*9話 年末年始の結果発表~~!
2021年1月6日 港区虎ノ門[管理機構]本部
時刻は15時過ぎ。場所は行政法人の本部事務局が多く入居するオフィスビルの4F。俺達[受託業者]の元締め(?)的役割を持つ行政法人[管理機構]の本部オフィスが入居しているフロアだ。そのフロアの一画、15人入れば満員になる[小会議室A」に、俺達[チーム岡本]は居る。
一方、俺達の対面にはスーツ姿の[管理機構]職員が2人。里奈の上司だという佐原課長と、同僚だという富岡係長。この2人は1時間ほど会議室を離れていたが、5分ほど前に戻って来た。
そして、この2人の内、佐原課長が発した言葉なのだが、その内容がすんなりと頭に入らずに、思わず、
「……はい?」
と訊き返してしまう。
我ながら間抜けな声が出たと思う。たぶん、表情もポカンとした顔になっているだろう。他の面々の顔を見渡すに、全員が同じような顔になっているから、まず間違いない。あの強面な岡本さんでさえ、口を半開きにして締まりのない
「何か……ご不明点でも?」
対する佐原課長は俺達の表情を受けて怪訝な顔をする。そんな佐原課長に、
「課長、先に明細書をお渡しするほうが良いのでは?」
と言うのは富岡係長。ちなみに、富岡係長は30前後のいかにも「出来る」といった風貌の女性。里奈の話では「万年恋人募集中な人」ということだったが、ちょっとそうは見えない。もしかしたら、とんでもなくハードルの高い人なのかもしれない。
そんな風に、思考が脇に逸れるのも、今さっき言われた言葉の内容が頭に入らなかったから。一方、佐原課長は富岡係長の言葉に「ああ、そうだな」と言うと、
「こちらをご確認下さい」
と言って、クリアファイルからA4サイズの書類を人数分取り出すと、俺達の前へ置く。その書類は「買取り明細書」。俺達[
まぁ、この場合は書類が輝いて見えるというよりも、その中に書かれた内容が輝いていた。お陰で、口頭で言われた数字が全く頭に入らないというありさまだったが、流石に紙の上に書かれた数字なら、冷静にゼロの数と桁数を数えることが出来るというもの。
それで、俺達[チーム岡本]は4者4様といった風に明細書の中身を凝視する。その内容は、
*********************
――買取り品――
[メイズストーン]58kg 3,500,000円
[スライム粘液]14kg 28,000,000円
[メイズハウンドの皮]66枚3,300,000円
[大黒蟻の頭殻]51個 2,550,000円
[レッドメーンの皮]5枚 2,500,000円
[レッドメーンの牙]3本 1,500,000円
[赤飛蟻の毒針]10個 1,000,000円
[コボルトの毛皮]21枚 1,050,000円
*Aグレ特典割増し30% 13,020,000円
――――――――――――――――――――――
小計 56,420,000円
――持ち出し品――
[ポーション類]8点
[スキルジェム]4点
[スキルジェム]4点
[アイテム分類A]3点
[アイテム分類B]1点
持ち出し料 20点 -2,000,000円
*Aグレ特典持出し +2,000,000円
――――――――――――――――――――――
小計 0円
――鑑定依頼――
無し
――――――――――――――――――――――
小計 0円
合計 56,420,000円
メ特税(源泉徴収) 11,284,000円
――――――――――――――――――――――
税引後合計 45,136,000円
(分配後支払い金額 11,284,000円)
*********************
というもの。「ああ、書式が変わったんだね」なんてところに目が行かないのは仕方ない。
「一千万……」
「超えましたね」
「なぁ」
「すすすす……」
実に一人当たり11,284,000円!! 初の8桁達成だ。6桁を越えたことすら1度しかない(七王子メイズが消滅した時の買取りが一人当たり100万ちょっとだった)のに、これは……やばい……
(夢が広がるのだ!!)
いやいや、貧乏人がいきなり大金を手に入れたら碌な目に遭わないよ。親戚が増えるよ、昔の友人が連絡を取って来るよ!
(……どちらも居ないのだ?)
あ、そうだった……。親戚が居ないのは(親の代の問題だから)まぁ仕方ない。それに、「昔の友人」と呼べる存在も里奈を除いては思い当たらない。まぁちょっと寂しい人生だとは思うが、お陰で安心(?)だ。
「額が額なので、少し時間がかかりますが、金曜には振り込まれますのでご確認を――」
一方の佐原課長は、淡々とした感じでそう言う。そして、
「富岡君、そちらの品を――」
と、富岡係長を促して、持ってきたアタッシュケースを受け取るとテーブルの上に置く。
「こちらは、[太磨霊園メイズ]に行って頂く際に約束した品です。超が付くほどの特例措置ですから、他言は無用に願います」
真面目な表情で念を押しつつ、佐原課長はアタッシュケースを開く。そこには水晶風な外見の握り拳大の物体 ――スキルジェム―― が全部で4つ。表面にはシールテープが貼られていた痕が残っている。恐らく管理バーコード的なシールを剥がして持ってきたのだろう。
「皆さんの買取り明細の中に余計にスキルジェムが4つ追加されています。皆さんAランクですから持ち出し料はかかりませんので、そこで処理させていただきました」
との事。
まぁ、岡本さんが[太磨霊園メイズ]に関する依頼を受ける際に、断らせるつもりで「好きなスキルジェムを選ばせろ」という無茶な要求を出したのだが、それを[管理機構]の方は律儀に守った、ということだ。逆に恩を売られたような変な気持ちになる。この点、岡本さんは
ちなみに要求した「好きなスキル」に関しては、この会議室に入って直ぐにリストを渡されて、そこから選ぶことになった。リストの中には「公式オークション」が開始になるまで[受託業者]が拾っては買い取りに出していたスキルジェムが載っている。それで選んだスキルは、飯田が【念話】、朱音が【看破】、岡本さんが【威圧】、そして俺が【気配察知】という内容。
一応、個人の好みをベースに4人(+ハム太)で話し合った結果の選択だ。効果については一部でハム太やハム美が持っているスキルに被るが、これにはそれなりの理由がある。
俺の場合は「もっと能動的かつ積極的に気配を探りたい」という理由で【気配察知】を習得した。本当のところは、時々「抜ける」あの2人(匹)に任せておくと心配だから、というもの。これにはハム太も心当たりがあるようで、特に反論も反対もしなかった。
一方、飯田が【念話】を希望したのは、口に出すと
他には、岡本さんが【威圧】という文字通りモンスターを威圧する
また朱音が習得した【看破】という
(あった方が良いのだ)
と主張したので、習得することになった。なんでも[中規模メイズ]には罠やその手のスキルを持つモンスターが居るとのことだ。
以上が、[管理機構]から「超特例措置」として頂いたスキルの内容。
一方、純粋な収拾品として、[チーム岡本]はスキルジェム【防御姿勢】【俊足】【弱化魔法】【逃走】の4つを持ち出し品として所持しているが、その内【防御姿勢】は岡本さんが習得することになり、残りの3つは公式オークションへ流すことになった。
また、買取り明細中の[持出しアイテム]の項目に見慣れない[アイテム分類A]と[アイテム分類B]というものが出来ていた。この内、明細内に「1点」と書かれている[アイテム分類B]は、朱音が持っている[風属性付与矢筒]がそれに該当する。他には俺の[刃喰鞘]も、この分類に該当することになる。つまり、見た目が消耗品では
一方、明細内に3点と書かれている[アイテム分類A]は、ルビーやサファイヤといった宝石に似た外観を持つ輝石。これらは、メイズストーンやスキルジェムとは違う外観の輝石であって、実は火や水といった属性を宿している[属性石]というもの。まぁ、原石ではなく、カットされた状態でドロップするのだから、明らかに普通の品ではないと分かる。
ただ、今のところ、この[属性石]には明確な使い道がない。ただ、朱音が持つ[風属性付与矢筒]に似たようなグリーンの輝石が埋め込まれていることから、何かしら工夫をすれば役に立つのかもしれない。その辺りは
(吾輩、そういうのは良く知らないのだ……)
とハム太。それで、
(こういうのはハム美に訊くのだ!)
となるが、肝心のハム美は1月2日からずっと里奈に帯同していて不在。この後会うことになっているので、その時にでも聞いてみる事にする。
*********************
その後間もなく、俺達チーム岡本は[管理機構]のオフィスを後にした。全員で同じレンタカーに乗って西国分寺駅を目指す。
ちなみに、レンタカーで移動しているのは、未だに東京西部方面に掛けて鉄道網が正常ダイヤに戻っていないから。メイズは無くなり、魔物の氾濫も終わったが、避難ゾーンや警戒ゾーンは未だ残っている。そのため、それらの区域内を通っている路線は運行が取り止めになっており、影響が他にも出ている状況だ。
年始だからか、魔物の氾濫の影響なのか、道路はそれほど混んでおらず、特に苦も無く西国分寺駅へ到着。その後はレンタカーを返却し、駅から程近い個室居酒屋に移動する。目的は……久しぶりの「反省会」だ。
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