*太磨霊園レイドアタック⑬ 更に先へ!


 諸橋班長が繰り出したロマン攻撃、ガン+カタナ戦法。勿論、諸橋班長はロマンを表現するためにその戦法を取ったのではない。ピンチの隊員を守るために咄嗟に行ったことだ。だが、消音器サプレッサー無しの拳銃から響き渡った銃声は、その代償として11層左側通路のモンスターを呼び寄せてしまう。


 まぁ、根本的に自衛隊部隊の戦闘音は俺達のような[受託業者]の戦闘音とは比べ物にならない位大きい。幾ら消音器を取り付けたといっても、89式小銃はイヤーマフ無しだと聴覚に支障が出るような発砲音を発するのだ。諸橋班長云々うんぬんを言わなくても、やっぱり寄り集まって来ただろう、と思う。


 ただ、幾分「マシ」と言える点があった。それは集まって来たモンスターがコボルト系やスカウトハウンドが発する【遠吠え】の効果を受けている訳ではない、ということ。やって来たモンスターは「ちょっと気になった」風に様子見に来て、そのまま自衛隊部隊を発見して戦闘モードになる。そんな感じだから、俺達が小金井メイズの12層で経験したような「メイズハウンド・コボルト系もゴブリン系もオーク系も混ぜこぜ」なラッシュにはならない。


 三々五々、多くて10匹程度のモンスター集団がやって来ては、小銃による射撃で数を減らされて、至近戦闘で殲滅される。その間には、コボルトチーフといった【遠吠え】持ちのモンスターも出てくるが、その場合は、


「【遠吠え】持ちに射撃を集中させてください」


 ということで、小銃手の狙いを【遠吠え】持ちに集中させてラッシュ発生を未然に防いだりもする。ちなみに11層のコボルトチーフなら「メ弾」を20発ほど浴びせれば戦闘不能にすることが出来る。「メ弾」の威力はそんな程度だが、射撃を集中させることで【遠吠え】を発する暇を与えないようにすることが肝心だった。


 それで11層左側通路の戦闘は一旦終息する。時間にして30分ほどで、斃したモンスターは60匹ほど。その間、切れ間なくモンスターと戦っていたことになる。その結果として、足元にはジャラジャラと空薬莢やっきょうが散乱していて、その合間にモンスターのドロップ品が転がっている光景が残る。


 ちなみに、薬莢や弾丸は1日も経たない内に風化して消滅してしまうそうだ。って、スキルジェムがあるじゃない! それも2個も!


「みなさん、ドロップは持って行ってくださいね」


 というのは諸橋班長。有難い話だけど、正直な所、ちょっと気が引ける。というのも、[チーム岡本]は途中で朱音が【強化魔法:中級Lv3】を2度発動させたり、危ない場面で岡本さんがターゲット逸らしのために【挑発】スキルを発動しただけで、後は見ているだけだったから。


「気にしないでください。我々が持ち帰っても、どうせ没収されるだけです。給料が上がる訳でも評価が上がるわけでもないですから」


 思わず遠慮する岡本さんや俺に対して、そう答える諸橋班長の顔は、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ皮肉めいていた。


 結局、


「じゃぁ……あ、そうだ、メイズストーンはコータのナントカ鞘を使って強化に回したらどうだ?」と岡本さん。

「それ、良いですね」と俺。

「ポーションも、使い切る気持ちで行きましょう」と朱音。

「すっすす、スキルジェムは?」と飯田。

(【戦技】と【手当】なのだ、【手当】は習得して損の無いスキルなのだ)とハム太。

「こっちは朱音が習得するとして、そっちは……諸橋班長が習得したら良いと思います」と俺。


 そんな感じになった。


 ドロップしたメイズストーンと刃喰鞘はぐろうそうを使って、至近戦闘手の武器を補修兼強化。ポーション類(といっても[回復薬:小]が2本)は今後の戦闘時の備えとする。そして、2つもドロップしたスキルジェムの1つ【手当】(加賀野さんが持っているスキルと同じやつ)は朱音が、もう1つの【戦技】は諸橋班長に差し出した。


「いや、そんな訳には」


 と遠慮する諸橋班長。それでしばらくスキルジェムを押し付け合う問答になったが、


「戦力の強化は全員の安全に繋がりますよ」


 という俺達の説得と、


「任務中に我々が収拾したドロップの使用は内規で禁止ですが、この場合拾ったのは岡本さん達ですよ」

「譲られた物の使用までは禁止してない筈ですよ、班長」


 という班のメンバーの説得を受けて、


「じゃぁ……」


 という風になった。それでスキルを習得した諸橋班長だが、


「うぉ! なんだ……【戦技(刀)Lv2】って」


 という事だった。朱音の時みたいにLv2スタートなんだねぇと感心する。まぁ、【戦技】スキル無しでも11層のモンスターと渡り合っていたから、さもありなん・・・・・・か。


 その後、諸橋班は残弾数の確認を行う。怪我人として軽傷者が数人出ていたが、これは朱音が習得した【手当Lv1】が早速活躍した場面だった。その間、朱音に連絡先を訊く隊員が居たが、


「そんなの、教えませんよ」


 と、アッサリ、キッパリ、断られていたりする。


*********************


 一通りの準備を整えた[諸橋班+チーム岡本]は、その後11層奥の探索を進める。小金井メイズの時のように、11層はモンスターが少ないようで、各通路の奥にはスライムがプルプルしているだけだった。ただ、対スライム用の木太刀はハム太の【収納空間(省)】に入っている状態だから、「スライム叩き」はお預けになる。ちょっと勿体無い気がするけど……流石に、今まで持っていなかった木太刀を突然振り始めたら、幾ら自然に振る舞っても不自然過ぎる。


 そのため、スライムは見送りつつ「アレのドロップは結構おいしいんですよ」という話になる。対して諸橋さんは「へぇ、スライムって斃せるんですね」という発言。どうも、メイズ教導隊はスライムを「攻撃してはいけない対象」という事にしているらしい。


 自衛隊がメイズ探索を始めたばかりの頃、試しにスライムを撃ってみた隊員が大怪我をしたことが原因とのこと。まぁスライムは物理的な力を反射するから、銃弾を撃ち込んだら、撃った弾がそのままの勢いで隊員に跳ね返って来たという具合だろう。浅い層で隊員に[魔坑外套]の恩恵が殆どない状態での事故ならば、撃った弾の威力をもろに受けるのも当然。「大怪我で済んでよかったね」な話だ。


「表面を焦げさせると反射する力が弱まるんですよ」


 と説明する俺は「試しにどうぞ」と言ってみるが、結局諸橋班の全員がスライムに手を付けなかった(因みに岡本さんも「フランジメイス2号」が痛むから嫌だ、とのこと)。勿体無い……。


 そんな感じで11層左通路の探索は12層へ降りる階段までの道順の安全を確保して終了する。その後は11層の降り口に一旦戻り、各班と合流することになった。


 合流後は、各班が残りの弾数を申告し、軽く戦闘内容を報告する。結果として「メ弾」の消費量が従来の4分の1以下で済んでいる事、そして、至近距離での戦闘が予想以上に効果を発揮していることが分かった。


「リスポーンまで40分ほどですが、田丸隊長、どうしますか?」


 とは城崎副隊長(3佐)。対して田丸隊長は、


「まだ時間も早い。12層に挑戦しても良いだろう」


 と答える。まぁ、感覚的にはメイズ教導隊の訓練に付き合っている感じになっていたけど、よくよく思い返してみれば、今は[太磨霊園メイズ消滅作戦]の真っただ中だ。15層に到達してメイズコアを不活性化させることが、最終目的になる。それが終わらなければ、外の里奈達はずっと補給輸送作戦を行うことになるし……そもそも、俺達も外に帰れない。


 まぁ帰れない事はないだろうけど、中途半端に放っておいて「はいサヨウナラ」はちょっと気分が悪い。それに岡本さんや月成あたりは承知しないだろう。だったら、早く終わらせるために、もっと積極的に手を貸すほうが……。


 そんな事を考えながら12層へ続く階段を目指す。ただ、12層以降では、そんな考えが無用だと気付いた。というのも、状況は選択の余地無く「手を貸さざるを得ない」ものになったからだ。


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