*太磨霊園レイドアタック⑪ 10層到着、現状確認
[太磨霊園メイズ]に入ったのが午前11時前。そこから、補給物資と至近戦闘用武器を運びつつ、また、至近戦闘用の武器を交えた戦闘方法を試行錯誤しながら進んでいく。
ちなみにメイズ迄の行程は昨日と同じ。但し、諸橋班+俺達3PTを運ぶため、補給輸送部隊の車列は倍になっていた。里奈といえば、そんな車列の護衛作戦に掛かりっきりで流石にメイズ内に入って来ることは無かった(本人は付いて来たそうにしていたけど)。
後は蛇足かもしれないが、今日の補給輸送作戦中はモンスターによる待ち伏せ等は発生しなかった。昨日の作戦で強いモンスターを粗方始末したため、モンスター側の「経験の蓄積」がリセットされたからだろう。だから、当分は危ない事にはならないと思うけど、心配と言えば……
(コータ殿は妙に心配性なのだ、里奈様にはハム美が付いているのだ、大丈夫なのだ)
まぁ、大丈夫だと思う事にしよう。一旦メイズに入ってしまったんだ、心配するべきは今の自分達と今後の展開だ。
(そうなのだ、慢心は足元を掬うのだ)
ハイハイ、そうですね。ってハム太、いつの間に魔石状態から戻ったんだ?
(そろそろ10層なのだ?)
ああ、そういうことか。と思って腕時計を見る。時刻は18:30前。約8時間とちょっとで10層まで到達したことになる。思った以上に順調に進んでいる。今日の目標は
「至近戦に習熟しながら、物資を運んで10層到達」
となっているから、そろそろ目標達成だ。最後まで気を抜けないが、今までの戦闘を振り返る余裕は出てくる。
行程が順調に進んでいるのは「流石自衛隊」と言うべきところだろう。組織として(主に法整備や補給の面で)頼りないところもあるが、隊員個人の能力は中々に高い。それに加えて、城崎3佐の采配で、
「1班20人全員に至近武器は行き渡らない。しかも89と至近武器を両方持って、持ち替えて戦闘するのも非現実的だ。だから、班を半分に分ける」
と決めたことにより、各戦闘がスムーズに進んだ。
まず、武器の数に関してだが、50振りの剣やら槍やら斧やらを準備しているが、現在メイズ内に居る教導隊の隊員は全部で(
次に武器の性質だが、各自が装備している89式小銃は
バンバンバンと撃った後に武器を持ち替えるまで時間が掛かり過ぎてしまう。下手をすれば銃を保持するスリングが身体に絡まったり、銃口が地面や隣の仲間にぶつかったりする。「銃剣」での攻撃を「銃が壊れるから」という理由で禁止しているほど89式小銃を丁寧に取り扱う自衛隊員的に、これはどう考えてもNGだった。(ちなみに銃剣禁止は他にも着剣に時間が掛かるとか、狭いメイズ内では仲間に当たって余計に危険、ということも理由らしい)
とにかく、そういう要素があるため、1班20人を10人の小銃手と10人の至近戦闘手に分けるという城崎3佐の判断は結果として良かった。
先の7層での戦闘でもそうだったが、小銃の射撃でモンスターにある程度のダメージを与えた上で至近戦闘に持ち込む、という定番の流れが出来た。また、ゴブリン
その結果、「1日で10層までって大丈夫かな?」という俺達[
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「色々とご協力に感謝いたします」
10層で俺達を出迎えたのは、そんな言葉。発したのは田丸2佐という人物。メイズ教導隊の隊長で、城崎3佐の上司と言ったところ。40絡みのガッシリとしたおじさんで、城崎3佐と2人並ぶと兄弟のように見えてくる。
「田丸隊長、本日10層までの行程を『メ弾』を使わずに踏破しました――」
とは、城崎3佐の報告。彼の報告は至近武器を使用した戦闘が有効であったことを強調するような内容になっている。また、至近武器の調達に多大な貢献をした
そんな感じの報告だったから、月成凛はお決まりのように
「そんな事は造作もありませんわ」
などと言っているが、ちょっと小鼻が膨らんでいるところを見ると
一方、報告を受けた田丸隊長は、
「こんな年末時に申し訳ないが、皆さんには出来ればこのまま協力を続けて欲しい」
と言って来た。なんでも、
「もう城崎から聞いていると思うが、現在我が隊の状況は1線級のエース班を欠いた状況だ。どう頑張っても12層以降へ進む事が出来ない。この状況を打破するため、至近武器を取り入れた戦闘方法のお手本になって頂きたい」
とのこと。更には、
「ドロップ品に関しては、
と迄言った。流石に、今日までに拾い集めた分を差し出すことは規則的に無理だが、明日以降の分は「勝手に拾って持って行ってどうぞ」という事らしい。う~ん……美味しい?
「そういう事なら……」岡本さん、ちょっと口元がニヤってる。
「悪くないかと……」春奈ちゃん、あからさまに嬉しそう。
「力のある者の責務ですわ」月成凛、相変わらず。
ということで、
「わかりました」
「協力しましょう」
「当然の帰結ですわ」
という事になった。
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今日って12月31日だったんだね、と今更思う。場所は10層、宛がわれた屋根無しテントの一画だ。
去年の同じ日は確か、バックレたバイトの代わりに店舗のシフトに入っていたはず。確か、飯田も岡本さんも別々の店舗にヘルプに掛かっていた。そう考えると、仕事場(?)で年を越すのは余り特別な事ではない。寧ろ、
「カップ麺の蕎麦って、たまに食べると妙においしいですよね」
と言いつつ「緑色のヤツ」を啜る朱音が言うように、(カップ麺でも)年越しそばが食べられるだけ、今年は良いかもしれない。
「わたくし、初めて食べましたわ」
とは月成凛。彼女以下、お金持ちのご子息ご息女で構成される[月下PT]の面々は、彼女の言葉にウンウンと頷きながら、不思議そうに後乗せサクサクを割りばしで
「これは……天ぷらというよりもスナック菓子みたいだ」
「でも、意外と美味しいわよ」
とは神宮寺君と神谷さんの会話。その横ではサイドテール女子の工藤さんとヒョロガリ眼鏡の二宮君が「化学調味料のエグミが凄い」とか「舌に突き刺さるような味だ」とか文句を言っている。お前等、そのカップ麺を運んで来たのは自分達なんだぞ、と説教したくなるが、黙って蕎麦を啜る俺。
「そう言えば、皆さん年始のご予定は?」
と、唐突に切り出してきたのは月成凛。ほぼ全員が「いきなり何だ?」という表情になるが、当の月成凛は構わずに続ける。
「わたくしの実家が経営しているリゾートがあるのですが、よろしければご招待しますわ」
とのこと。確か月成の実家って学校法人をやっているけど、本業は土地開発のディベロッパーだったはず。バブル崩壊までは日本で3番目に大きなグループだったけど、バブル崩壊後は1番と2番が勝手に
「熱海の温泉リゾートなんていかがでしょう。冬ですし、温泉が良いですわ」
と、勝手に一人で話を進める月成だが、申し出の理由は、
「先日の小金井ではご迷惑をおかけしましたので、そのお詫びも兼ねてですわ」
とのこと。ああ、一応覚えていたんだ、と少し感心した。「些細な事ですわ!」とか言って忘れているのかと思ったよ。
結局、この月成凛の申し出は「考えておきます」ということになる。何と言うか、素直に「ありがとう、じゃぁお願いね」と言えないのは、こちら側よりも
そんなこんなの会話をしつつ、激動の2020年はメイズの中で暮れて行った。自動的に2021年をメイズの中で迎えることになるのだけれど、なんだか妙に先行きを暗示しているような気がして、寝付くのに時間が掛かったのは仕方がない事だろう。
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