普段と少し違う感じになる。普段は各自が自分勝手に好きな物を頼み、その結果として貧乏舌が遺憾なく発揮された格安お会計で済むのだが、今日は自然と「オススメメニュー」から選ぶ格好になった。
その結果、忘新年会向けに準備されていただろう食材をメインにした料理がテーブルに並ぶことになる。内容はタラバガニの各種料理やマグロ、寒ブリ、甘エビ辺りのお刺身といった原価が高くて足が早い魚介を中心にしたメニューになる。まぁ、年末年始は魚介を食べたくなるのが日本人の習性(?)なのだろう。
期せずして、普段よりも3倍は豪華なオーダーになってしまうが、
「まぁ、いいだろ……たまには」
「そうですね、たまには」
「新年会だから、1年に1度ですもんね」
「かっかカニ……」
と言う感じで落ち着いた。懐は十分に温まっている(金銭的な意味で)が、それでも最後の会計を気にしてしまう点は、何処まで行っても庶民な[チーム岡本]だ。
一方飲み物のオーダーについても、余り手間がかからないボトルで頼める焼酎や日本酒、ワインにしようとするが、流石に店員さんが、
「大丈夫ですよ、お好きな物を仰ってください」
と変な遠慮をすることになり、
「じゃぁ、最初はビールで」
ということになる。それで、丁度飲み物のオーダーが終わるかどうか、というところで、今日のゲストがやって来た。
「あらためて、あけましておめでとうございます」
と言うのは里奈。そして、
(コータ様、お久しぶりニャン!)
と念話を送って来るハム美。この2人(?)がゲストだ。
*********************
反省会に里奈を呼んだのは岡本さんの思い付きだった。岡本さんは自分で里奈に連絡を取って段取りを付けてしまった。どうも[小金井緑地公園]にてピンチの所を助けられたお礼がしたかったということ。
「その節は、本当にありがとうございました」
と改まって頭を下げる岡本さんに、里奈は少し居心地が悪そうに「いえ、そんな」と答える。まぁ、公園内を車で爆走し、モンスターを轢きまくった挙句、公衆トイレを包囲するモンスター集団に突入して岡本さん親子と同級生を助けた、という
ちなみに経緯の詳細はハム美から聞いている。なので、
「免許証、大丈夫だった? 免停とか」
と聞いてみる俺。少し意地悪だ。
「めっ、免停になんてなる訳ないでしょ! 公道じゃないのよ! 器物破損の方も含めて、纏めて緊急避難よ、
対して里奈は少しムキになった感じで答える。
そうこうしている内にオーダーした飲み物がテーブルに運ばれてきた。
「まぁまぁ、先ずは乾杯しよう。今年もよろしく、乾杯!」
それで、岡本さんの発声で乾杯。以後はテーブルに運ばれてくる普段よりも3倍増しに豪華な料理をつつきながらの会話になる。
まぁ、今回里奈を「反省会」に呼んだのは、岡本さんの「お礼を言いたい」ということが動機だけど、来た以上はそれ以外の話にもなる。俺達が知りようの無い[管理機構]の裏事情や、もっと上のレベルの話を是非聞いてみたいものだ。
一方、里奈の方も、話しが
その結果、「反省会」は只の新年会から[受託業者]と[管理機構]の、
まず小金井緑地公園と太磨霊園周辺の残存モンスター討伐について。これは、
「小金井の方は殆ど終わっているわ、今は太磨霊園が中心よ。えっと……[脱サラ会]だったっけ? 加賀野さんのいるパーティーがメインで頑張っているわ」
ということだった。まぁ、[脱サラ会]の加賀野さんとは連絡を取り合っているので、この事情は知っている。加賀野さん曰く「落穂拾いだよ」とのこと。魔素が消えた後のモンスターは目に見えて弱くなっているらしい。しかも、事態中に回収されなかったドロップがそのまま残っているため、事後処理の活動は結構「美味しい」そうだ。
ちなみに[CMBユニオン]のおっちゃん達と共に、若い[受託業者]の面倒を見ながらやっているらしい。俺達も十分若いと思うが、加賀野さんに言わせると「いや、君達は別だろ」とのこと。それで面倒を見ているのが例のヤンキー風PTと[群狼第3PT]だというから、その取り合わせが少し面白い。
「見違えるから、今度連れて行くよ」と言う加賀野さんの提案はご遠慮したいが、とにかく、メイズ消滅後のモンスター掃討は順調に進んでいる様子。
次に話題になったのは、井之頭公園で発見された[中規模メイズ]について。すっかり忘れていたが、未報告のメイズが次々と明るみに出た12月半ばの時点で、井之頭公園に[中規模メイズ]が発見されていた。
こちらへは初期調査として自衛隊のメイズ教導隊が任に就いており、小金井緑地公園で「魔物の氾濫」が起こる前日に取り敢えず4層までモンスターを間引いていた、とのこと。つまり、諸橋班長や田丸隊長達は、一連の任務前に井之頭公園にて初期調査任務を行っていたという事になる。そう考えると、俺達以上に大変な年末年始だったんだなぁ、とちょっと同情してしまう。
一方、[中規模メイズ]の話題については、ハム太とハム美が声を揃えて、
「今の状態で中規模メイズが原因の魔物の氾濫が起きると、もうどうしようもないのだ!」
「メイズに辿り着けるかどうかも怪しいニャン、30層の踏破なんて……今のコータ様達にはとても無理ニャン」
などと言う。まぁこの2人(匹)が言うならそうなんだろう。だったら、魔物の氾濫が起きないようにモンスターを間引いて行くしかない。この点について[管理機構]は、
「井之頭公園メイズについては、[受託業者]への解放を検討中ってところね。多分遅くても3月頃には中に入れるようになるわ」
とのこと(里奈談)。
他にも赤梅と七王子の何処かに存在する自衛隊管理下の[中規模メイズ]も近く[受託業者]に解放される予定らしい。大した変化だが、どうも政府内では[管理機構]の発言力が強まっているとのこと。小金井緑地公園絡みで封鎖解除の連絡ミスから被害を拡大させた警察関係や、メ弾絡みの不祥事を抱える自衛隊に対して、「メイズ消滅」の功績を挙げた[管理機構]の声が相対的に大きくなっている、とのことだ。
また、海外の状況を見渡してみても、主要先進国の中で「
途上国等では、一部暴動が激化して無政府状態に陥っている国もあるというから、そう考えると日本は、中国と並んで「魔物の氾濫」を最小限の被害で抑え込んだ優等生な国ということになる。(まぁ中国については、内情が不透明で政府発表を聴く限りでは、という事らしいが。)
「でも、メイズ消滅に貢献したのは[
と、里奈は普段絶対にしないような口調で言う。まぁ俺には「コッチが素」という風に聞こえるけども、他の面々は砕けた里奈の口調にちょっと驚いている。それで岡本さんは、
「いや、五十嵐さんだって現場にいただろ、そんな乗っかってるだけじゃない」
と、ちょっと高めの温度で言う。一方、朱音の方は、
「意外な感じです。ギャップ萌えを狙ってるんですか?」
などと変な角度から食って掛かったりする。そして、飯田はカルアミルクの4杯目を頼んだ。
普段は冷静で
やっぱり、料理が豪華なことと懐が温かいこと、それに2つのメイズ消滅に関わった「達成感」が理由だろう。
でも飯田、お前のカルアミルクジョッキ4杯目はちょっと飲み過ぎだ。
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