*太磨霊園レイドアタック⑭ 12層「メ弾」の限界?


 [小金井メイズ]の場合、12層は降りて直ぐがTの字に分岐していた。だが、今の[太磨霊園メイズ]の場合、12層降りて直ぐの場所は11層と同じ様な構造。少し広い部屋になっていて、そこから北・東・西の3方向へ通路が伸びている。


 [諸橋班+チーム岡本]はその内北へ伸びる通路を受け持つことになる。


 通路のサイズは12層から、[小金井メイズ]同様に6mと広くなる。ただ、メイズ教導隊的には余り驚きは無い様子。どうも、彼等が管理する中規模メイズや大規模メイズは、1層から通路の幅が6mになっているらしい。だから、


「むしろ、これまでの構造が狭く感じていたよ。我々としてはこれくらい通路が広いほうが助かる」


 とのこと。


 それで諸橋班長が言うには、通路が6mあると、左右両端の小銃手が中央へ向けてX字状に射線を引く事で、或る程度跳弾を避けて発砲出来るようになる、という話。これまでは8人の小銃手が4人x2列(前列が膝撃ニーリングで後列が立射スタンディング)で前方に向けて撃っていたが、以後は8人が1列になって射撃を集中させることが出来る、らしい。


 それならモンスターとの戦闘時、最初の銃撃フェイズで攻撃力が上がるな、と聞いた時は思った。だが、甘かった。どう甘かったかというと……


「くそ、犬っころのクセに!」

「射撃を集中させろ、1匹くらい斃せ!」

「本当にこれってメ弾なのかよ?」


 北側通路を少し進んだところで早速現れたのは例のスカウト偵察役ハウンド。丁度曲がり角を折れたところで「バッタリ」といった感じで遭遇した。数は3匹。距離は近く、5mほど。それで、前列を担っていた小銃手が一斉に89式を発砲したのだが、どうも効果が薄い。


 8人の射撃手から放たれる弾丸を3匹が受けるのだから、瞬発的に1匹辺り10発以上の弾を受けることになる。だが、余り効いた感じがしない。嫌がる素振りは見せるが、10発程度では斃れない様子。明らかに11層までののメイズハウンドとはタフさが違う。


「弾倉交換!」

「こっちもだ!」


 折り悪く、ここで数人の射撃手の弾倉が空に。その結果生じた弾倉交換リロードの僅かな時間、射撃が弱まる。そして、


――ウウォォオ、ウォォオオ!


 例の如く【遠吠え】が鳴り響く。


「真ん中の1匹に集中射撃!」


 と、ここで諸橋班長の具体的な指示。同時に弾倉交換を終えた射手が中央の1匹にバンバンバンッと狙いを集中させる。それでようやく1匹斃したが、残りの2匹は


――ウウォォオ、ウォォオオ!


 と再び【遠吠え】を発しながら、通路の奥へと逃げていてしまった。


「くそっ!」


 誰の物か分からない悪態が、遠吠えの合間に聞こえて来た。


*********************


 戦闘がひと段落してから聞いた所、諸橋班の面々は訓練指導任務でも、認定試験でも、先の[小金井メイズ]の時でさえ、10層以降に入ったことは無いらしい。また、通常の任務が浅い層での訓練指導だった都合上「メ弾」の威力の限界も良く知らなかったという事。一応、今日の出発前のブリーフィングでは「12層以降はメ弾の効果が落ちる」という話を田丸隊長から聞いていたが、実感を持ち合わせていなかった。


 とまぁ、そんな話は「失敗から得られる教訓」として次に生かして貰う訳だが、先ずは、今の戦闘を何とかしなければならない。


 場所は北側通路を進んでしばらくの場所にあるL字の曲がり角が2つ連なるクランク状の通路。


(クランクの先は少し長めの真っ直ぐな通路なのだ。それで、その先は少し広い部屋だと思うのだ!)


 というハム太の言葉を借りなくても、よくある構造・・・・・・だ。だから、


「直ぐにモンスターが集団で現れます。クランク出口よりも先に位置して後退スペースを確保しましょう」


 という事になる。それで、


「12層だろ、俺達も手を貸すぞ」

「それが良いです」

「っしょっしょ、しょうが(障害物を出します)」


 [チーム岡本]の面々も戦闘に加わる気になっている。


「じゃぁ飯田、射撃できるように工夫をよろしく」

「は、はひぃぃ!」


 俺は飯田にそんな風に言う。対して飯田の返事は(少し噛んだが)しっかりしている。どうも「案」は頭の中にあるらしい。ということで、


「前進します!」


 となる。


 左、右と折れるクランクの先には、大方の予想通り30mほどの真っ直ぐな通路。その先は左右の壁が見切れているから広間なのだろう。


 これまでの経験から言えば、広間からは幾つか通路が伸びているのが定石になる。通路の数は多くて4つ、少なくて2つ。スカウトハウンドは、各自がその通路に飛び込んで、中に居るモンスターを呼び寄せることになる。


「しょっしょっしょ障害物、だだ出します」


 と、ここで飯田が【生成:障害物Lv2】を発動。場所は通路を10mほど進んだところ。幅6mの通路にV字型の底が途切れた形状の障害物が姿を現す。1枚2mの壁が角度を付けて左右で2枚ずつ。壁の間には10cm弱の隙間が空いていて、朱音や諸橋班の小銃手が射撃を行えるようになっている。


「べ、便利だな」


 とは、突然出現した障害物を見た諸橋班長の感想。だが、今は感心している場合じゃないので、


「小銃手の皆さんを先ず障害物の前方へ」

「分かった、先ず、撃てるだけ撃って、それから障害物へ後退だな」

「それでお願いします」


 という事になる。何と言っても射程(狙って当たる距離)が100mを余裕で超える小銃だ。前方20mほどの通路でモンスターを迎え撃つなら、先ずは火力を集中投下してほしい。


 その意図は諸橋班長にも十分伝わっている(というか、彼の方が銃撃ではプロだ)。直ぐに8人の小銃手が障害物の前に陣取る形になった。ちなみに障害物の前には小銃手以外に、諸橋班長、俺、朱音、飯田が居る。


 俺と朱音と飯田は各自遠距離攻撃手段を持っているので、小銃手達の射撃に合わせて攻撃を行う予定。[小金井メイズ]の時の3PT合同[DOTユニオン]とは違い[チーム岡本]単独だから、継戦能力に少し不安がある。だから障害物の裏に隠れる前に数を減らしておこうという算段だ。


 と、ここで、


「来ました!」

「け、結構な数だな」

「大丈夫かな……」


 そんな声が隊員達から上がる。同時に、広間から大勢の立てる足音や装備が立てるガチャガチャといった音が響く。そして姿を現したのは、隊員達が不安気に成るほどのモンスター集団。その数は、今見えているだけで30以上。だが、恐らくもっと増える。


「引き付ける必要はない、1マグ分撃ちまくれ!」


 ここで諸橋班長が景気の良い号令を発する。一方、俺も、


「朱音【強化魔法】を、飯田は適当に」


 と、2人に伝える。まぁ言わなくても分かっていると思うけど、雰囲気だよ、雰囲気。それで、


「はい!」

「はっは――」

「てぇ!」


 2人の返事に諸橋班長の射撃号令が重なり、しばらく聴覚がお休みする時間になった。


*********************


 最初に出現したモンスター集団はゴブリンナイトを中心にしたゴブリン集団と、コボルトリーダーとコボルトチーフを中心にしたメイズハウンド集団。結局数は40ほどだ。その内、先鋒を務めたのはメイズハウンド20匹の集団。コボルトリーダーによる【眷属強化】の恩恵を受けていることは間違いない。


 対して「1マグ弾倉分打ちきれ!」と指示された諸橋班は、景気の良い射撃音を響かせる。8人x30発で240発分の弾が発射され、通路が一瞬白く霞むほどの硝煙が立ち込める。その結果、先鋒として突進してきたメイズハウンドの内、5匹ほどが脱落。しかし、10匹以上が健在で、元気良くこっちへダッシュしてくる。


 本来なら、奥の方に居るコボルトリーダーやゴブリンアーチャーを狙って欲しいところだったが、今回はその辺を伝えきれていない。射撃中に声を出しても絶対聞こえないから仕方ないとあきらめる。その代わり、


「アリアケノ、ツキコソオモエ、ワカレミノ、シモタツトテモ、モユルカマドビ、オンケンバヤケンバヤソワカ、ウーンッ!」


 耳元近くで(多分発砲音に負けないように)大声を上げて詠唱する飯田。発動するのは【飯田ファイヤー:火球バージョン】。そして、


――ブンッ!


 と鳴るのは朱音のリカーブボウ。


 2人から撃ち出された炎の弾と風の鏃は、白く煙る硝煙を切り裂き、メイズハウンドの頭上を飛び越し、通路の奥を目指す。狙いは、コボルトリーダー!


「――ッ!」


 発砲音の余韻で悲鳴は聞こえない。だが、朱音の矢を胸に受けて仰け反ったところを、上半身に【飯田ファイヤー】の直撃を受けたコボルトリーダーは、その場で燃え上がりながら転倒。ピクリとも動かない。


「諸橋班長、皆さん、後ろへ!」


 一方、俺は【能力値変換】「4分の1回し」を実行しつつ、射撃を終えた小銃手の前へ飛び出る。メイズハウンドとの距離は10mもない。十分な射程距離。ちょっと数が多いけど、何とかなるだろう。ということで「飛ぶ斬撃」を放つべく、鞘の太刀[幻光]を引き抜きざまに横一閃させた。


――ズバンッ!


 発砲音とはまた質の異なる轟音が生じ、不可視の斬撃が通路を疾る。結果、


「ギャンッ」

「ギャイン!」


 【眷属強化】の効果を失ったメイズハウンドの先頭2匹が「飛ぶ斬撃」をまともに受けて血飛沫を上げる。


 その後、2度、3度と[幻光]を振り回し、その都度生じる「飛ぶ斬撃」によって、モンスター集団の先鋒、メイズハンドは殆どが床に転がる。残った数匹も手傷を負って動けない状態。まぁ、初撃としては上出来だろう。


「コータ先輩、障害物へ! 早く!」


 とここで背後から朱音の声。俺は、


「分かった!」


 と声で応じて素早く身をひるがえす。


 というのも、先鋒メイズハウンドは何とかしたが、その後続としてゴブリン集団が接近しているからだ。その数は20匹以上。まだ、戦闘は終わっていない。

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