*太磨霊園レイドアタック⑮ 突破せよ、12層の壁
飯田が造り出した障害物はV字の底を切り取ったような形状をしている。その切り取られたスペースに飛び込む俺。背中にはヒシヒシと迫るゴブリン集団約20匹が発する殺気を感じる。だが、ゴブリン
小金井の15層のように(あの時は
クリスマスプレゼントは既に大きく時期を外したが、やっぱり何処かのタイミングでプレゼントは渡した方が良いだろう。どんなタイミングが良いかな?
(戦闘中なのだ?)
あ、はい。そうでした。
ハム太の【念話】にはちょっと呆れたような調子が籠っていた。それに気が付いたので、自分を戒めつつ気を引き締める。飯田式簡易要塞の裏に飛び込んだとしても、今回はそれでお終いにはならない。諸橋班へのバックアップは必須だった。
俺が飛び込んだ直後、2mほどの障害物の切れ間には諸橋班至近戦闘手の盾持ち2人が塞ぐように陣取る。その後ろにはバックアップ的に岡本さんの姿。対して、先んじて障害物に退避した小銃手は、壁の隙間に取り付こうとしている。
「ちょっと、それを貸してください!」
「え、えぇ?」
「良いから、早く!」
とは、壁の隙間に取り付いた朱音と、さっき朱音が【手当】で治療した隊員のやりとり。朱音はその隊員から何かを借りようとして手を突き出している。何をやっているのか……と疑問が生じるが、それを確かめる間もなく、
「来るぞ!」
と岡本さんの声。続いて、
「ギョギョン!」
「グギャギャン!」
というゴブリン独特の金切り声と、
「うおぉっ!」
「来いやぁ!」
という盾持ち隊員2人の声が上がる。そして、
「小銃手、てぇ!」
という諸橋班長の号令と共に、障害物の隙間から突き出した銃口が一斉に火を噴く。
【生成:障害物Lv2】を用いた飯田式簡易要塞での戦いは、こんな感じに盾持ちがモンスターを受け止めつつ、障害物の隙間から反対側のモンスターをチクチク(この場合はバンバンッと)攻撃して削っていくことになる。
ただ[DOTユニオン]行動時の盾持ち、毛塚さんや久島さん、井田君に比べると、メイズ教導隊諸橋班の盾持ち2人は少し心許ない。がっしりと鍛え込んだ体格は素晴らしいが、残念な事に盾を用いた防御戦闘(対モンスター)を始めたのはつい最近の事。それに対応する戦技スキルも習得していない。それに加えて、小銃手の「メ弾」も効き目が鈍いことが分かっている。
そのため、こちらがモンスターを減らすよりも、モンスター側の増援がやって来る速度が上回る。その結果、経験の浅い盾持ち2人は前進するゴブリン集団の圧を抑えきれずにジリジリと後退。障害物の構造上、一定以上押し込まれると、一気にモンスターが内側へ雪崩れ込んで来る。そのため、
「コータ!」
「はいっ!」
岡本さんの掛け声で、盾持ち2人の脇から援護に回る。勿論岡本さんも同様だ。そこに、諸橋班長も加わった。3人で2人の盾持ちを後ろに退かせて替わりを受け持つ。真ん中が岡本さん、左が諸橋班長で右が俺。その状態で敵モンスター前列のゴブリン
流石12層。ゴブリンFの突き込んで来る槍の穂先は鋭い。ただ、奴らの背後には同じようにモンスターが
「いやぁ!」
「エイッ!」
俺と諸橋班長の気合が被り、ほぼ同時に2匹を斃す。そして、
「うらぁ!」
岡本さんは、そんな怒声と共に[フランジメイス2号]を力任せに正面の1匹へ叩き付ける。
「グギョ――」
これで、盾持ち2人を押しまくっていた先鋒の3匹を斃す。ただ、後ろには
これがほんとの「わんこモンスター」……なんちゃって。
(……蕎麦じゃないのだ?)
……状況は、結構厳しい。
「いいい行きます! カケマクモ、アヤニカシコシ――」
と、ここで飯田が【飯田ウインド:渦風バージョン】の詠唱に入る。
「――オンハヤベイソワカ、バー!」
詠唱完了と共に、障害物の外側、モンスターが団子状に固まって居るところで渦風が起きる。勿論ただの風ではない。真空の刃を伴った殺傷性の高い(グロイともいう)風の渦だ。それが吹き荒れて、周囲にはゴブリンやメイズハウンドの鮮血がスプリンクラーのように飛び散る。
障害物に堰き止められていた関係で、モンスターが密集していたから、今の一撃は効果的だった。
「よし! でも、魔素力温存でな!」
「はっはい!」
俺は飯田に
「諸橋班長、コイツは手強いです!」
「わかった、遠藤君!」
と短く言い交わした後、ゴブリンF2匹とゴブリンK1匹に対峙する時間が訪れる。
ちなみに12層のゴブリンKは、今の俺や岡本さん的には「いい勝負」な相手になる。ただ、ガッチリと鎧を着こんだ防御力の高さは厄介で、特に俺や諸橋班長みたいに刃物を武器にしていると、中々攻撃を撃ち込む隙が無い。遭遇戦ならばさっさと【隠形行】を使って不意打ちで斃したい相手と言える。そのため、まともに打ち込んで
俺はというと、そんな岡本さんの援護としてゴブリンKに脇からちょっかいを掛けつつ、ゴブリンFを相手にする。ゴブリンF相手だと、これくらいの余裕はある感じだ。だから、チラと諸橋班長の様子にも気を配る余裕もある。
しかし……諸橋班長の方は心配無さそう。キンッと穂先を横に払いつつ、そのまま鋭く踏み込んで喉元へ必殺の突き。更に、素早く[夕立]を左手に持ち替えて、右手はレッグホルスターから拳銃を引き抜いて、パンパンパンと発射。ちなみに、この発砲は、ゴブリンFの後続に対する牽制だった。正面のモンスターだけじゃなく、その周囲も見えていることが凄いと思う。
(感心している場合じゃないのだ)
そうだね。
ということで、俺も正面のゴブリンFを仕留めに掛かる。こちらの攻勢を気配で読んだゴブリンFが槍を引き戻して防御に入ろうとするが、その柄を太刀[幻光]がアッサリ両断。そのまま、脳天から下顎まで、唐竹割りに断ち割った。
俺はそのまま視線を右へ動かす。
視線の先には接近しつつある新手集団、コボルトチーフとリーダー、及びメイズハウンドが2~30匹。距離は10mまで詰まっている。どうするか? 諸橋班長の真似を【水属性魔法】でやってみるか? そんな発想になる。だが、これは必要なかった。
「奥の大物を狙って撃ってみて!」
「わ、分った!」
「効くのかよ?」
「やってみよう!」
不意に聞こえて来たのは朱音と数人の隊員のやり取り。ついで、
――バババンッ、バババンッ!
と連続する発砲音が響く。すると、
「えっ……まじ?」
思わず声が出るような結果になった。
射撃の狙いは新手モンスターの後方に位置するコボルトチーフとリーダーの2匹だった。ただ、これまでの射撃では「メ弾」だったとしても数十発集中射撃しないと斃せない敵だ。それが
「なんで!」
と言うのは諸橋班長。その声に岡本さんの、
「喰らえぇ!」
という怒声と、ゴツンと鈍い打撃音が重なった。ちなみに、ゴブリンKは今ので頭を潰されて斃されていた。
*********************
12層、諸橋班+チーム岡本が受け持った通路の戦闘は、その後朱音の号令(?)による斉射が4度続いて終了となった。新手集団の最後に現れたゴブリン(お替り)集団に至っては、障害物手前5mの地点で、一度も武器を交える事無く殲滅された。
突然89式小銃の威力が増加した感じだ。当然、
「嶋川さん、どういう事ですか? 一体何をしたのですか?」
という諸橋班長の質問になるが、対する朱音の答えは、
「この属性が付与できる矢筒に弾倉を突っ込んで5分待ったんですよ」
とのこと。[小金井メイズ]の12層で攻撃力不足に悩んだ時に朱音が思いついた案と同じ発想だった。あの時は他のメンバーの矢を一緒に矢筒に保管して、風属性を纏った矢を全員が撃てるように工夫した。今回は、矢ではなく弾丸で試したとのこと。
「上手く行って良かったです!」
本人は親指を立ててポーズを決めつつ、そんな自慢気な顔を俺に向けてくる。まぁ、素直に凄い発想だと思う。それに、思いついてから実行するまでの行動の早さが朱音らしいともいえる。だから、
「すごいな。それで、さっき隊員の人と何か言い合っていたのか」
という風に言う俺。対して朱音は、
「そうなんですよ……ってコータ先輩気が付いていたんですね。もしかして焼き餅ですか? やだ~そんな心配いらないですよ~」
相変わらず少し意味の分からない事を言う。なんで焼き餅になるんだろう? お正月だから、餅なのか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます