*幕間話 内部事情


 空気読めない女王こと月成凛つきなりりんのリアル挑発スキル(?)が炸裂し、城崎3佐は自衛隊の、特にメイズ教導隊の内情を暴露する。内容は幾つかの要点に分かれるが、大別すると「戦闘方法の制約」と「拾得物に対する制約」の2つが主な内容だった。


 まず戦闘方法の制約だが、こちらは予算や訓練スケジュールなどが絡みつつも、ナカナカにヤバイ話だった。というのも、


「そもそもメイズ教導隊などという名前が付いて扱いは中隊という事になっているが、部隊の概要は精々小隊3個止まりなんだよ。そんな小規模部隊が高い実弾をバカスカ消費するんだ、それなりの名目が必要になる」


 出会ったばかりの時は少し慇懃な口調だった城崎3佐だが、今は見た目通りの野暮ったい口調になっている。そんな城崎3佐が言うには、メイズ教導隊の主旨は自衛隊が管理する中規模・大規模メイズの深層調査の他に「各部隊の近接戦闘訓練」というものがある、ということ。メイズの中という閉塞環境を利用してモンスターとの実戦を通して、近年各国軍隊で重要視されている近接戦闘の技量を上げることが目的だという。


 それで、2つの主な役割を比べると、どうしても各部隊の近接戦闘訓練に対する比重が大きくなる。こうしなければ、沢山の弾薬を消費する部隊活動に対して十分な予算が付かないから、というのが理由。その結果、メイズ教導隊は活動の大部分を訓練指導に充てざるを得ない。


 その一方で、(防衛省の?)上の方は同盟国アメリカよるメイズ深行に張り合うような節がある。現場にプレッシャーが掛かるそうだ。結局、一方では「予算が欲しくば訓練に付き合え」と言いつつ、その一方では「米国に負けるな」となる。これでは、小隊規模の部隊が持たない。苦肉の策として、一部の隊員を「エース班」として組織し、訓練とは切り分けて、より深い層への到達に向かわせる。


 「エース班」を作る背景はそんな感じだが、それでも、


「幾ら他の隊の訓練に付き合ったとしても、有り余るほどの予算が出るわけじゃない。自衛隊って組織は海・空偏重なんだよ……まぁそれは仕方ないが、とにかく、『エース班』を作ったとしても、まだ弾薬が十分だとは言えない」


 ということ。台所事情は結構苦しいことは分かるが、一国民としては「そんなんで大丈夫か?」と思わざるを得ない。だが、(スイッチが入った?)城崎3佐は止まらない。


「君達はもう見たかもしれないが『メ弾』という存在がある。アレの存在が弾薬不足に拍車を掛ける――」


 どうも「メ弾」(弾薬箱に「メ」とスプレー書きされたヤツ)の存在は防衛機密らしいが、そんな事よりももっと凄い内容を城崎3佐は語る。


「メイズの中に弾薬を保管することは、厳密に言えば法令違反だ。正攻法では不可能なんだ。でも、そうやって出来た『メ弾』は他の実弾よりも効果がある。これ無しでは7層以下に進めない、どうしても必要な品だ。だから、それを確保するためには訓練や実戦で消費したこと・・にして弾薬を確保しなければならない」


 勿論、部隊レベル・・・・・で出来る事ではないので、もっと上層部が関与している措置だ。だが、法治国家日本としては、結局、組織ぐるみで実弾の数を誤魔化していることになる。「そんなの、法改正すればいいだろ」と思うが、どうも政権与党は自衛隊に関する法改正に手を付けたくないらしく、現状の不法状態が改善される見込みはない。それで、


「左派系だと思うが、色々な市民団体が予算を監視している。そんな連中に尻尾を掴まれないためにも、メイズ教導隊は銃器を使い続けて『常に弾薬が足りない』アピールをしなければならない」


 のだそうだ。聞いていて切なくなってきた。


*********************


 武器使用に関しては弾薬確保のためにどうしても銃火器を使用し続ける必要があった。その一方、メイズ内での収拾品の取り扱いに関する制限については、また違った理由があった。それについては[受託業者]の影響も少なからず・・・・・あった。どういう事かというと、


「2018年、一部隊員による不祥事が発覚した。早い話がドロップ品の無断持ち出しだ」


 どうも、当時海外オークションにて高値で取引されていたスキルジェムを持ち出そうとした隊員が居たらしい。それで調べてみると、どうも10人以上の隊員が関わる組織的な持ち出しだったとのこと。


 事件は隊内で処理されたが、問題を重視した上層部はメイズに入る隊員への所持品のチェックを強化した。それと同時に「内部で収拾した品は原則として全て持ち帰る」という原則が再度徹底されることになった。


 メイズ教導隊が出来る前からずっと、自衛隊部隊がメイズ内に入るのは主に「調査」の名目だった。だから「内部で収拾した品はサンプルとして全て持ち帰る」という原則は当初から存在したものだった。だが、2016年から始まっていた・・・・・・自衛隊によるメイズ内部調査の途中、不注意や認識不足からスキルジェムを使用して[スキル]を習得したり、やむを得ずポーションを使用することがあった。寧ろ、それらによって調査活動が助けられていた側面もある。


 ただ、2018年の事件以降、そう言った事をすることが難しくなった。それでしばらくその手の事件は再発しなかったが、2019年に入り、今度は一部の隊員がスキルジェムを選別して積極的にスキルを習得していることが分かった。一部、突出して戦果を挙げる班の存在が明るみに出て、調査の結果、そんな不正(?)事実が明るみに出たという訳だ。


 ちなみに、どうやってスキルを選択したかというと、先にある隊員が偶然【鑑定】スキルを習得し、その人物が中心となって仲間内に有用なスキルを選んで覚えさせたとの事。そうやって選択的にスキルジェムを使用した隊員の大半は現在、メイズ教導隊の「エース班」に配属されているそうだ。ただし、数週間前に自衛隊管理の中規模メイズ15層で赤鬣犬レッドメーンにやられて、現在は療養中とのこと。


 ただ、【鑑定】を習得した隊員はメイズ教導隊の「エース班」に配属となる事を拒み、自らが習得した【鑑定】スキルを盾に内勤部署へ回る、という立ち回りをした。そして、最終的には、


「[管理機構]に引き抜かれていったよ……あんな奴がいたからこそ、隊としてはいよいよ収拾物の使用を禁止せざるを得ない」


 城崎3佐は苦い表情のまま言い捨てた。多分、俺達の[戦闘能力]を測った不愛想な男が、その「あんな奴」なんだろう。確証は無いが確信したような気持ちになる。


 一方、城崎3佐は尚も言葉を続け、


「そして極めつけは[管理機構]の買取りと公式オークションだ。数百万、数千万という大金に相当する品を一隊員に、現場の判断で与えて良いのか? などという声まで出る始末だ。とにかく、そう言うことだから、スキルジェムはおろか、ポーション類であってもよほど緊急性が無い限り隊員に使わせることは出来ない」


 と言って、「どうだ、わかったか」といった表情になる。対して、それを聞いている俺達は、あの月成凛でさえ、言葉が無い状態だった。


 全くバカバカしい理由だと思う。ただ、俺達[受託業者メイズウォーカー]と、城崎3佐以下の自衛隊員では、立場が全く違う。それに「バカバカしい」と感じた原因が城崎3佐にある訳でもない。寧ろ、そんな状況の被害者の一人だとさえ思う。そんな彼に非難や嘲笑を浴びせるほど、分別の無い人間は居ない、ということだ。余り何度も引合いに出すと可哀そうだが、あの月成凛でさえ、気の毒そうな表情になっているのが何よりの証拠だろう。


 一方、語り終えた城崎3佐は自嘲めいたひねた・・・苦笑いで、


「まぁ、内緒にしておいてくれ。それに、これからは変わると思う。現にメイズから魔物が外に出て危害を加えるということが実証された。それに、困った事に12層を過ぎると『メ弾』もそれほど有効ではないと分かった。だから私は君達[受託業者]のような近接武器の支給を訴えるためにメイズの外に出て来た訳だ」


 と言って締め括った。


「貴重な時間をありがとう、明日も補給任務があるはずだから、君達のことを頼りにしている」



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