*太磨霊園レイドアタック⑳ 赤い魔犬 with ラッシュ!
【飯田ファイヤー:火壁バージョン】で分断された15層の第1広間の戦い。その内、俺と月成が展開した左側での2対5の戦いが終息した時、反対の左側で続いていた戦闘も又、
俺が5匹にトドメを刺し終わったのとほぼ同時に、広間を分断していた炎の壁がフッと消える。それで見通しが効くようになった視界の先には、
しかし、岡本さんは怯む事なく、[飯田式方形ポリカ盾]をガッチリと構えて身体を守りつつ、適宜【挑発】スキルをバラ撒いている。その結果、常時3匹以上の
[月下PT]の近接攻撃組は1匹のオークに対して神宮寺君と神谷さんの2人が息の合った連携攻撃を繰り出す。その2人が十分にオークの注意を惹いたところで、小太りお坊ちゃんキャラな東條君が、その体格を生かした重たい槍のひと突きを敢行。東條君はその直後にオークに殴り飛ばされるが、引き換えに成功させた刺突は、槍がそのままオークの横腹を串刺にして残っている。
いくらタフなオークといっても、
その間[月下PT]の盾持ち地味メン五味君は黙々ともう1匹を押さえていたりする。普段は地味で目立たない(というか他メンバーの個性が強すぎる)東條君と五味君の活躍が、地味に光る地味な戦いだった。
一方、[TM研]は諸橋班の至近戦闘手と共に2匹のオークを受け持っている。このグループには盾持ちが3人いるが、その内、井田君が1匹を受け持ち、残りの1匹は諸橋班の2人が押さえている状態だ。その状態で、まず井田君が受け持つ1匹に対して状況が進展した。
井田君の両脇から、相川君の槍と上田君のショートソード二刀流が交互に攻撃を繰り出す。2人とも使用武器に対応する【戦技】を持っているから攻撃は鋭い。ただ、持っている武器の違い(と、あとは性格の違い)から、戦い方が異なる。それが、噛み合ってより効果的な攻撃になる感じだ。
具体的には相川君が[飯田式組立槍]を使ってオークを牽制。続く上田君や、武器を
ただ、15層
ちなみに14層で
そこに、相川君と上田君が追撃に掛かる。相川君の槍の穂先がオークの心臓の辺りを貫き、上田君のショートソードが十文字に喉を切り裂いた。それで、オークは断ったまま絶命。流石、[TM研]3人の連携攻撃は素晴らしいと思う。
(感心している場合じゃないのだ)
そうでした。ということで、
「岡本さん、援護します!」
俺は、そう声を発して1対3の戦いを持ち堪える岡本さんへ駆け寄る。
その後は【水属性魔法】で牽制したり、「飛ぶ斬撃」を放ったり、【隠形行】で不意を突いたりしつつ、3匹の内2匹を斃した。最後の1匹は岡本さんの「ナチュラル強撃」的なメイスの一撃で終了。ちなみに、諸橋班が掛かっていた1匹には月成凛が加勢し、こちらもほぼ同時に終了。それで、15層第1広間には沈黙が……戻らなかった。
*********************
――ウゥォオオオン、ウォォオオンッ!
丁度、月成の魔剣フライズが最後のオークの喉元を深く貫いた時、広間の奥の通路からそんな【遠吠え】が響いて来た。ただ、声の感じはコボルト系ともスカウトハウンドとも違う。もっと低く、強烈で、何等かの意志が込められていそうな遠吠え。言わなくても分かる。
(
これは……もしかしたら、残りの広間のモンスターをかき集めて突っ込んで来る感じか?
「飯田!」
嫌な予感には自信がある俺。念のため(?)飯田に確認すると、曰く「一気に来るかも知れない」的な意味の発言が返って来た。嫌な予感に限って言えば、俺の予感は飯田の【直感】に匹敵する精度を誇っている。まったく有難くない話だ。
「どうします?」
という声は[TM研]の春奈ちゃん。見ると、月成や岡本さんもコッチを見ている。ここで「訊きたいのはコッチの方だよ」などと返事をすれば、不安に拍車を掛けてしまう。もっとも、そんな言葉がこの場で出てくるほど
(うぬぬ……数は……コボルト系3匹、メイズハウンド32匹、レッドメーンは……4匹なのだ)
ハム太は【気配察知】を駆使しつつ、そんな念話を送って来る。なるほど、
「前みたいなパーテーション型の障害物は使えないよな?」
とは岡本さん。
確かに、敵が
「ふ、ふふっふ普通のっしょっしょ障害物を」
一方、飯田は普通に障害物を[飯田式簡易要塞]として出そう、という意見(だと思う)。だが、そうなると、大勢のモンスターと対峙するには良いが、【幻覚】スキルに翻弄される可能性が……この前、太磨霊園の第三休憩所で起こったような同士討ちになりかねない……
「かなり近いですよ!」
「仕方ない、盾持ちで通路の出口を埋めるぞ!」
そうしている間にも、大勢のモンスター(主にメイズハウンド)が立てる気配が迫ってくる。たまらずに相川君が声を上げ、岡本さんが盾持ちへ号令を発する。
ただ、15層に出るメイズハウンドは、これまでよりも体格がひと回り大きい。殆ど別種と言ってもいいほどの強さがある。それを盾だけで受けとめるには色々と無理が有るような無いような……やばい、色々考えると結論が出ない。時間だけが過ぎる。焦るな、焦るな、と思うほどに焦りが目立って思考が纏まらない。
――って、そもそもなんで、俺がそんな事を考える役なんだ?
……本格的にヤバイ! 焦り過ぎて、反発心が芽生えて来た。どどど、どうしよう……
(落ち着くのだコータ殿! そうだ、こんな時は深呼吸をするのだ、ヒーヒーフー、ヒーヒーフー)
いや、それだと産まれちゃうぞ!
(ヘケ?)
だ~っ! もうイイい。とりあえず、一回通路を塞いで仕切り直し――
「飯田さん、通路を塞いでください!」
「へけ?」
とこの時、俺が言おうとしたことを先回りして言う声が上がる(お陰で変な声が出てしまった)。声の主は諸橋班長。但し、俺が一時凌ぎと思って言おうとした内容を、妙に自信あり気な
「頼みます! ――田中、杉村、坂下、14層へ行ってアレを貰ってこい! ありったけだ!」
どういうつもりか分からないけど、何か策があるらしい。
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