*太磨霊園レイドアタック⑫ ガン+カタナ=ロマン!
「メイズ徽章」という物がある。初級、3級、2級、1級と階級が上がる自衛隊の任務徽章の事だ。その内「初級」については、メイズ教導隊指導下で一定期間の訓練をこなせば取得できる。訓練を受ける陸上自衛隊員の殆どは、この「初級」を持って原隊に帰ることになる。だから、一般的には「メイズ徽章=初級章」なのだという。
一方、3級以降の徽章については、別の認定試験があるとのこと。諸橋班長の説明では20人編成の班3つで、7日分の食料と銃弾を持ち5層へ到達、そこで4日ほど野営をしつつ4層や6層の探索任務を行い帰投すれば「3級メイズ徽章」が得られる。同じような装備で10層に到達すれば「2級」15層に到達すれば「1級」と認定されるようだ。
――ほんのちょっとだけ給料が上がるんですよ――
諸橋班長はそんな風に言っていた。果たして、「ほんのちょっと」がどれくらいの昇給なのかは分からないけど(多分大したことはないと予想出来る)、聞くだけで可成りハードな認定試験だということが想像できる。
まぁ、5層と10層の「
それで今、10層拠点で田丸隊長から新年の訓示を受けている隊員100余名の内8割は「メイズ徽章3級」なのだという。2級を所持しているのは残り2割となる。ちなみに「1級」所持者は厳密に言えば「ゼロ」だが、それでは教導隊の格好がつかないということで、現在療養中の「エース班」15人に1級徽章が与えられているということ。
ただ、ハム太に言わせると、今この場に居る面々は、
(大体、平均して[修練値]が450くらいなのだ!)
とのこと。流石に田丸隊長や城崎副隊長(3佐)はキャリアが長い分だけ数値は高いが、他はメイズ徽章の等級に関係なく同じ程度だという。ただ、昨日1層から10層まで同行した3班60人は他よりも50程度[修練値]が高くなっている。至近距離における戦闘の効果なのだろう。
(さて、今日からの戦闘でどれだけ上がるか、楽しみなのだ)
完全に上から目線のハムスター。或る意味
(へけ?)
だから、それは止めろと言っている。
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2021年1月1日、「1年の計は元日にあり」というが、今日の計画はとにかく12層突破だ。それは「目標であって計画ではない」というツッコミは無しに願いたい。だって、田丸隊長が訓示でそう言っていたから。流石にあの雰囲気にツッコミを入れる度胸は無いよ。
一方、そんな目標に対して全員で「ワーッ」とかかるわけにはいかない。補給物資を運び込む人員が必要になるからだ。そのため、昨日同様2班40人を1層へ差し向け、残りの3班60人で下層を目指す事になる。
「下層行き組」の3班は、諸橋班を含む面々。昨日1層から10層へ物資を届けつつ至近距離戦闘をこなした班になった。この人選は城崎副隊長(3佐)が月成凛の持つ【見極め】スキルを頼った結果だ。[修練値]が他より50程高いというハム太の【鑑定(省)】と同じ様に、月成の【見極め】スキルもそのメンバーが他より少しだけ戦闘力が高い、という結果を出した。
その結果、ちょっとだけ揉めた。まぁ、昨日10層に残っていた2つの班は「2級」を含む現時点での精鋭班だった訳だから「なんでお前らが」という事になるのは分かる。ただ、
「昨日は受託業者さんの介添えがあった、ただ、今日は無い。無い中で独自に至近距離戦闘に習熟する必要があるのだから、2級所持者を含む君達の班が行くのが合理的だろう」
という田丸隊長の言葉で落ち着いた。まぁ上手い事言うものだと思う。100人を超える人間の集団を掌握するというのは、バカには出来ない仕事だな、と妙に感心する。
(100人を掌握できる者が1000人を掌握できるとは限らないのだ、また、万人を掌握できる者が100人を指揮できる訳でもないのだ)
ふうん……で、何が言いたいの?
(いや、思いついた事を言ってみただけなのだ)
……そうだと思った。
とまぁ、行動開始前に少しだけ悶着したものの、結果は決定通り。という事で「下層行き組」が10層を出発したのが9:30だった。
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行動の組分けは昨日と同じ。今回から田丸隊長も同行するが、田丸隊長は[TM研]が同行する班に加わっている。なんでも娘さんが太摩国際大学の生徒ということで、TM研と同じ大学に通っているらしい。その縁(?)で、そういう事になった。
携行する装備品は昨日と変わらないが、使用する弾薬は今日から
「前方、ゴブリン集団です!」
と、斥候役の2人が通路を駆け戻って来る。場所は11層入って左側通路を進んだ先の少し開けた広間。そこから伸びる3つの通路の1つから斥候役が駆け戻って来た。
「小銃手前へ、大事な弾だ、外すなよ!」
これに応じて諸橋班長が指示を出し、小銃手8人が前へ出る。その列に2人の斥候役が飛び込むのとほぼ同時に、通路から姿を現したゴブリン集団の数は15。ゴブリン
ちなみに11層に出現するモンスターの種類は9層と変化が無い。ただ、
「セミで5発、3発を敵前衛、2発は奥のアーチャーを……てぇ!」
号令と同時に89式小銃が火を噴く。相変わらずの発砲音と共に撃ち出された「メ弾」は最初の3連射で手前ゴブリンS4匹とゴブリンF2匹を斃す。そして、3匹だけのアーチャーに残りの2連射が集中した結果、2匹を斃すことが出来た。ただ、合計40発撃ったにも関わらず、総数15匹のモンスターを全部仕留め切る事が出来なかった。これが「メ弾」の威力らしい。
「至近戦闘手、左側から前へ、小銃手は右から奥のアーチャーを狙え」
結局、こういう構図になる。そして、2人の盾持ちを前面に、自衛隊員10人が残りの6匹と至近武器で衝突。ただ、それなりに手傷をばら撒いているため、
「今度から【強化魔法】使いますね」
とは朱音。それが良いと思うので賛成の意味を込めて頷く。
一方、戦闘の方は射撃を継続した2人が何とか残ったゴブリンAを沈黙させる。一方、混戦となった至近戦闘側は、2人の盾持ちを中心に5人2組に分かれて武器を振るっている。そんな中、
「うわぁ!」
手負いになったゴブリンSが後ろにいたゴブリンFに突き飛ばされ、それが体当たりの格好となり、盾持ち隊員1人が姿勢を崩して転倒。そこに続くSとFの2匹が錆剣や手槍を突き込む。ゴブリンSが持つ錆剣の方は、他の隊員が寸前で叩き落としたが、Fが持つ手槍には対処が遅れ――
――パンッ、パンッ、パンッ!
と、ここで3発の乾いた銃声。見ると、咄嗟にレッグホルスターから拳銃を抜いた諸橋班長が、至近距離からゴブリンFへ発砲していた。装弾は「9mmメ弾」。少数だけ用意されいた拳銃用の「メ弾」だ。それを至近距離で受けたゴブリンFは斃れないものの怯んで後退。中途半端に突き込まれた手槍の穂先は、倒れた盾持ち隊員の左腿を浅く切り裂く程度で済んだ。
「イヤァ!」
対して拳銃を発砲した諸橋班長は、後ずさったゴブリンFの間合いにつけ込み、左手逆手に持ったカタナソード[夕立]を、そのまま横薙ぎに一閃。
ピッ――
と鋭い風切り音が鳴り、剣先はゴブリンFの仰け反った喉元を真一文字に切り裂いた。
左手で器用にカタナを操るなぁ、と感心するが、後で聞いたところ諸橋さんは剣道でもレアな「二刀流」の使い手とのこと。試合ではそれほど強くないらしいけど「ロマンでしょ」とのこと。確かに、と納得する。だって「拳銃+カタナ」ってちょっとカッコイイ。男の子のロマンだよ。
この後、
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