*太磨霊園レイドアタック⑯ 行動方針


 以前、といっても1週間も前の話ではないが、[小金井メイズ]の消滅作戦時、12層は一つの壁だった。11層からモンスターの質(特にタフさ)が変わる気配はあったが、12層でそれは顕著になり、更に数の増加という要素が加わる。その結果、攻撃力を増加させるという解決策を見出すまで、当時のメンバーは苦しい戦いを強いられた。


 今回、[太磨霊園メイズ]作戦の主役である自衛隊のメイズ教導隊も、同様の問題を抱ええることは道理だった。[チーム岡本]が同行した諸橋班は、朱音の持つ属性付与矢筒を用いて「メ弾」に風属性を付与する事で攻撃力不足を補うことが出来たが、他のPTと班はそう上手く事が運ばなかった。


 それは、12層の割り当て通路を踏破してスタート地点である階段前へ戻った時点で明らかだった。


*********************


 12層降り口前の少し広い部屋に戻った[諸橋班+チーム岡本]は、


「もどったか」

「大丈夫だったか?」

「ああ、無事でよかったです」

「ほんの少しだけ心配しましたわ!」


 そんな、田丸隊長、城崎副隊長、[TM研]春奈ちゃん、[月下PT]月成凛の言葉に出迎えられた。皆一様に安心したような表情を見せているが、基本的に表情は暗い。まぁ、その理由は彼ら彼女らの背後の光景 ――床に横たえられた6人の負傷隊員―― の姿で想像が出来る。


「そっちこそ、どうしたんだ?」


 思わず、といった風に訊き返す岡本さん。まぁ理由は察しが付くけど、「やっぱり」という内容の言葉が返って来た。


「攻撃力が足りない感じで――」と春奈ちゃん。

「無理に出しゃばるからですわ」と月成(言い方!)。

「至近戦闘を試し過ぎた」と、自身も頭に包帯を巻いている城崎副隊長。

「引き際を見誤った、というところだ」田丸隊長は悔し気だ。


 結局「メ弾」頼みの射撃と(言い方は悪いが)付け焼刃な至近戦闘では12層のモンスターに完全に対処することが出来なかった、ということ。それで、各班に同行した[TM研]や[月下PT]が奮戦して、なんとかスタート地点まで戻って来た、という事だった。


 ちなみに怪我人は[月下PT]のポニテ美女こと神谷さんが【回復魔法:下級】で治療を施したそうだが、[魔素力]的に全員を回復させることは出来ず、現在は数人の怪我人を残しつつ、魔素力回復待ちとなっている。


「私も手伝います」

(吾輩もこっそりお手伝いなのだ)


 【手当】スキル持ちの朱音が申し出て、それに【回復(省)】持ちのハム太がこっそり加わる形で、手当待ちの隊員へ取り掛かる。


 一方、他の面々は「これからどうする?」という内容の話し合いになる。


 ちなみに13層へ降りる階段の場所は特定されており、それは[田丸隊長班+TM研]が向かった中央の通路奥となっている。ただし、そこへ至る行程は途中撤退した結果、モンスターが掃討クリアされていない。また、時間的にも後30分ほどでリスポーンが始まるタイミングだ。


「残弾は意外と残っているな」

「小銃手が従来の半数ですから」


 そんな田丸隊長、城崎副隊長のやり取り。小銃手以外の隊員も全員が30発入りの予備弾倉を6~8個を携行しているが、消費した弾薬は全体の4分の1から3分の1程度だという。弾の消費が一番少ないのが諸橋班で、一番多いのが田丸隊長班。奇しくも負傷者の多寡と一致する。


 まぁ、田丸隊長班の面々は自分達のボス田丸隊長が同行したものだから余計に気合が入ったのだろう。それに、現役大学生PTの[TM研]が同行したのも理由かもしれない。[月下PT]も現役大学生だが、あちらはどうも大学生らしくない。それに比べて、何処にでも居そう・・・・・・・・な[TM研]の面々を前に、「こいつらを頼るなんて出来ない」と思ったものか、はたまた単純に良い恰好をしたかったのか。


 とにかく田丸隊長班の弾薬消費と負傷者が一番大きかった。


 とまぁ、それはさて置き、メイズ教導隊側の話し合いは続いている。


 「至近戦闘手はスキルを習得するべきと思います」とは諸橋班長。これに他2人の班長も同調したが、


「それは許可出来ない」


 という田丸隊長の結論は変わらない。まぁ、これくらいで変わるなら、とうの昔に内規が変わっているだろう。


 ちなみに「スキルの譲渡を受けた」と馬鹿正直に申告した諸橋班長は(それもあってスキル習得を主張しているのだが)、それに対しては特にお咎め無しだった。むしろ、


「貴重な物を分けて頂きありがとうございます」


 と、田丸隊長が俺達にお礼を言う格好になった。それで、


「君達はどう思うか?」


 と城崎副隊長がこちらに話を振って来た。「どう思う」とは、これからどうするか? という事に対して。早い話「もう一度12層に挑戦するか?」「それとも10層に帰投するか?」という2択だ。


 3つの班の班長は2対1で「先に進む」という意見の割れ方。「先に進む」という意見なのは途中撤退を強いられた田丸隊長班と城崎副隊長班の班長になる。「メ弾に余裕があるのだから、再挑戦するべき」や「至近戦闘にもっと習熟する必要がある」ということらしい。


 それで意見を求められた俺達[受託業者]だが、その答えは何となくこれまで同行していた班の意向を忖度そんたくする感じになってしまった。[TM研]の春奈ちゃんは、


「習熟することは無駄じゃないと思います」


 と答え、[月下PT]の月成凛は、


「努力は必要ですわ、それに怪我人が出ない戦い方が出来るようになってもらわなければ、ウチの麻美が持ちませんわ!」


 という返事になる。


 一方[チーム岡本]は、


「スキルを習得しないなら、戦闘に習熟といっても……なぁ……」


 という岡本さんの言葉。この時点で「先に進む」に4票入っているから、もう俺達の意見なんて意味が無い気がするけど、だったら、


「12層で無駄に消耗するよりも、13層を目指しましょう。それで14層へ続く階段の場所を特定すれば、残すは14と15層です」


 と言ってみた。ちなみに俺の意見の主旨は、スキルを取らないなら習熟といっても「慣れ」と[修練値]以外に伸びしろ・・・・が無い。だったら、先へ進む事を考えた方が良い、という意味。メイズ教導隊彼等は別に[太磨霊園メイズ]内で訓練をしている訳ではない。このメイズを消滅させることが任務のはずだ。だったら、先を目指すべきだと思う。


 それで結局の結論は、


「12層をもう一度繰り返し、その後13層へ行く。遠藤君の言うとおり、13層で下へ降りる階段を見つけることが肝要だ」


 という折衷せっちゅう案になってしまった。ちょっとだけ、余計な事を言ったかな? と後悔する。


 だが、俺がどう言ったとしても、この後の展開はさほど変わらなかっただろう。


*********************


 休憩後の12層再挑戦で、各班ともに踏破を終えた。2度目の挑戦は1度目と比較して怪我人の数は半数。ただし、銃弾の消費はその分多くなった。その結果、2度目が終わった時点で残弾は最初から見て約半分にまで減ることになった。


 30発の弾倉を各自が6~8つ携帯しているから、装填済みを合わせれば全部で約13,000発を持ってスタートし、12層踏破時点で7,000発ほど残っている計算だ。ちなみに10層の補給拠点には10,000発の予備がストックしてあるとのこと。少ないような気もするが、1層へ補給物資受け取りのために向かった2班が約8,000発を持っているから、そんなものなのだろう。


 それで始まった13層だが、これは最初の通路選びの段階で、飯田の【直感】スキルを頼りに14層へ続く階段がありそうな通路・・・・・・・を選ばせてもらった。その結果、13層では降り口から左へ続く通路を[諸橋班+チーム岡本]は進むことになる。


 俺達の班は諸橋班長とも協議の結果、戦闘方法を変更している。最初に班の小銃手が一斉射するのはこれまで通りだが、その後の戦闘は[チーム岡本]を中心に展開することにさせてもらった訳だ。その結果、諸橋班の至近戦闘手はバックアップに回る事で、適度な強度の戦闘を経験することが出来る。また、俺達も諸橋班も性質の異なる集団同士の戦闘連携を積む事ができた。


 その他には、例の朱音の属性付与矢筒の威力もあり、13層の探索は順当に進む。特に13層から出現するゴブリンSHシャーマンや【眷属強化】持ちのコボルトリーダー、相変わらず厄介なゴブリンアーチャーを初撃で斃す事ができる点は速射・連射・精度に優れる小銃の利点だろう。これにはハム太も、


(う~ん、属性付与系の道具にこんな使い方があったとは……驚きなのだ)


 とのこと。あちらの世界・・・・・・では、メイズ用の武器として銃器は早々に見限られたため、こういう使用法が発想されなかったのだろう。


 とまぁ、そう言う感じで13層の左通路を踏破した[諸橋班+チーム岡本]は、無事14層へ降りる階段を発見。その後は引き返して他の班と合流。他の班の消耗が激しいため、こ

の日はそのまま10層へ帰投することになった。


 そして、10層へ戻った俺達を待ち構えていたのは、補給に向かった2つの班が持ち帰って来た、余り歓迎できない情報だった。


「なんだって!」


 その情報に、これまで厳ついながら温和を保ってきた田丸隊長が、この時ばかりは怒声を上げた。



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